ワインとごはんの方程式

<11>ホタルイカとトマトの温ポテトサラダに、ソアヴェ・クラッシコ

ワイン1

ホタルイカとトマトの温ポテトサラダ。レシピは記事の最後に

3月、ホタルイカをお店で見かけるようになりました。ホタルイカといえば、酢みそあえを日本酒で……というイメージが強いですが、これがオリーブオイル系の世界にもぴったりはまるんです。本日はみかづき・井浦さん特製の「ホタルイカとトマトの温ポテトサラダ」に、これまた春にぴったりのおいしくてお手頃価格なイタリア白ワインが登場。今夜のおかずにも、すぐにいけそうです。

    ◇

明日香 いよいよ3月。なんだか春の気配が近づいてきましたね! そろそろおいしい白ワイン、飲みたくなってこない?

リカ すでになってます! 昨日白ワインセットを買ったところです(笑)。

明日香 でしょう? 今日は、どうしてもリカちゃんに紹介したい白ワインがあったので、これを持ってきました。「D.O.C. Soave Classico / SUAVIA(ソアヴェ・クラッシコ / スアヴィア) 2015」です。

リカ ソアヴェ?

明日香 そう、ガルガーネガ(Garganega)という品種を主体にした白ワインで、イタリア北部、ヴェネツィアがあるヴェネト州(Veneto)のソアヴェ地区で造られています。

リカ “クラッシコ”というのは……?

明日香 もともとソアヴェが造られていた、“伝統的区画で栽培されたブドウで造った”、ということです。

リカ あ、以前キャンティを飲んだときに“キャンティ・クラッシコ”が出てきましたが、あれと同じですね。

明日香 その通り。ソアヴェを造ってもいい区画はどんどん広がっているのだけど、昔から造っている“元祖ソアヴェ”のエリアで造られたワインには“クラッシコ”という言葉が付けられるんです。

リカ じゃあ、これは“ソアヴェ中のソアヴェ”ってことですね。

ワイン2

春のおいしいワインの代表選手、ソアヴェ・クラッシコ。色みもさわやか

トロピカルっぽい果実味が、魚介類にぴったり

明日香 そういうこと。なんでこのワインを紹介したかったかというと、実はこれ、去年、ヴェローナで開かれる国際ワイン見本市“ヴィニタリー”に行ったときに、会場近くのレストランで出会ったワインなんです。魚介専門のレストランだったんですが、そこでたまたま“この子”に出会って一目ぼれ。すっごくおいしくって、思わず会場に戻って生産者を探しました。それ以来、大好きなソアヴェの1本なんです。

リカ へえ……! 魚介類に合うワインなんですか?

明日香 そう、ガルガーネガはヴェネトの土着品種で、魚介料理によく合います。この品種はミネラルが入っているのと、ほんのり果実味があって、適度な酸があるのが特徴なんです。じゃあ、先にワインだけ飲んでみましょうか。

リカ かんぱ~い!(ゴクッ……)うーん、軽快な感じが春っぽいですね!

明日香 でしょう。レモンの柑橘(かんきつ)系の香りがするのと同時に、ソーヴィニョン・ブランまではいかないけれど、清涼感のあるハーブっぽさが少し入っていますね。

リカ だからさわやかなんですね。

明日香 あと、少しトロピカルっぽい果実味があるでしょ? この果実味が、魚介類のうまみを受け止めてくれるんです。

リカ 昔、明日香先生が、イタリアワインの特徴は「なんとなくトロピカル」って言ってましたけど、まさにその通り!

明日香 ふふ(笑)。そして、今日はこのワインにホタルイカを合わせてみようと思って。

リカ うわあ、大好物です! もうそんな季節なんですね。

明日香 ヴェネツィアでは、小さいスミイカをフリットや墨煮にしてよく食べるので、日本の今の季節だったらホタルイカとか合いそうかなと思って……。でも、ただのホタルイカじゃなくて、今日は“ホタルイカとトマトの温ポテトサラダ”なんです。

リカ え? ホタルイカのポテトサラダ?

