このパンがすごい!

十勝をたっぷり味わって 北海道の老舗が東京に上陸 / 満寿屋商店

■満寿屋商店(東京都)

 日本の小麦の1/4を栽培する大生産地、北海道・十勝。そこに、小麦畑も備える日本一広い(といわれる)パン屋がある。満寿屋商店(ますやパン)。100%十勝産小麦を使い、その小麦を作った農家がパンを買いにやってくる究極の「顔が見える」ベーカリー。どんな人が、どんな土地で、どんなふうに小麦を作っているかまで知り尽くしたこの店が、11月29日、東京に上陸。十勝の小麦文化の中で培われたパンで勝負をかける。
 白き食パンにはさまれた、白きスパゲティ。これはなんだ? 十勝で多くの人に愛される、白スパサンドである。さわさわと沈み込み、やわらかな食パンがふにっと。そこにつづいて、ぷつぷつぷつとスパゲティが歯切れる快楽。スパゲティはナポリタンか? ミートソースか? いやマカロニサラダのごとく、辛子マヨで和(あ)えただけのもの。辛子の塩梅(あんばい)が絶妙。「辛い」というまで至らず、舌や鼻孔をつんつんする、イタ気持ちいい感じ。それをマヨネーズがまろやかに癒やす。なんというシンプルな味付け。飽食の世に逆に新鮮でなつかしい。
 食パンはもちろん、パスタもゆめちからと北海道産を使用。このように、満寿屋商店では小麦をはじめとする具材のほとんどは十勝産。食材の王国だけに、質のよいものがふんだんに使われる。
 とろーりチーズパンの衝撃。パンの上にどろーんと大量のチーズがとろけている。焼きたてをはふはふとかぶりつく。口にもっていくまでもなく、チーズのミルキーな香りがふんぷんと。その中に、牧歌的な田舎の香りがぷーんと香ったのは、十勝産ラクレットチーズ(十勝品質事業協同組合が製造)。口の中でとろける。ミルクの幸福で思わずにやける間もなく、パンが寄り添ってくる。外側かりかり、中身むちむち。全粒粉が効果的にブレンドされ、頼りがいあるブラウンの風味を滲(にじ)ませるので、チーズとのからみがいい。これはまさにスイスの郷土料理ラクレットをワンポーションで実現したパンなのだ。
 掟(おきて)破りの大量チーズパンはこうして作られる。「チーズを入れすぎると溶け出してしまう。なるべくたくさん入れるために二度焼きしています。チーズを中に入れて一度パンを焼き、さらに仕上げにチーズをかけています」と杉山雅則社長。
 あんばたサンドにも、どどーんと厚切りのバター。バター不足もなんの、十勝産のよつ葉バターを惜しげなく使用できるのも、満寿屋商店ならではだ。緑色のあんこから畑の風味がした。北海道産の青えんどうまめで作る「えんどうあん」。ときどき、つぶしきらないお豆がこりこり。そのまったりやさしい甘さに浸る暇も与えず、大量のバターがどろり口の中で溶け出し、オイリーさの洪水に身も心も持っていかれそうになる。バターをごくごく飲む背徳感。あんばたのバターがあんこより前に出ようとするのにははじめて出会った。
 このあんばたやチーズパンをおいしくしているもの。十勝産小麦のおいしさ。その明るい甘さはバターのようにミルキーであり、乳製品との相性が抜群なのだ。酪農王国十勝に育つミルク味の小麦。なんという天の配剤だろう。
 十勝の農家とともに歩んでいる。パン用の小麦は雨に弱い。収穫期に雨がふると畑で実ったまま発芽してしまい、製パン性が落ちるので小麦粉にはできない。一年の苦労が水の泡となり、農家は辛い思いをしている。それを救おうと、穂発芽したキタノカオリ(音更町の三浦尚史さん生産)を炊いて食パン生地に混ぜた丸麦ブレッドを作っている。地元の農家さんの努力を無駄にしないようにしようという連帯の印である。
 「うちの使命はおいしいパンを作ってお客さんと農家さんによろこんでもらうこと。東京で認められれば十勝が認められたことになる」
 熱い思いを秘めて、十勝の小麦を直接都会に届けるパン屋がやってきた。

■満寿屋商店 東京本店
東京都目黒区八雲1-12-8 鶴田ビル1階
03-6421-2604
10:00~19:00(水曜、年末年始休)
http://www.masuyapan.com/

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PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

http://panlabo.jugem.jp/

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