花のない花屋

認知症になってしまった働き者の母へ

  

〈依頼人プロフィール〉
加藤結子さん 37歳 女性
神奈川県在住
会社員

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母の行動がちょっとおかしいなと思うようになったのは、今から4年ほど前のことです。モノをどこにしまったのか忘れてしまったり、テレビのリモコンが冷蔵庫に入っていたり……。気になって病院に連れて行くと、やはり認知症でした。

母は本当に働き者で、ギャンブル好きな父に代わり、70歳になるまで週6日、朝から晩まで検品作業のパートをして稼ぎ、年をとってから産んだ私と妹を大学まで出してくれました。

元気だった頃は、部屋はいつもきれいに掃除され、安い食材でも工夫しておいしい料理を作り、道ばたのタンポポや椿(ツバキ)を拾ってきてはテーブルに飾っていました。それが今では、料理や掃除はおろか、季節に合う洋服を自分で選ぶことさえできなくなってしまいました。あの頃の母がまるで夢のようです。

最近は、死んだはずの人の名前をあげて、「会いに行く」と言って家を出ようとします。日中一人で家にいるのが危険なため、デイサービスに行っていますが、それをパートと勘違いして、「○○ちゃんのために頑張ってくるね」と言ってお迎えの人と出て行きます。

その言葉を聞くたびに悲しくて……。ようやく70歳になってパートを辞め、自分のために時間やお金を使えるようになったのに、こんなことになってしまうなんて。

花を見て、せめて一瞬でも幸せな気持ちになってもらいたいです。今は子どものように無邪気になっていて、私や妹が赤やピンクのもの、ふわふわしたものなどを身に付けていると「かわいいね」と言います。昔からアネモネが好きでした。見てはっきりわかるようなお花で、かわいらしい花束をアレンジしてもらえないでしょうか。

  

花束を作った東信さんのコメント

お母さまの記憶に残るよう、とにかく華やかでかわいらしい雰囲気に仕立てました。今回はリーフワークなしで、全体を丸く花で覆い尽くしています。

主な花材は、赤いアネモネ、スプレーバラ、トルコキキョウ、エピデンドラム、アスター、ブバリアなど。赤やピンク、縁がフリルのようになった花、かわいらしい雰囲気の小花をたくさん使っています。

認知症というのは、まわりの方もとてもつらい病気だと思います。この花を見て、お母さまやご家族が少しでもやさしい気持ちになってもらえたらと思い、心を込めて束ねました。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>これまでの「花のない花屋」まとめ読み

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

認知症になってしまった働き者の母へ

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


一緒になってくれてありがとう。スリランカ出身の夫へ

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スリランカで結婚する夫の娘へ。「とても愛しています」

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