花のない花屋

2歳になった愛娘へ パパとママはあなたの味方だよ

  

〈依頼人プロフィール〉
谷畑 由佳さん 32歳 女性
石川県在住
主婦

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今から2年ほど前、娘は元気に産声を上げて生まれてきてくれました。待望の“両家の初孫”は、輝かしい未来の幕開けだと信じて誰も疑いませんでした。

私が初めて違和感を持ったのは、2カ月くらい経ったとき。他の赤ちゃんを見て「あれ?」と思いました。他の子たちはモノを目で追うのに、うちの子は反応がありません。少し遅れているのかなと思いましたが、3カ月経っても変わりませんでした。

その後3カ月検診でひっかかり、病院に行くと怒濤(どとう)の検査が始まりました。そして診断されたのは、脳神経の希少難病である「ウエスト症候群」。罹患(りかん)した多くの子が身体的、知的に何らかの障がいを負うというものでした。

すぐに入院しましたが、治療は難航しました。特に娘の場合は、別の希少難病、「非ケトン性高グリシン血症」がベースにあることがわかり、先生方も頭を悩ませていました。薬ではうまくいかず、手術をしてもうまくいかず……、何度も手術を重ね、何種類も薬を試しました。効果がないのに副作用が多かったり、手術したことが原因で別の症状が起こったりと試行錯誤が続き、1カ月の予定の入院は、延びに延びて1年以上になりました。

初めての夏祭り、ハロウィン、クリスマス、そして1歳のお誕生日……。生後4カ月で入院した娘はそれらをすべて病院で迎えました。もちろん母親の私も、付き添いとして1年以上病院生活を送りました。やっと退院にこぎ着けた日、娘はすでに1歳5カ月になろうとしていました。

そして今年の1月末、娘は2歳になりました。相変わらず目でモノは追いません。首も座っていません。病気のせいで笑顔も失ったままです。ひと言で言うと、「重度心身障がい児」です。

娘の名前は真歩。「人生を真っ直ぐ歩むように」と名付けました。自分の足で歩ける日が来るのかまだわかりませんが、希望は捨てません。歩けなくてもかわいい娘であることには変わらないから……。

真歩、2歳おめでとう。これからもパパとママはあなたの味方です。誕生日は過ぎてしまいましたが、初めて家で迎えた誕生日の記念に、すてきな花束を作っていただけないでしょうか。目が見えているかどうかわかりませんので、手触りや香りなど、五感で楽しめる花束を作っていただけるとうれしいです。

  

花束を作った東信さんのコメント

自分も子どもを持つ親として、なんとも言えない気持ちになりました。どうにかならないものか、少しでも色や香りを感じられないだろうか、などいろいろなことを考えながら花を挿しました。

今回の花束は春の香りのオンパレードです。フリージア、ヒヤシンス、キルタンサス、スイートピー……これから花が咲くに従って、さらに香りが強くなるはずです。さらにチューリップやカーネーション、トルコキキョウのつぼみを加え、水彩画のようなパステル調で、いかにも春らんまんといった雰囲気に仕上げました。

人生には本当にいろいろなことがあります。困難なときにこそ、何も言わずそっと寄り添ってくれる花の役割は大きいもの。こういうときにこそ、花を贈る意味があるのでしょう。少しでも花を感じてもらえますように……。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>これまでの「花のない花屋」まとめ読み

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

2歳になった愛娘へ パパとママはあなたの味方だよ

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


言葉のかわりに花束を、多感な時期の娘を育ててくれた姉に

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