花のない花屋

フランスで出産、応援にきてくれた母に感謝をこめて

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〈依頼人プロフィール〉
桜井麻子さん(仮名) 34歳 女性
フランス在住
自由業

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昨年の9月、初めての子どもをパリで出産しました。両親にとっては初孫です。退院してから5日後に両親が日本から駆けつけてくれ、アパートでの一時的な同居が始まりました。

産後身動きのとれない私の代わりに、母は孫の面倒をみながら一日中台所に立って栄養のあるものを作ってくれたり、普段なら家事を一切しない父も食器洗いから掃除まで献身的に身の回りの世話をしてくれたり……。本当に助けられました。

とはいえ、長らく一緒に生活をしていなかった者同士がさして広くもないアパートで寝食を共にすると、ストレスが募ってくるもの。疲れや緊張もあったのでしょう。数日もすると、みんなが次第にイライラし始めてきました。

特に、私の夫は家事全般をこまごまとしてくれる家庭的な人。台所を一日中母に占領され、「自分の家じゃないようだ」と私に不満をこぼし始めました。母の方も、やたらと細かく指摘をしてくる夫にうんざり。二人からお互いの愚痴を聞かされ、そこに産後の疲れと初めての育児への戸惑いもあって、私も泣きたい日々が続きました。

2週間ほどで父が帰国すると、夫と母はさらに険悪に。一時はまったく口をきかなくなってしまい、夫は「ホテルに泊まる」と言い出し、母は「もう限界」と泣き出す始末。私が涙ながらに二人をなだめ説得していると、娘がせきを切ったように泣き出しました。娘は私たちのただならぬ雰囲気を敏感に感じ取ったのでしょう。

そのときからぱっと何かが切り替わり、「赤ちゃんのためにも仲良くやろう」と二人が和解し、同居がずいぶんと和やかになりました。

あの頃はせっかくパリまで来てくれたのに、観光もさせてあげられなくてごめんなさい。でも、いろいろとありがとう。そんな気持ちを込めて、いま改めて母に感謝の花束を贈りたいです。

母は定年後、色鉛筆画を始めたので、絵のモチーフになるようなアレンジだとうれしいです。パリのアパートから見える、中庭の木々やカササギを見てはその色彩に感嘆していました。クジャクの羽のような、濃い青から深緑のグラデーションのイメージで、パリっぽいエッセンスも加えていただけたら。

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花束を作った東信さんのコメント

今回のテーマはクジャクです。アレンジ全体を紫、青、緑でまとめました。主に使ったのは、ヒヤシンス、ライラック、スイートピー、リューココリネ、バラ、ツルバキアなど。とてもいい香りのするアレンジです。紫のグラデーションだけだと暗くなってしまうので、アクセントにブルーのアジサイを入れました。

リーフワークは濃い色のグリーンを選び、全体を引き締めました。パリっぽい植物は入れていませんが、全体のトーンが大人っぽく、どこかパリを思わせます。

家族同士だと、どうしてもいろいろあるのが現実。その複雑な気持ちを伝えられるのも、やはり花の役割だと思います。

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(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

フランスで出産、応援にきてくれた母に感謝をこめて

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


スリランカで結婚する夫の娘へ。「とても愛しています」

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