花のない花屋

進行性の難病とともに生きる私に

  

〈依頼人プロフィール〉
三原智恵さん(仮名) 61歳 女性
東京都在住
行政相談員

    ◇

10年ほど前、突然片耳の聴覚を失いました。原因はわかりません。手術をしても聞こえるようにはならず、その喪失感と24時間止むことがない耳鳴りを伴う不自由さに、仕事を辞めざるを得ませんでした。一時はうつ状態になりましたが、その後職場の好意で復職し、徐々に元気を取り戻すことができました。

ところが、一昨年のこと……。片耳が聞こえないので足もとがふらつくことはあったのですが、ふらつきが多くなったので病院へ行くと、難病である脊髄小脳変性症と診断されました。この病気は現在治療方法がなく、進行はゆるやかですが、将来的には歩行ができなくなるという病気です。

すぐに処方された薬を飲み始めましたが、現実を受け入れることはなかなかできませんでした。一応、病気について書かれた本も買いましたが、未だにページは開けないままです……。

結局、病気に向き合うのに1年近くかかりました。進行を遅らせるには、筋肉を鍛えるリハビリが有効とのことで、昨年の秋頃から毎日家でスクワットなどをしています。

とはいえ、病気の進行には抗えず、徐々に症状が重くなっていることを感じています。なぜ、私だけがこんな思いをしなきゃいけないの……。そんな気持ちが渦巻き、リハビリを投げ出したくなる日もあれば、自然現象として病を受け止め、命のある限り努力をしていこうと思える日もあります。

将来、旅行など外出することができなくなるのでは……と思うと不安でたまりません。海外旅行が趣味なので、昨年はたくさん旅をしました。子どもには迷惑をかけたくないので、今から老人ホームを見て回ったりもしています。

こんな私を東さんの花で応援していただけないでしょうか。アイボリーや白い花が大好きですが、新しい花の組み合わせを見てみたいです。いつも革新的で力強さにあふれた花束に見とれています。元気が出るような花束をいただけたら、こんなにうれしいことはありません。

  

花束を作った東信さんのコメント

三原さんがお好きだという白とアイボリーで花束をまとめました。白い花は繊細なイメージがありますが、花材の選び方やアレンジの仕方で力強い印象にもできます。今回は、元気になれるような強さを表現したかったので、一つ一つ大ぶりでボリュームのある花を選びました。

使用したのは、ダリア、ユリ、ヒヤシンス、バラ、カラー、エピデンドラム、トルコキキョウなどです。ポイントに薄いピンク色のプロテアを加えています。一つ一つの花がしっかりしていますが、すべて白いので重い印象にはなりません。

強くたくましく美しい花束を見て、少しでも明るい気持ちになってもらえれば、花屋冥利につきます。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>これまでの「花のない花屋」まとめ読み

     ◇

「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。
花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

進行性の難病とともに生きる私に

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

facebook

instagram

http://azumamakoto.com/

PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


お互いがんサバイバー これから試練に向かうママ友へ

一覧へ戻る

13年間、単身赴任で家族を支えてくれた父へ

RECOMMENDおすすめの記事