明日香 そうなの。ジャガイモのミネラルがソアヴェのミネラルに、トマトの酸がソアヴェの酸にしっかり合うはず。

「なんか、口の中がイタリアです」

(料理が出てくる)

ワイン4

ホタルイカのミネラルと、ソアヴェ・クラッシコのミネラルが手をつなぐ

リカ うわあ、きれい! それにいい香り。この香りをおつまみに飲めそう……。

明日香 ほんと、そうよね(笑)。

リカ このお料理、難しそうですけど、どうやって作るんですか?

(料理人登場)

井浦 いえいえ、簡単なんですよ!まずはニンニクをみじん切りにして、小鍋で炒めて香りを出し、そこに切ったトマトとホタルイカをさっと入れて、ゆでて軽くつぶしたジャガイモを加えて終わりです。最後にちぎったバジルとオリーブオイルをかけ、ルッコラを添えて完成です。

リカ それならできるような気がする!

明日香 ルッコラとバジルの青さが、ソアヴェのハーブっぽさにも合うんですねえ。では、さっそくいただきましょうか!

リカ (パクッ)んん?、おいしい!

明日香 んん! んんんん! んんんんん!

リカ 先生、「ん」しか言ってない(笑)。

明日香 おいしくて(笑)。このホタルイカの何とも言えないうまみがすごいですね……。このうまみをジャガイモが包み込み、トマトの酸味とバジルの清涼感が口の中で混然一体となったところで、ソアヴェを飲むと……完璧です。

リカ 合いますねえ。なんか口の中がイタリアです。

これで「脱・酢みそあえ」ができるかも

明日香 ホタルイカってどうしても和のイメージが強いじゃない? 酢みそあえとか、沖漬けとか、日本酒や焼酎に合わせがちですが、実は料理次第でワインにもすごく合うんですよね。

リカ この時期はホタルイカもスーパーでたくさん売っているし、家飲みで合わせやすそうですね! これで、「脱・ホタルイカの酢みそあえ」ができるかも。ホタルイカ大好きなんですが、なかなか料理のバリエーションがなくて……。

明日香 ジャガイモをたくさん入れたら、メインのお料理にもなりますね。こうやってソアヴェを飲んでいると、イタリアワインって究極の食中酒だなって思います。その季節、その土地の食材で郷土料理を作り、それに合わせて土地のワインを合わせて楽しんでいるというか……。お料理と合わせることで、個性がより生きるのがイタリアワインの特徴ですね。

リカ たしかにそうですね。このソアヴェは味がやさしいし、日本料理にも合わせやすそうです。

明日香 そう、基本的に魚介料理ならなんでも合うし、いろいろな家庭料理にも合わせやすいですよ。

リカ このワインはだいたいいくらぐらいですか?

明日香 これはクラッシコで、ちょっといい造り手さんのものなので2000円台ですが、ふつうのソアヴェは1000円台でたくさんありますよ。高いものはいい土壌の畑のものだったりしますが、特別なキュベのものでも4000~5000円くらいですね。安いものは、けっこう“シャバシャバ”しているものありますが……。

リカ えっ、シャバシャバ?

明日香 ぐいぐい飲めるというか……。クラッシコが付いてないソアヴェは軽いものが多いですね。でも、それはそれでカジュアルな白ワインを飲みたい状況っていうのもあると思うんですよ。夏にみんなでバーベキューしながらワイワイ飲むとかピッタリだと思うし。

リカ ですよねえ。そういうときに重いワインは合いませんしね。

「寄り添い系」か「包容力系」か?

明日香 ソアヴェってお値段も味わいもピンキリで。クラッシコが付いてても、このスアヴィアみたいにある程度濃縮感があって、果実味や酸味などの味わいがしっかりあり、飲みごたえがあるものばかりではなく、飲みやすくて、親しみやすいデイリーなものが多いんです。

リカ 今日のソアヴェはホタルイカの味わいをちゃんと受け止めてくれるような包容力もあった気がしますけど、これが標準ってわけではないんですね?

明日香 そうですね。一時期、大量生産に走りすぎて、ソアヴェの品質が下がってしまったと言われていた時代があるんです。だからいまだに「ソアヴェはそんなに……」っていう人もいるんですよね。で、それを憂えた何人かのソアヴェ生産者の方々が先頭に立ってソアヴェ改革を始めたんです。

リカ そうなんですか!

