このパンがすごい!

愛飲家の妄想から生まれた、ワインの魔力が息づくパン / HANAKAGO

夕暮れのカスクルート

夕暮れのカスクルート

■HANAKAGO(京都)

 なにを食べても、ワインを思う。サンドイッチを食べれば、この後、口に軽めの白を流し込みたいと願い、カレーパンを齧(かじ)れば、この痺(しび)れをボルドーの赤でぬぐいたいと発情する…こんなことってあるんだろうか。

 京都・烏丸御池近くの裏通り、町家風の建物にあるHANAKAGOのことだ。ここにはワインそのものを食べているようなパンだってある。ワインを練り込んだパン・オ・ヴァン。アルコールの魔力が息づいていた。ここと思えばもうあそこ、ぶどうフレーバーがとらえきれない変化に満ちて、もう一口を誘う。レーズンが弾ければぶどうジュースが追い打ち、さらに眩惑(げんわく)的に。こんなに口の中はぶどう感でいっぱいなのに、それでもやっぱり赤ワインを飲みたくなる。ここでワインを飲んだらいったいどうなってしまうんだろう。

花籠賀俊シェフ

花籠賀俊シェフ

 花籠賀俊シェフはワインが大好きな人だった。もともとパティシエをしていたが、ワインを探求するためにフランスの銘産地ブルゴーニュへ。レストランに飛び込み、働きながらワインの知識を深めた。

 「ワインも飲ませてくれたし、いろんな人に出会った。ワインのインポーター、ソムリエ、ドメーヌの息子。まかないも出たし、昼間っから飲んでました(笑)」

 キャリアを通じて磨いた舌をたよりに、ワインといっしょに食べる前提のパンを作っているのだ。

パン・オ・ヴァン

パン・オ・ヴァン

パン・オ・ショコラ

パン・オ・ショコラ

 ワインと一見関係ないように思える甘いパンも、シェフパティシエをかって務めていた花籠さんの得意領域。パン・オ・ショコラだって、シャンパーニュを流し込みたい気持ちにさせる。掟(おきて)破り。クロワッサン生地で包みこむべきバトンショコラがなんと底面にくっけてある。焦げちゃうじゃないか! と思いきや心配無用。ベルギー産ならではの芳醇(ほうじゅん)な風味が駆け抜けた。チョコレートの風味は焼き込むことで強められ、インパクトを増し、舌の上で濃厚にとろけるのだ。しかも、皮も濃褐色にじりじりと焼き込んで、ばりばり食感と濃厚なバターの香ばしさを実現。つまり、上と下で、フレーバーの同時爆発が起こる。

夕暮れのカスクルート

夕暮れのカスクルート

 今夜はこうして飲みはじめ、フィニッシュはこうまとめよう…そんな、酒飲みならではの妄想力が生み出したパンがある。「夕暮れのカスクルート」「夜のカスクルート」。家に帰ってまず一杯、というときに「夕暮れのカスクルート」を、晩酌の〆には「夜のカスクルート」を食べるのだという。

 生ハムとペコリーノチーズがバゲットにはさまった、夕暮れのカスクルート。チーズとハムがとろけあって両者の熟成感が相性を発揮、むんむんと口の中にあふれ、ワインをすすりたくて仕方なくなる。バゲットに使用される北海道産小麦キタノカオリはぷりっとした食感と、バターのような明るい甘さをこのサンドイッチに与えている。

 焼き込んだ細身のバゲットにサラミをはさんだ、夜のカスクルート。サラミのコクや肉々しさに合わせて、フランス式に塊を残すほどたっぷりバターが塗られる。ヨーロッパならではのその強烈さには、やはりパンチのあるフランス産小麦がうってつけ。がりがりと噛んでは、塩気のびりびりを口いっぱいに感じる。そのときだ。もう飲ませてくれなきゃ絶対イヤ! とだだっ子のようにじたばたしたくなるほど、赤ワインが恋しくて恋しくて仕方なくなる。

外観

外観

■HANAKAGO
京都市中京区室町通六角下る鯉山町516-4
075-231-8945
8:00~18:30
日曜休(他不定休あり)

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PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)
http://panlabo.jugem.jp/

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