ほんやのほん

世界7大陸最高峰踏破の記録。『南谷真鈴 冒険の書』

ほんや羽根さん1

撮影/猪俣博史

2016年5月23日、南谷真鈴さんが19歳でエベレストに登頂したことがニュースになった。私は当時、すでに彼女の名前と活躍ぶりは知っていたけれど、特に興味は持っておらず、おしゃれな山ガールの火付け役が登場したくらいとしか思っていなかった。ところが実際に本を読んでみると、そんな安易な考え方ではとてもとらえきれないくらいのスケールの持ち主であることがわかった。

中学生、高校生は「普通」、誰もが自分の進路に夢を描き、そこに向かって努力をしたりするだろう。真鈴さんも同様だ。でもそのスケールは、「普通」という枠があるのなら飛び抜けている。まずそこに衝撃をうけた。

自由に自分らしく生きるために

文章は幼少期のエピソードから始まる。父親の仕事の都合で幼い頃はほぼ海外で生活をしていた真鈴さん。学校では英語や中国語で過ごし、上海、香港の授業で反日教育を学び、家に帰れば日本語を話していた。この生活に矛盾を感じ、自分自身が日本人であることのアイデンティティーを失ったという。

香港ではコンクリートの建築物に囲まれて過ごすうちにストレスがたまっていたこともあり、ひたすら勉強とピアノという両親のもつ自分のイメージを生きることにも疲れた時、学校の課外活動で登山を経験した。それが彼女を大きく変化させることになる。山のとりこになり、すぐに香港の山という山はすべて登ったのだ。

山を登ると、登ること自体が瞑想(めいそう)のようで心のモヤモヤが晴れ、落ち着いて自分を見つめなおすことができたという。「自分の人生は自分でコントロールできる。私が自由に自分らしく生きるために今できることは山登りなんだ!」と感じた真鈴さん。いつか絶対にあの山に登ろうと香港の山の先に小さく見えたエベレストに誓ったのだ。それはわずか13歳の決意。

あまりの過酷さに、思わず涙する

目次をめくるとすぐに、大陸最高峰踏破までの記録が世界地図とともに日付が載っている。2015年1月から16年5月までのわずか1年4カ月で世界7大陸最高峰踏破のみならず、モンブラン、マナスル、コジウスコ、南極点も攻めて踏破している。これを見るだけでもすでに超人だ。

そして、7大陸で挑んだ順番に彼女が撮影した写真とともに記録文がつづられていく。中には250メートル滑落したこと、一緒に登っているチームのメンバーが高度順応できず死んでしまったこと、頂上は100メートル先なのに風速60m/sの嵐が何日も続き数日間テントの中で過ごしたことなど、過酷なことばかり書かれていて涙が出そうになる。それでも写真の彼女はいつも笑っていてどんな困難でも高い壁だとは捉えず、乗り越えたのだ。

そしてついにエベレストに登頂した。真鈴さんは高い山を登る勲章を得るという記録の前に、自分の弱さを克服するための登山をやり遂げたのだ。

本の締めは「これからについて」が書いてある。まずは「探検家グランドスラム」(※7大陸最高峰と、南極点・北極点の両極点の踏破)を完結すること。その先は海のチャレンジを始めるという。ここまでは自分自身の成長のためのプロジェクトであり、真鈴さんの本当のミッションはさらに先まで決まっていて、一つ目は自分の将来の家族形成、二つ目は自分のキャリアを追求すること、三つ目は人間として地球や世の中に貢献することと書いている。

「登山家」「冒険家」になることでもすごいのに、真鈴さんはそこはチャレンジの通過点であると書いているあたり……、行く末が気になる。そして真鈴さんなら必ずやってくれる。そんな期待を抱かせる。

今後も彼女の活躍を応援していきたい。

(文・羽根志美)

>> おすすめの本、まだまだあります

PROFILE

蔦屋書店 コンシェルジュ

12人のブックコンシェルジュの皆さんに、
そのとき一番おすすめの本を、週替わりで熱くご紹介いただきます。

●代官山 蔦屋書店
間室道子(文学)
●二子玉川 蔦屋家電
岩佐さかえ(健康 美容)/大川 愛(食)/北田博充(文学)
嵯峨山 瑛(建築 インテリア)/中田達大(ワークスタイル)
松本泰尭(人文)
●湘南 蔦屋書店
川村啓子(児童書 自然科学)/藤井亜希子(旅)
羽根志美(アウトドア)/八木寧子(人文)
若杉真里奈(雑誌 ファッション)

羽根志美(はね・ゆきみ)

湘南蔦屋書店 アウトドアコンシェルジュ。
前職のアウトドアメーカーでの知識を生かして選書を行い、自らもとにかくアウトドアが大好きな2児の母。子どもから大人まで楽しめるアウトドアイベントも多く企画運営している。
湘南T-SITE 湘南蔦屋書店ホームページはこちら

なにげない日常をいつくしむ。『だいじょうぶ だいじょうぶ』ほか

一覧へ戻る

私たちの社会の「暴言」を読み解くヒント。 『ミシェル・フーコー講義集成』

RECOMMENDおすすめの記事