明日香 代表的なのはアンセルミさんやピエロパンさんです。アンセルミさんは最終的にD.O.C.Soaveを名乗るのをやめてしまい、格下のI.G.T.Venetoの銘柄でワインを出していますが、彼らが造るのはソアヴェのお手本のようなワインです。他にも、イナマさんという造り手さんもクラシックな素晴らしいソアヴェを造っていて、私は大好きです。

リカ なるほど。そうなると、ソアヴェの特徴は「やさしい味」って覚えればいいんでしょうか?

明日香 そうね。ソアヴェのブドウ品種、ガルガーネガ君は「優しく寄り添ってくれる若いイタリア男子」ですね(笑)。いつでも一緒にいてくれて、いつも楽しいみたいな。

リカ なるほど!(笑)クラッシコになると……?

明日香 好青年が少し大人の色気をまとってくる感じかしら。まだ若いけど、やさしさで包み込んでくれるような包容力があって、ちょっとジャケットが似合う男の子になったね!っていう感じ。

リカ あら、私にぴったり! お持ち帰りしていいですか?(笑)

■本日の方程式:“春のさわやかミネラル”の方程式
ホタルイカ(ミネラル)+トマト(酸味)+バジル(さわやかさ)
=ソアヴェ(ミネラル、かすかな酸味、さわやかさ)

    ◇

■ホタルイカとトマトの温ポテトサラダ
[材料](2~3人分)
ニンニク・・・1片(みじん切り)
トマト(熟したもの)・・・1個
ジャガイモ(男爵)・・・中2個(塩を入れた水に入れ、水の状態からゆでる。皮をむいてフォークで一口大に崩し、塩をふる。それだけで食べてちょうどよい味付けにしておく)
ホタルイカ・・・120g(目とくちばし、軟骨甲をはずす)
塩・・・適宜
バジル・・・適宜
E.V.オリーブオイル・・・適宜
ルッコラ・・・適宜

[作り方]
1)ニンニクをみじん切りにし、小鍋にオリーブオイルを入れて炒め、香りを立たせる。
2)トマトをダイス状にカットし、ホタルイカと共に温める。
3)2にジャガイモを入れてあえ、仕上げにちぎったバジルとオリーブオイルをかけて混ぜ、器に盛る。あればフレンチドレッシングで合えたルッコラを添える。

<お料理協力 西麻布 みかづき

ワイン5

オリーブオイルに香りをつけ、トマトとホタルイカに、ささっと火を通す

■本日のワイン
D.O.C. Soave Classico / SUAVIA
(ソアヴェ・クラッシコ / スアヴィア)2015

(構成・宇佐美里圭/写真・興村憲彦)

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PROFILE

  • 宇佐美里圭

    1979年、東京都生まれ。東京外国語大学スペイン語学科卒。在学中、ペルー・クスコにて旅行会社勤務、バルセロナ・ポンペウファブラ大学写真専攻修了。ワールドミュージック誌、スペイン語通訳、女性誌、『週刊朝日』編集部を経て、『アサヒカメラ』編集部。料理研究家・行正り香さんの書籍を多数手がける。ラテン音楽、山、ワインが好き。

  • 杉山明日香

    東京生まれ 唐津育ち。理論物理学博士・ソムリエ
    有名進学予備校の数学講師として、主に東大進学クラスや医学部進学クラスを担当するかたわら、ワインスクール「ASUKA L’ecole du Vin」ではソムリエ資格試験対策講座を主宰する。またインポーターとしてシャンパーニュ・ワインの輸入業や、西麻布のワインバー&レストラン「ゴブリン」、パリの和食店「ENYAA」のプロデュースなど、ワイン関連の仕事も精力的に行っている。
    著書に『ワインの授業 フランス編』(イースト・プレス)、『受験のプロに教わる ソムリエ試験対策講座』(リトルモア)、『おいしいワインの選び方』(イースト・プレス)
    ■撮影協力:ゴブリン

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