こだわり派の逸品

全国のフリーペーパー 約3千種類を一堂に/ONLY FREE PAPER

松江さんは大学卒業後、就職せず、アメリカに音楽留学。帰国後、スタイリスト業などをしながら、前職の同僚らと起業した。音楽はヘビーメタル、文学は安部公房が好きという

松江さんは大学卒業後、就職せず、アメリカに音楽留学。帰国後、スタイリスト業などをしながら、前職の同僚らと起業した。音楽はヘビーメタル、文学は安部公房が好きという

「ONLY FREE PAPER」のあるコミュニティースペース「ヒガコプレイス」は、JR中央線東小金井駅から100メートルほど歩いた場所にある

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高架下にたたずむ店内は、落ち着いた雰囲気のなかにフリーペーパーの濃密な空間が広がっている

高架下にたたずむ店内は、落ち着いた雰囲気のなかにフリーペーパーの濃密な空間が広がっている

いわゆるクーポン誌や求人誌、特定の宗教や思想を斡旋(あっせん)するような雑誌類以外は、フリーペーパーなら誰でも置けるようにしている

いわゆるクーポン誌や求人誌、特定の宗教や思想を斡旋(あっせん)するような雑誌類以外は、フリーペーパーなら誰でも置けるようにしている

松江さんが最初に衝撃を受けたという『季刊 イモマンガ』。これまでに合本された単行本も3巻販売されている

松江さんが最初に衝撃を受けたという『季刊 イモマンガ』。これまでに合本された単行本も3巻販売されている

秋田大学国際交流センターから発行されている『田んぼと油田』は、文科省が各地域の教育現場に配る助成金で作られたフリーペーパー。これも『雲のうえ』以降の流れをくむ良質なデザインの冊子

秋田大学国際交流センターから発行されている『田んぼと油田』は、文科省が各地域の教育現場に配る助成金で作られたフリーペーパー。これも『雲のうえ』以降の流れをくむ良質なデザインの冊子

『月刊 妄想星占い』は、美大生が個人の趣味でやっているA4の1枚のフリーペーパー。「内容がかなり個人的な妄想でナンセンスなところがユニークです」

『月刊 妄想星占い』は、美大生が個人の趣味でやっているA4の1枚のフリーペーパー。「内容がかなり個人的な妄想でナンセンスなところがユニークです」

年1回発行の囲碁のフリーペーパー『GOTEKI』は、女性誌『美的』のパロディー。「2号目くらいまではわりとまじめに作っていたのに、3号目でローマ字表記になり、以降、妄想囲碁対局などの振り切った企画が生まれます。全体的に女性目線で作られています」。表紙も女性棋士を起用

年1回発行の囲碁のフリーペーパー『GOTEKI』は、女性誌『美的』のパロディー。「2号目くらいまではわりとまじめに作っていたのに、3号目でローマ字表記になり、以降、妄想囲碁対局などの振り切った企画が生まれます。全体的に女性目線で作られています」。表紙も女性棋士を起用

「『AGRI JOURNAL』は、ビジネスと農業という観点から、かなりしっかり作られている雑誌で、読み物として上質です。出版社が出しているのも最近の特徴でしょう」

「『AGRI JOURNAL』は、ビジネスと農業という観点から、かなりしっかり作られている雑誌で、読み物として上質です。出版社が出しているのも最近の特徴でしょう」

 JR東小金井駅の高架下沿いに、一風変わった地域密着型のコミュニティースペースがある。地元の野菜を扱う料理店や工房併設の革物雑貨店、生豆から売るコーヒー豆専門店など個性派ショップが軒を連ねるなか、ひときわ目をひくのが、日本中のフリーペーパーを集めた専門店「ONLY FREE PAPER」だ。

 代表の松江健介さんは、6年前、前職で同僚だった初代代表ら3人で「これまでにない本屋さんを作ろう!」と起業し、東京・渋谷の宮下公園向かいにあるビルに店を構えた。コンセプトが「フリーペーパー専門」なので、置かれている印刷物は、当然すべて無料。オープンから8カ月後には、最新ファッションやカルチャーの発信地・渋谷パルコに拠点を移し、現在の小金井店は約2年前に開店した。
 雑誌の売り上げが41年ぶりに書籍を下回るなど、出版不況が続く昨今、にわかに活気づくフリー(無料)のメディア。その現状について松江さんにうかがった。(文・宮下 哲)

    ◇

“無駄なもの”にこそ価値がある

――なぜ、フリーペーパーの専門店を作ろうと思ったのですか。

 6年前、「本屋さんをやりたいけれども、既成のお店と同じことはしたくない。もうけるというよりも、面白いことを第一に考えたい」と初代代表が思ったのがきっかけです。
 もともと3人とも “紙もの”が好き。初代代表が4年くらいかけて集めていたフリーペーパーが手元にあったのですが、こんなに面白いメディアがあるのなら、その専門店を作ったらどうだろう?と考えたのです。

 当初は、ウェブと連動させながら収益につなげていくことや、店内のスペースをギャラリーとしてレンタルする計画などもありました。でも、経営自体はうまくはいかず、そんな時に、テナントに誘ってくれたのが渋谷のパルコさんだったんです。単純に目新しいとか、メディアに出ているからということではなく、カルチャーの枠のなかで「ONLY FREE PAPER」の存在をとらえてくれていたのがうれしかったですね。本当に苦しい経営状況でしたが、昨年パルコがリニューアル工事に入るまでの5年間は、いろいろ相談に乗ってもらいました。

