花のない花屋

兄の早すぎる死、そして母までも ひとり暮らす父へ

  

〈依頼人プロフィール〉
ホワイト ヒロミさん 39歳 女性
カナダ在住
主婦

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私が15歳のとき、4歳上の兄が交通事故で亡くなりました。それからというもの、父は17年間毎週、雨の日も風の日も、お花をもって兄のお墓参りに行っていました。兄のお墓は17年間一日たりとも花が絶えることはありませんでした。

やがて毎週のお墓参りが2週間に一度、3週間に一度となったのは、母の膵臓(すいぞう)がんがわかってからです。誰も予期していなかった母の病気。見つかったときはすでに進行しており、胃や腸も切除しなくてはなりませんでした。そして5年半の闘病の末、昨年10月に亡くなりました。父が47年間勤めた会社を退職した1年後のことです。

父は誠実、勤勉という言葉がぴったりな“昭和のオヤジ”です。エンジニア系の仕事をしていて、会社に行くこと自体が趣味だったので、余暇を楽しむという趣味はありません。でも、退職したら母と温泉旅行に行きたいなあ、と退職後の生活も楽しみにしていました。

父はいま一人暮らし。働いていたときは、家のことは専業主婦の母にまかせっきりで、洗濯機も使ったことがないし、キッチンに立ったことさえありませんでした。私はカナダ人の夫と結婚し、今はカナダに住んでいるので毎日どんな様子かわかりません。でも、父は慣れない料理をしたり、日常の中に楽しみを見つけようと頑張っているようです。週に1、2度、私や孫とスカイプで話す時間を心待ちにしてくれています。一人娘の私が遠い海外に嫁いだことはいまだ許せないようですが、孫のことが大好きでデレデレです。

兄の早すぎる死、そして母までも逝ってしまうなんて・・・。父はこんなにいい人なのに、なんでつらい思いばかりすることになるのだろうと思います。そばにいてあげたいけれど、いまは遠方から見守ることしかできません。この先、まだ長い父の人生がすてきなものになるよう願いを込めて、お花を贈りたいです。父を励ますというよりは、これまでの感謝と今後の人生を謳歌(おうか)して欲しいという気持ちを伝えるため、明るく元気の出るようなアレンジにしていただけますでしょうか。

父は真面目ですごくちゃんとしているので、育てられるものも入れていただけるとうれしいです。一人暮らしなので、毎日手をかけることが日々の楽しみ、生きがいになるはずです。

  

花束を作った東信さんのコメント

一人で生活されているお父様へ、これからの人生を謳歌(おうか)してほしいとの願いを込めた花束です。これまでの感謝と今後を応援する気持ちを伝えると同時に、お父様ご自身が前向きになれるように、明るめのトーンで生命力あふれる植物を中心にまとめました。

主な花材はネオレゲリア、シキミア、リューカデンドロンなど。鮮やかなグリーンのグラデーションです。写真ではあまり見えないかもしれませんが、後ろの方に挿したアーティチョークは、これからきれいな紫色の花が咲くはずです。中心には、サルノコシカケをアクセントに加えました。

また、誠実で勤勉な”古き良き時代の父親”といった言葉がぴったりのお父様とのこと。「真面目に手入れをして育てられるものを」というリクエストに応えて、エアプランツや多肉植物を入れました。全体的に長く持つアレンジですが、花が枯れた後も育てて楽しんでもらえたらうれしいです。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

兄の早すぎる死、そして母までも ひとり暮らす父へ

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


家族みんなのことを考えてくれる妹へ

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