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カヌレが、ボルドーの修道院で作られていたなんて。『私のフランス地方菓子』

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撮影/猪俣博史

カヌレ、クイニーアマン、クグロフ、タルト・タタン……。聞きなれない方もおられるだろうが、どれもここ数年、「フランス菓子」を名乗る菓子店には、たいてい並んでいるお菓子だ。これらはどれも、フランスの地方で生まれたお菓子であり、ほとんどが焼きっぱなしで素朴な味わいのものばかり。クリームやチョコレートで美しくデコレーションされたお菓子を「フランス菓子」と思っておられる方は、ちょっと面食らうかもしれない。

私がこのフランス地方菓子の世界にはまったきっかけは、今から20年以上前のカヌレブームだった。「こげているのか?」と思うほど真っ黒で、ギザギザの不思議な形は、これまでのお菓子の概念をひっくり返すほど衝撃的だった。「いったいなぜこうなったの?」「どこのだれがつくったの?」「いつからあるの?」答えを求めてたどり着いたのが、大森由紀子さんの著書『私のフランス地方菓子』*(柴田書店)だった。

*現在は、判型などを変えて『新版 私のフランス地方菓子 お菓子の物語とレシピ』として出版されている。

そこには、カヌレはフランス革命以前から、フランス南西部ボルドー地方の女子修道院でつくられており、ボルドーはかつて英国に支配されていたことから、このお菓子の前身は、英国のマフィンだという説があるとも書かれていた。

お菓子の向こう側に、その土地の歴史や暮らしまでが生き生きと見えてくる!これはまさに、お菓子を通した民俗学だ!と、すっかりそのおもしろさに魅了されてしまった。

著者の大森さんは、お菓子や料理の教室を主宰するかたわら、フランス各地を回ってフィールドワークしながらお菓子のなりたちや歴史を調べている方。文字通り「フランス菓子研究家」なのだと思った。

その後、大森さんの著作からさまざまなことを学んだ。おなじみのマカロンにもいろいろな種類があり、日本で知られているのは「マカロン・パリジャン」であって、それ以外にも形や食感の違うマカロンがたくさんあるなど……。

ただ甘いとかかわいいだけではない、お菓子の深くて広い世界の扉を開いてくれ、さらにはフランスの地理や歴史を知るきっかけにもなった『私のフランス地方菓子』。自分の原点とも言える、大切な一冊だ。

(文・武富葉子)


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