――フリーペーパーというメディアの最大の魅力とは何でしょう。

 わかりやすく言えば、有料の印刷物と違って、フリーペーパーは誰でも作ることができて、しかも売り上げのことや広告主のことを考えずに、100%自分のやりたいようにできること。それが魅力です。手作りの同人誌のようなものも含めると、その数は計り知れません。30年近く発行し続けているものもあれば、すぐに消えてしまうものもありますから。

 僕の好きなフリーペーパーは、『季刊 イモマンガ』という、創刊10年になる小さな冊子です。初代代表から最初に見せてもらったときは本当に衝撃でした。読んでいてオチがあるわけでもなく、いったい何の目的で作ったのかと、読み手が一瞬戸惑うくらい。でもよくよく考えてみると、じつはそれこそがフリーペーパーの本質というか、醍醐味(だいごみ)なのかもしれないと思います。つまり、無駄なものにこそ価値があるってこと。そして、その無駄をどれだけ続けていけるか。『季刊 イモマンガ』は、今も変わらずひっそりとカフェや本屋さんに置かれています。僕も含めた多くのファンが次号の刊行を心待ちにしています。

――お店を見渡して、置かれている種類にも驚かされました。

 店内には常時、持ち帰ることができる約100種類のフリーペーパーがあります。そのほかにライブラリーとして閲覧のみのものも含めると3千~5千種類のフリーペーパーがあります。時代とともにジャンルの傾向も変わってきていて、90年代はアート系、デザイン系、サブカルチャー枠のものが多くありましたが、最近は地方自治体や公共機関が予算を出す、ハイクオリティーなものが目立ちます。

 例えば、北九州市が発行している『雲のうえ』は約10年前に創刊し、いまや全国的にもファンが多いフリーペーパーです。この成功例がきっかけとなって、ほかの自治体がフリーペーパーというメディアに予算を出すきっかけにもなりました。『雲のうえ』のアートディレクターは有山達也さん、写真は長野陽一さんといった著名なクリエーターがメインで関わっていて、かなり上質な仕上がりになっています。予算的にも大変でしょうが、少し広告を入れながら、続けているのがすごいなあと思います。

――フリーペーパーの存在意義も時代とともに変化しているのでは。

 僕はいま34歳ですが、学生だった90年代は、リアルで生き生きとしたいろいろなカルチャーがありました。当時はいわゆる海外のZINEカルチャーが注目されはじめた頃で、遊び心あふれるフリーペーパーが日本中にけっこうあったと思います。
 その後、2000年にリクルートから『ホットペッパー』が創刊され、一気にフリーペーパーのイメージが変わってしまいました。いい意味でも悪い意味でも、カルチャーとしてではなく、駅に置かれているクーポン紙というイメージが広まった。
 でも、それから数年して、僕らがお店をはじめた頃から、再び新しいムーブメントが生まれはじめています。インターネットの普及によって情報にお金を出す時代ではなくなったという背景も、フリーペーパーとリンクするところがあったのかもしれません。「マス」から「個」のメディアへとトレンドがシフトしていることもそうですし、3.11以降、地方に移住したクリエーターが地域のために立ち上がるという動きが活発化しているのも関連がおおいにありそう。各地方で素晴らしいフリーペーパーが発行されている要因の一つでしょう。

フリーペーパーが置かれる場を広げたい

――今後の展開は。

 数年前から、行政も企業もフリーペーパーというメディアに注目していることを感じています。公共や商業施設が主催するイベントスペースに、「コンセプトに合わせたフリーペーパーをセレクトしてほしい」という要望が本当に増えました。僕としては「空間ディレクション」も含めて、フリーペーパーが置かれる場を提案し、広げていきたいと思っています。

 僕らがやっているのは、そういう「場」を作ること。行政も大手企業も個人製作者も関係なくいい関係を築ければ、もっと面白いことも起きていくのではないでしょうか。また、そのようなみんなを集約する場にお金が落ちることがあるなら、収益をフリーペーパー制作者さんにも還元できるようなウィンウィンの状況を作っていけるのではと考えています。

 流通の面ももう少し強化したいと思っています。全国のフリーペーパーを「ONLY FREE PAPER」から日本各地に配送する、そういう仕組みも今後は拡大していきたいです。制作者さんにとって送料の負担は大きいですし、ほとんどが自分の足で配置場所を探しているのが現実です。それだとやっぱり限界があります。どこに置くのかという線引きも含めて、「ONLY FREE PAPER」が代行し、全国に流通させる役割を果たせればと思います。結構ないがしろにしがちなのですが、流通は制作と同じくらい大事。どんな作品も発表するプラットフォームがあってこそ成り立ちますから。

 よく「したい人100人、始める人10人、続ける人1人」と言いますが、3人で始めたこの店も、最終的に僕ひとりになってしまいました。でも、おかげさまで、フリーペーパーを面白がってくれたり、フリーペーパーカルチャーを一緒に盛り上げていこうと言ってくれたりするクライアントさんが徐々に増えています。やっと軌道に乗ってきたので、今年は自分の手でフリーペーパーを作りたいと思います。

    ◇

ONLY FREE PAPER ヒガコプレイス店
住所:東京都小金井市梶野町5-10-58 コミュニティステーション東小金井 ヒガコプレイス内
営業時間:11時~19時 水曜休
http://onlyfreepaper.com/

※2019年現在、上記住所から移転しています。お店のHPをご覧ください。

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