花のない花屋

ようやく授かった息子に、私のもとにきてくれてありがとう

  

〈依頼人プロフィール〉
福原泰代さん(仮名)38歳 女性
岡山県在住
会社員

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今の夫とつき合い始めて6年目のある日、生理が遅れていることに気づき、薬局で妊娠検査薬を買いました。くっきりと出た陽性反応を見て、正直うれしさより戸惑いが大きかったのを覚えています。以前から両親に結婚の意思は伝えていたものの、急な妊娠報告に夫や両親はおどろきながらも祝福してくれました。

でも妊娠がわかって1カ月後、生理並みの出血があり、あわてて産婦人科へ駆け込みました。結果は稽留(けいりゅう)流産……。翌月に家族だけのアットホームな結婚式を予定し、新居を探したり、結婚指輪を決めたりと幸せいっぱいの時期でした。どうして私が……。何がいけなかったのだろう?
赤ちゃんを取り出す手術や、術後の吐き気を今でも鮮明に覚えています。

それから約1年後、再び妊娠しました。よろこんでいたのもつかの間、またしても出血。二度目の流産でした。なんで私ばかりこんな目にあわなきゃいけないの?と、夫に強く当たることもありました。

でも、そんな私に神様が味方してくれたのでしょうか。その後、また妊娠することができました。今度はつわりもあり、おなかがどんどん大きくなりました。初めて赤ちゃんの心音を聞いたとき、涙が止めどなくあふれてきました。

3度目の妊娠で無事に息子を出産。初めての育児は大変でしたが、毎日がとても新鮮で楽しい日々でした。それから3年半が経ったある夜、布団の中で息子が突然こう言いました。「僕、ママのおなかの中にまた入って、また入ったよ」。また入ってまた入った……? 息子は私を何度も母として選んできてくれたの? そう思うと、不思議な気持ちに包まれ、涙があふれました。

流産のことは息子に話しておらず、なぜ息子がそんなことを言ったのか今もわかりません。この大切なエピソードは、息子が父親になるときに話してあげようと決めています。

息子はすくすくと育ち、今は小学5年生です。10歳という節目の年に、私を選んで生まれてきてくれてありがとう、という気持ちを込めてお花を贈りたいです。青や緑など、男の子らしい色で、元気いっぱいの花束をお願いします。

  

花束を作った東信さんのコメント

小さいお子さんは第六感のようなものが働くらしいですが、不思議ですよね。今回はリクエストに沿い、青や緑の植物で生命力あふれる花束を造りました。

主な花材は、縁がフリル状に刻まれた“パロット咲き”のチューリップ、フリージア、パフィオペディラム、マム、ラナンキュラス、ナデシコ、ヒヤシンスの球根などです。この時期のグリーンはライムグリーンなどやさしい色が多いです。躍動感を出すため、リーフワークにはユーカリのポポラスとその実をたっぷりと挿しました。

香りもよく、この時期らしいアレンジです。球根は土に植え替えて育てることもできますので、お子さんと一緒に楽しんでください。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>これまでの「花のない花屋」まとめ読み

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「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。
花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

ようやく授かった息子に、私のもとにきてくれてありがとう

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


今の私があるのは先生のおかげ、恩師の新しい門出に

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