このパンがすごい!

レトロな味を再解釈 最先端シェフの新たな一手 / サンチノ

野球帽。高知のローカルパン「帽子パン」へのオマージュ

野球帽。高知のローカルパン「帽子パン」へのオマージュ

■サンチノ(東京)

 先端的なスタイルでパンシーンに決定的な影響を与えたベーカリー「365日」の登場から早くも3年。その仕掛け人・杉窪章匡さん自身がすべてのレシピを書き下ろしたプロデュース店「サンチノ」が、話題の商業施設「イオンスタイル碑文谷」にオープンした。サンチノとは「産地の」(=国産小麦など、農家から取り寄せた顔の見える素材を使うこと)、「○○さんちの」(=杉窪シェフが親交を結ぶ食のプロフェッショナルたちとコラボ)を意味する。

 最先端のパンを作る人、というイメージのある杉窪さんが、テーマに「レトロ」を掲げた。日本人に馴染(なじ)み深い「レトロパン」や「ローカルパン」を杉窪的再解釈によってリニューアルしようというのだ。

棒チョコ

棒チョコ

 まず目に入ってきたもの。なんとパンが棒に刺さっていた。まるでチョコバナナかフランクフルトソーセージ。「棒チョコ」と名付けられたこのパンは、「銀チョコ」へのオマージュだという。コッペパンにチョコがコーティングされたなつかしいあの袋パンは、一体どのように作り替えられたのか。

 食感のエロス。チョコがぷにゅっとし、生地は歯切れるのをいやがりながらもわーんと沈んでいく。沈みきってしまうといきなりぷにっと千切れ、快い食感を残す。フランス産チョコはゆるゆると溶けながら振りまく、余韻が脚長い芳香。それは、グレーな小麦粉のミネラリーな風味と親密にからみあって、なつかしくも新しいマリアージュを繰り広げる。かくして銀チョコと構成要素は同じながら、素材の風味を活(い)かすことで、まったく新しい表現に到達していた。

 帽子パンというローカルパンがある。菓子パン生地の上にかけたカステラ生地が帽子のつばのように広がった、高知の名物。これをどんなふうに再構築するのかといえば、名前はストレートに「野球帽」。ハットだった帽子パンはキャップの形になっている。

 噛(か)みついた瞬間、繊細なかりかり感に胸を打たれた。上がけはカステラでなく、フランスのクッキー「ラングドシャ」。濃厚なバターの甘さはやがて、ブリオッシュ生地のふくらみと出会って、軽やかさを与えられる。ラングドシャのバター感は、ブリオッシュの塩気とバターと二重奏になり、もつれ合いつつ、やがて喉のあたりで気持ちよく一体となる。

シベリア

シベリア

 スーパーレトロパンの連打はさらにつづく。シベリアはあんことドライフルーツの甘酸っぱさがフルーティにときめきあうものに換骨奪胎。チョココロネはブラックホールという名前で、なぜか杯のような形に。プライスカードに曰く「#チョココロネの1番美味しい所を切り取りました」。ココアパンにとびきりエロティックな風味のチョコクリームとかりかりのクロッカンチョコが盛られているのだ。

 サンチノがパンシーンへ問う、大胆なチェンジ。「湯種」という、普通は食パンに使われる小麦粉をお湯でこねる作り方を、なんとあらゆるパンで採用。明るい甘さのある老化がしにくい生地を作りだした。

 もうひとつ、生地はすべて当日仕込み。前日に仕込む長時間発酵に比べてクラシックな方法だと思われていたが、これを復活させたのだ。長時間発酵のような、熟成香による味わいの強いパンではなく、原料である小麦の「素」が表現されやすい。さらに、小麦粉を5種類に絞り込むなど作り方をシンプルに磨きこんで、クオリティを高めつつ効率化を進めて、素材にこだわりながらも価格を安く抑えている。

サンチノ断面

サンチノ断面

 それがもっとも端的に表れているのが、基本となる食事パン「サンチノ」。吸水率は普通のパンのほぼ倍、驚異の125%。皮に瞠目(どうもく)。それは繊細な薄さで、芋のような香ばしさ、しょうがのようなさわやかさを併せ持つ。まさに新食感である。中身は噛む前にとろけていたのだから。とろーんと溶けて、国産小麦の風味が口の中で気化し、まるでおかゆのようだ。「産地の」しっかりとわかる日本の小麦を十二分に活かして作るから、こんな馴染み深い、なつかしい味になる。私たちが戻るべき「レトロ」は、きっとこっちだ。

プロデューサーの杉窪章匡さん(左)と、サンチノのシェフ丸山雄三さん

プロデューサーの杉窪章匡さん(左)と、サンチノのシェフ丸山雄三さん

「アメリカのおばあちゃんの雑貨屋」をイメージしたパン売り場

「アメリカナイズされた日本のおばあちゃんが作った雑貨屋さん」をイメージしたパン売り場

■サンチノ
東京都目黒区碑文谷4-1-1 イオンスタイル碑文谷1階
03-6303-4433
8:00~20:00

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PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)
http://panlabo.jugem.jp/

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