花のない花屋

難しい時期もあったけれど、アメリカから愛をこめて母へ

  

〈依頼人プロフィール〉
金 弥玉さん 36歳 女性
アメリカ在住
翻訳・通訳者

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2001年、映画の勉強をするために単身ロサンゼルスへ渡りました。現地の大学ではテレビ制作の学位を取り、卒業後はテレビ制作の仕事に就きました。2006年にはアメリカ人男性と結婚。6年後に離婚しましたが、人生の仕切り直しと思い、そのまま後ろを振り向かず、前進し続けてきました。

でも、その頃から自分の中で何かが変わり始め、都会でテレビの仕事を続けるよりも、自然に囲まれた田舎で自給自足のような生活をしたいと思うように。結局、2013年にテレビの仕事を辞め、高校時代の留学先でもあったミシガン州へ引っ越しました。

それが、日本でずっと応援してくれていた母には理解できませんでした。母は今年69歳になりますが、「やりたいことは、やらないで後悔するよりやって後悔したい」という強い女性。20数年前に離婚しましたが、いつも自分のやり方で夢を実現させ、シングルマザーで3人の子どもを育ててきました。そんな母にとって、私の決断は「夢をあきらめた」としか見えなかったのです。

私にとっては「夢が変わった」だけでしたが、母は「せっかく夢を追いかけてロスまで行ったのに……」という思いが強かったよう。母の理想と私の理想は相いれず、連絡をとること自体が憂鬱(ゆううつ)になってしまいました。

そんな中、年下の男性との間に子どもを授かりました。でも、母にはなかなか報告できず。「稼ぎはあるの?」「学位はあるの?」と相手のことをいろいろ詮索(せんさく)されるに違いなく、それがおっくうだったのです。母の理想の相手と私の理想の相手も、また違うのです。

私の伝え方が悪かったせいで、一時期は険悪な仲になってしまいましたが、昨年11月に無事出産。最終的には、母は孫の誕生を心からよろこんでくれ、近頃は写真やビデオを見ては、いつもうれしそうに電話をくれます。

自分のことを「ひどい娘だな」と思うことはたくさんあります。母は頑固で気難しいところもありますが、愛情と優しさあふれるすてきな女性です。年老いた身体なのに、子どもたちはみんな遠くに住んでいて一人暮らし。私が近くに住んでいれば、もっと孫にも頻繁に会えるのに……といつも罪悪感を感じています。

今までこれといって母へプレゼントを贈ったことはありませんが、母への敬意、感謝、愛を伝えられるような感動的な花束を作っていただけないでしょうか。「なかなか会えないけれど、私は息子とパートナーと共に幸せに生活しています。いつも母のことを思っています。感謝しています」という気持ちを込めて……。

母は、定年退職するまでは老人や障害者のケアマネジャーをしていました。料理が得意で、今は時々お総菜やお弁当を施設に納めたりしています。畑が好きで、長年借りている畑で野菜を育てています。仰々しい華やかなお花より、野花やナチュラルな雰囲気の花束が似合う気がします。もし可能でしたら、ミシガン州で春にたくさん咲くライラックか、ミシガン州の花であるリンゴの花を使っていただけないでしょうか。

  

花束を作った東信さんのコメント

お母さまへ、今まで伝えられなかった感謝の気持ちを伝える花束ということなので、シンプルかつナチュラルにまとめました。

使用した花材は、ご希望のあったライラック、フリージア、グロリオサのつぼみ、スイートピー、ナデシコです。畑が好きなナチュラルなお母さまへの花ですので、薄緑のグリーンをあわせて、生き生きとさわやかなアレンジにしました。

さらに色のついた花を加えることもできましたが、今回は誕生日や記念日などの贈り物ではないので、あまり重たくならないように仕上げました。遠くに住む娘さんからの思い、届きましたか?

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>これまでの「花のない花屋」まとめ読み

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「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

難しい時期もあったけれど、アメリカから愛をこめて母へ

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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