花のない花屋

一緒になってくれてありがとう。スリランカ出身の夫へ

  

〈依頼人プロフィール〉
坂巻千夏さん(仮名) 41歳 女性
兵庫県在住
会社員

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「日本にはおしんがいると思ってきたのに、この人といったら……」と私を指さして笑いを取る夫は、スリランカ出身です。15年ほど前に奨学金を得て来日し、2年間高専に通った後、4年制の大学に進学。祖国がスマトラ大地震による津波で大きな被害を受けたことをきっかけに、京都大学の大学院に進み、地震の研究をしていました。奨学金の給付は2年間だけだったので、自分で学費と生活費を稼ぎながらの勉強でした。

私と出会ったのは大学院にいたときです。私は会社員として働きながら大学院のビジネススクールに通っており、共通の知人を通して知り合いました。そして3年半の交際を経て、3年前に結婚。

祖国に戻れば研究職のポジションがあり、好きな研究が続けられるはずでしたが、彼は自分の研究を断念し、日本で私と家族になって暮らしていくことを選んでくれました。今は司法通訳として働いており、祖国と日本をつなぐ機会があれば、港での荷揚げの手伝いから小学校の異文化交流まで、どこへでも出かけていきます。

「これは僕が決めたこと」としれっとしていますが、留学生仲間の活躍を聞くたび、やっぱり寂しそうな顔をすることがあります。そこで、なんとか励ましてあげたいと思いました。「私を選んでくれてありがとう。これからもよろしくね」という気持ちを花束にしてもらえないでしょうか。

夫は花が大好きです。山を歩きながら、きれいな草木や香りのよい花を写真に撮っては眺めています。香りのよい花、ラン、ハスなどが好きです。

スリランカが親日国家であることは意外と知られていないため、先日東さんがスリランカで献花をされたことを伝えたら、とてもよろこんでいました。感謝の気持ちをお伝えしたいと思っていましたので、この場を借りて御礼申し上げます。

  

花束を作った東信さんのコメント

スリランカは大好きな国の一つです。最初はランやハスの花を使おうかとも思いましたが、いざスリランカを思い描いたとき、僕の頭に浮かんだのは美しい大自然でした。

スリランカには、ジェフリー・バワという建築家が設計したヘリタンス・カンダラマというホテルがあります。山の中腹にあるこのホテルは、まるで植物にのみ込まれるかのように建物が緑で覆われ、すばらしく自然と一体化しています。僕の中のスリランカはまさにこのホテルのような、グリーンで覆われた土地でした。

アレンジに使ったのは、スギ、ポリシャス、クリスマスローズ、ヘデラベリー、リューカデンドロン、グリーンのアジサイ、シキミア、スプレーバラなどです。一見葉ものだけのようですが、実は小花や実ものも入っています。

この花束を見て、美しい祖国の自然を思い出していただけたらうれしいです。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

一緒になってくれてありがとう。スリランカ出身の夫へ

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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