花のない花屋

今の私があるのは先生のおかげ、恩師の新しい門出に

  

〈依頼人プロフィール〉
大野雅恵さん 35歳 女性
大阪府在住
研究員

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大学時代にお世話になった恩師、今川先生が2月11日の最終講義で退職されます。研究職に携わっている今の私があるのは、今川先生のおかげと言っても過言ではありません。

今川先生は薬学研究科の基礎研究の分野で活躍されており、脂肪細胞形成に関わる新規遺伝子を発見するなど、オリジナルな研究をされている方です。研究にも教育にも力を入れており、講義ではいつもわかりやすく、かつおもしろく教えてくれました。

私がいた大学では4年生で研究室に配属されるのですが、希望通り今川研に配属されたときは大変うれしかったのを覚えています。先生は学生に対して親身に接してくださり、学会発表の練習や文章の書き方など、様々なコツを教えてくれました。一方、実験に関しては厳しい面もあり、間違ったことをして追及されたこともありました。

あれからすでに13年が経ちましたが、先生が「研究は大胆かつ繊細に」と口癖のように話されていたことが印象に残っています。それはつまり、新しいことを発見するには、従来の考え方とは違う“大胆な”発想が必要であり、それを証明するには“繊細に”実験を進める必要があるという意味です。“大ざっぱ”や“神経質”という言葉は似て非なるもので、そのような研究に陥らないように気をつけなさい、と教えられました。これを実践するのはなかなか難しく、今川先生の言葉を思い出しては、今も反省しています。

退職されたあとは、おそらくまた違う場所でご自身の研究を続けていかれるのでしょう。この機会にこれまでの感謝と、新しい門出のお祝いの気持ちを込めて、盛大なお花を贈りたいです。

先生は教授室でドナセナやポトスなどの観葉植物を育て、大きくなると株分けをして大事に育てていました。珍しいものが好きそうなので、あまり目にしない植物を使い、オリジナルな研究をされている先生に似合う花束をお願いします。

  

花束を作った東信さんのコメント

今川先生の「大胆かつ繊細」という言葉をテーマにアレンジしました。中心に置いたのは、存在感のある大きなロマネスコ。カリフラワーの一種で、幾何学的な模様が特徴です。この周りにモルセラ、ゼンマイ、グリーンのラナンキュラスなどグリーン系の小さな植物や、これから花を咲かせる菜の花、大きなパフィオペディルムなどを挿していきました。

植物がお好きなようだったので、花が終わっても育てられるよう多肉植物も二つ加えています。リーフワークはモルセラを三角形に折ったものです。

大胆に植物を使いつつ、繊細さも感じられるよう、植物の種類や色、配置を考えてアレンジしました。先生の反応はいかがでしたでしょうか。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>これまでの「花のない花屋」まとめ読み

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「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
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詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

今の私があるのは先生のおかげ、恩師の新しい門出に

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


障害あっても大切な命、わたしたち家族のこれからに

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ようやく授かった息子に、私のもとにきてくれてありがとう

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