このパンがすごい!

そう来るか!? 未体験の味を生む独創性/風見鶏

パン工房 風見鶏(埼玉)

 東浦和に巨匠がいる。風見鶏の福王寺明シェフ。彼は単独者である。バゲットや食パンのような例外を除いて、どこかで見たようなパンがぜんぜんない。福王寺さんのパンはすべてが「発明」であり「独創」である。

 石窯(いしがま)焼塩トーストをはじめて食べたときには驚いたものだ。炎が衝突したものと思われる並々ならぬ香ばしさがてっぺんから濃厚に漂っている。ただれたような表面の焼き色も相まって、薪(まき)窯で焼いたみたいなワイルドな雰囲気が漂っている。薄い皮はただただ香ばしい。ぷにっとしたエロティックな食感の中身は、自ら溶けていくかのようにふにゃふにゃーと舌の上で液体に変わる。小麦の味わいは岩塩の力でミネラリーにゆがみ、オリーブオイルの効果もあいまって旨味(うまみ)がひたひたと襲ってくる。そして、変幻自在な発酵種の香り。鼻孔に吹き込んでくるフレーバーは野生的でもあり、甘くもあり、めくるめくようだ。

 福王寺シェフが、このユニークなパンに至るには、きっかけがあった。

 「イタリアのスキャッチャータを食べたとき、塩味だけでこんなにおいしいのか、と参考にしました。国産小麦にして、もちっとした食感を入れた。それをもっともっとやわらかくできないかと試行錯誤してどんどん変わっていった」

 ふにゃりとした食感を作りだすのは水。ミキシングの途中でしばらく休ませ、さらにミキサーでまわしながら少しずつ少しずつ水を足していく。印象的な香りは、ホシノ天然酵母や自家培養のものなど3種類の発酵種によって作られる(福王寺シェフはそれを「3D」と呼ぶ)。そして、パンが焦げるのではないかというほどの超高温が香ばしさと、ふわりとした伸びに貢献する。

 かつての人気番組「TVチャンピオン」で決勝に残ったときに編み出されたのが、ソフトクリームパン。カスタード入りの硬い食べ物というと、イタリアのカンノーロを思い出すけれど、それとはちがう。薄く焼き締めたデニッシュ生地は、ただ硬いだけではなくしなやか。くねりつつクランチーに崩壊していくというあり得なさが人を狂わせるのだ。そのかりかり感と軌を一にしてアーモンドの粒がこりこりと破裂。なおかつ、白と黒のゴマを入れ、オイリーな感覚まで表現している。そして、中にはカスタードクリームがたっぷりと。バニラが芳醇(ほうじゅん)であることはもちろん、マスカルポーネも加えてあってとろけのなめらかさが半端ない。ミルキーな甘さは、デニッシュのバター感といっしょになることで、まるで薪をくべた火のようにわっと燃え上がる。
 先述のゴマしかり、ポテトサラダに入れられた枝豆しかり。福王寺シェフの常人離れした感性は、「そこでそれくるか?」という意外な食材を投入して、「これでしかない!」という味わいを作りだす。

 和風サンドにおける海苔がそうである。「サンドイッチに海苔?」という疑問形を食べた瞬間吹き飛ばす、海苔と紫蘇のすばらしい相性は、風雅にして、爽快。そして、食感のおもしろさが夢中にさせる。ぷにぷにした食パンの中にこだまする、レタスと紫蘇と海苔のぱりぱり。ハムはふにふに。

 手近にそろう食材ばかりなので、「おーし、家でやってみよう!」と誰もが思うけれど、決してこの味にはならないだろう。写真をみてほしい。おいしさとは、うつくしさなのだ。あのすてきな食感の音色を作りだす、うつくしいストライプ。食パン、レタス、シソ、海苔、ハム。すべてはシート状であり、ミルフィーユのようにそれをまとめて噛(か)み破ることで、食感は生まれている。誰もが見ているものの中に、誰も気づいていなかったものを見る感性。福王寺シェフの独創の理由である。

パン工房 風見鶏
埼玉県さいたま市南区大谷口5338-6
048・874・5831
10:00~19:30(木曜・第3日曜休み)

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PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

http://panlabo.jugem.jp/

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