book cafe

<56>20世紀のあこがれが詰まった書店街の「記憶装置」

<56>20世紀のあこがれが詰まった書店街の「記憶装置」

 日本一の古書店街・神田神保町にも、ここ最近ブックカフェが点在するようになった。2013年にリニューアルした東京堂書店は、入り口に「Paper Back Cafe」を併設。15年には、神保町交差点にほど近い雑居ビルに、韓国文化を発信する「チェッコリ」がオープン。同年4月には、SFやミステリー、サブカルチャーなどに強い古書店「@(アット)ワンダー」の2階に「ブックカフェ二十世紀」が登場した。

「神保町は本を探しに来るところ。古書店でお茶をしたいと思う人がどれだけいるか。でも長居したい人にとってこの店は穴場。おすすめの場所なんですよ」

 そう話すのは、新井啓介さん(57)。昨年10月から勤め先が休みの週末に店でアルバイトを始め、今年2月に会社を辞めて店長になった。

 「@ワンダー」のキャッチフレーズは“20世紀記憶装置”。SF、ミステリー、幻想・怪奇小説などの書籍や、雑誌のバックナンバー、映画ポスターやパンフレットなどが店内にあふれかえっている。まさに、20世紀のカルチャーが凝縮された” ワンダーランド”のような空間だ。新井さんが幼い頃から大好きで、自分に合わないと思いながら働き続けたサラリーマン時代を支えてくれた映画や特撮などの本も充実している。そんな棚と店内のレトロな雰囲気とシンクロしてか、新井さんは引き寄せられるように、この店で働くようになった。

 「@ワンダー」のオーナー・鈴木宏さん(60)が同店をオープンさせるにあたり、原点になった店がある。西新橋の「集&ゆう(しゅう)」というイベントスペースだ。異業種交流会やトークショーなど、さまざまなカルチャー系イベントが行われ、鈴木さんは若い頃に足しげく通っていたという。

 いずれはそういう場所を作りたいという鈴木さんの長年の思いが実り、昨年4月に店舗2階をカフェスペースに改装。 日中は静かなカフェスペースで、ランチタイムにカレーを食べる人たちや、コーヒーを片手に読書を楽しむ人たちが利用している。平日の夜や週末には一転して、“大人のクラブ活動”と称して、知的好奇心を刺激する様々なイベントを開催している。

 かつて、「集&ゆう」のイベントに何度も足を運んだことがあった新井さんが昨年5月に同店を初めて訪れたのも、とあるイベントへの参加がきっかけだった。

「もともと本が好きで、個人的にも書評や映画評、特撮ものの論評などを書いてインターネットで発表していました。この店に来た時、自分の好きそうな本がいっぱいあるし、ちょうど会社を辞めたいと思っていたので、鈴木さんに『ここで働かせてください』って言ったんです」

 店長になってからは新井さんもイベントの企画に参加。自分が好きな落語や映画、特撮などを中心に、トークショーや講座、上映会など多彩なプログラムを組んでいる。そこに集まった人とのつながりが、新たなイベントへと結びつくことは珍しくない。また、新井さんが別の場所のイベントに参加したことで、同店でのイベントにつながったこともある。

 新井さんが、下北沢で隔月開催されている落語家・立川談四楼さんの独演会に行った時のこと。客の中に「帰ってきたウルトラマン」のスーツアクター・きくち英一さんの姿を見つけ、胸が高鳴った。新井さんが小学6年の時に生まれて初めてファンレターを出したあこがれの人だったからだ。勇気を出して声をかけ、後日、きくちさんをゲストに招いたイベントを開催する運びとなった。

 当日、きくちさんは一冊の古びたノートを持参していた。そこには、新井さんの名前と当時の住所が記されていた。

「きくちさんはとても真面目な方で、ファンレターをくれた人の住所と名前を全部ノートに書き写していたんです。『そのときのノート、見つけたよ』と見せてくれたときは本当にうれしかったですね」

 昭和の時代にサブカルチャーの洗礼を受けた少年の夢やあこがれが、思わぬ形でよみがえる。“20世紀記憶装置”ならではの出会いや、イベントを仕掛ける楽しさを糧に、新井さんは今日も店に立つ。

おすすめの3冊

おすすめの3冊

『証言構成 OHの肖像―大伴昌司とその時代』(編/竹内博)
 怪獣図鑑で有名な怪獣博士・大伴昌司の関係者インタビュー集。「大伴さんは、私が子どもの頃に『怪獣図鑑』を作った方。怪獣の設定や特徴を大人が夢中になって考えた時代が垣間見えます」

『エルヴィスが死んだ―小林信彦のバンドワゴン1961→1976』(著/小林信彦)
 小林信彦のエッセー集。雑誌や新聞に掲載された映画評論や書評、時評の数々を収録。「私は小林信彦が大好きで、著書はほぼ買っています。図書館で1回読んだことがある本なのですが、この店に入ってきたんです」

『ジャングル大帝 手塚治虫全集』(著/手塚治虫)
 勇壮の大地を駆ける白獅子・レオを中心とした物語。「私が保育園のときにアニメがありましたが、よく考えたら原作の漫画を読んだことがありませんでした。手塚作品の中でも傑作と名高いものです」

(写真 石野明子)

    ◇

ブックカフェ二十世紀
東京都千代田区神田神保町2-5-4 2F
http://jimbo20seiki.wixsite.com/jimbocho20c

>>写真特集はこちら

>>book cafeまとめ読み

PROFILE

吉川明子

兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体に週刊朝日、アサヒカメラ(「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、婦人公論、BRUTUS、mi-molletなど。
https://www.instagram.com/a_yoshikawa0227/
https://note.mu/akikoyoshikawa

<55>絵本好きの主婦が受け継いだ、子どもと大人をつなぐ店

一覧へ戻る

<57>漫画喫茶とはひと味違う開放感

RECOMMENDおすすめの記事