このパンがすごい!

人気食堂から生まれた揚げない・焼かないカレーパン / ミカヅキ堂

薬膳カレー

薬膳カレー

■ミカヅキ堂(東京都)

 激戦区・三軒茶屋にまた一軒、新店が登場。カジュアルなイタリアン「ヨーロッパ食堂」がパン屋「ミカヅキ堂」を出した。具材はすべて自家製。ソースやマヨネーズに至るまで、ヨーロッパ食堂が作ったものが、すぐ目の前のミカヅキ堂に運ばれてパンになる。おいしい生地においしい具材があれば、おいしい総菜パンができあがるのは必然だ。

 ヨーロッパ食堂のランチで人気のある薬膳カレーがカレーパンに仕立てられる。でも、ちょっと待ってほしい。これがカレーパンか? 丸パンに入れた切り込みにドライカレーがはさまって、まるでサンドイッチではないか。

 つべこべ言わず食べてみよう。パンがふにーっと沈み、ゆっくり切れていく。豚が香り、キーマが舌をこすったかと思うと肉香が香る。跳ねまわるスパイスはぴりぴり感とともに、漢方的チャイニーズな風味。肉とスパイスの競争は、小麦の白き甘さによって収められていくけれど、すーすーとはっかのようなさわやかさは後口からなかなか引かない。エキゾチックでヘルシーな新しいカレーパンだ。

 揚げない、焼かないカレーパンはなぜできあがったのか。

 「小麦粉を入れてとろみをつけたらスパイスのバランスがぼやけちゃった。それで小麦粉を入れないでルーを作ったらゆるく包餡(ほうあん)できないんですよ」(石井陽光さん)

 「沸騰してパンが破けちゃう。上を開けて焼いたら、カレーに火が入りすぎる……それではさむことになりました」(遠藤譲シェフ)

 ヨーロッパ食堂で10年務めた石井さんと、パン屋で修業を積んだ遠藤さんとの出会いは専門学校時代にさかのぼる。卒業後も親交はつづき、ヨーロッパ食堂でパンのアイデアをあれこれ話し合っていたところ、「それならパン屋出しちゃえよ」ということになった。

ローストビーフのサンドイッチ

ローストビーフのサンドイッチ

 レストランだから、庶民は結婚式かパーティぐらいでしかお目にかからないローストビーフも、この店ではレジ横にさりげなく置いてしまう。ふにゃんふにゃんとしたやわらかなバンズの中に、これまたふにゃんふにゃんで血の色をしたビーフがはさまっている。きちんとしたデミグラスソースによってコクを強められ、半生ならではの激しい肉香が沸き上がる。ミルキーなバンズは国産小麦ならではの清らかな甘さで、ローストビーフ丼のように勢いよくかきこんでしまう。

パン・オ・ノアのオープンサンド

パン・オ・ノアのオープンサンド

 秋の限定メニューきのこをたっぷりはさんだ、パン・オ・ノアのオープンサンド。あこがれのポルチーニ茸(たけ)を使用。ふりかかったガーリックソースとバターが旨味(うまみ)まみれにしてくれる。ワイルドな山の香りをあふれさせるところに寄り添ってやさしさへと変えていく甘めのバゲット。パンの中にちりばめられたクルミが小憎らしい。こりこり感と香ばしさでアクセントになりつつ、森のもの同士のすばらしい相性を与えている。

 「きのこはソテーではなく直火で網焼きしています」。きのこから漂う素敵な香りの源泉はイタリアンらしい仕事にある。

食パン

食パン

 フィリングだけではなく、パン生地のクオリティも高い。それを証明するのは、角食。食感のエロスがあった。前歯がふにゃんと着地し、たわむ。歯に少しだけじゃれつきつつ、あっけなく切れる。「もちもち」ほどに強くない、「ほわんほわん」という跳ね方。ミルクの香り、発酵の香りが入り混じるバランスのよさ。耳は噛むたびにしみじみと甘くなる。

 パンを作るのは得意なパン屋さんと、おかずを作るのが得意な料理人が組むと、こんなすばらしい店ができあがる。この流れはこれからもっと強まっていくだろう。

クリームパンと三日月ブリオッシュ

クリームパンと三日月ブリオッシュ

外観

外観

■ミカヅキ堂
東京都世田谷区太子堂4-26-7
03-6453-4447
10:00~19:00(水曜休み)

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PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)
http://panlabo.jugem.jp/

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