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<62>世界の絵本と触れ合える、小さな青い店

<62>世界の絵本と触れ合える、小さな青い店

 東京・目白の学習院大学の隣に、鮮やかな青い窓枠が印象的な小さな店がある。窓に飾られているのは洋書の絵本。「Ehon House」は、洋書の絵本や雑貨の輸入卸販売会社である「絵本の家」のショールーム兼直営店だ。店内には約20カ国以上もの国々から輸入した絵本や児童書、英語学習教材など約4000冊が並ぶ。その多くは英語だが、フランス語、ドイツ語、韓国語、アラビア語など、さまざまな言語の絵本を揃(そろ)えている。

 「うちは社長をはじめ、スタッフ全員が女性なんです」

 そう話すのは、小さい頃から絵本が大好きだったという同社広報の上野紋華さん。高校時代の友人が書店員で、同社社長の小松崎敬子さんと交流があったことから同社に入社。今年で8年目になるが、「永遠の下っ端なんですけど」と笑う。

 10人足らずの小さな会社なので、みんながさまざまな仕事を兼務し、持ち回りで店番もしている。もちろん、社長が店頭に立つこともある。

 「店番のスタッフが毎回違っていても、それぞれ得意分野がありますし、そのデコボコ感も楽しんでいただければ(笑)。私たちも現場の声を知ることができる貴重な機会ですし、いろんな情報が入ってきますので、営業などの仕事にも生かせています」

 今年で33年目を迎える同社がこの店を構えたのは2004年のこと。「せっかくこれだけの絵本があるんだから、お客さんに手にとって見てもらおう」と思ったのがきっかけだった。オープン当時、店の最寄り駅はJR山手線目白駅。歩いて約7分かかるため、わざわざ歩いて来てくれた人たちのためにカフェスペースを設けた。2013年には店の近くに東京メトロ副都心線・雑司が谷駅ができ、アクセスは格段に良くなった。

 「絵本が好きな方や親子連れだけでなく、英語の教材を探している人、学校の先生や研究者など、さまざまな人が来てくださいます」

 最近、上野さんが増えてきたと感じるのはエドワード・ゴーリー目当ての若い男性客だ。子どもが次々と悲惨な目に遭って殺されるなど、残酷で不条理な世界観を細密なモノクロームの絵で描き熱狂的なファンを持つアメリカの絵本作家だ。エドワード・ゴーリーの棚には原書の絵本はもちろんのこと、イラストをモチーフにした雑貨類、不吉な予言しか描かれていないタロットカード「The Fantod PACK(不安な箱)」など、さまざまな関連商品も充実しているからだ。

 「ほかにも、印刷マニアの方もいらっしゃいますね。輸入絵本には日本の本にはない質感や色合いなどがあるみたいなんです」

 同店のもう一つの特徴は、絵本のキャラクターを使ったオリジナル雑貨が充実していること。海外の出版社とのパイプを生かし、ベストセラー「がまくんとかえるくん」のポストカードや、「かいじゅうたちのいるところ」や「スイミー」のイラスト入り椅子など、ここにしかない商品が並ぶ。こうした雑貨類を見つけるのもまた楽しい。

 店がオープンして13年目。ネット通販の普及に伴い、個人でも海外から本を取り寄せやすくなり、洋書卸業界全体の状況が厳しくなった。絵本は貴重な専門書とは異なって単価はそう高くなく、利益率が高いとは言いがたい。それでも同社は販路をミュージアムショップや雑貨店などに広げたり、オリジナルグッズを作ったりとさまざまな工夫を重ねてきた。

 「ここに来れば、いろんな絵本に直接触れることができます。美しい絵や色使い、匂い、手触りなどをぜひ感じてみてください。また、英語以外の絵本も見ているだけで楽しいんです。言葉はわからなくても、各国の文化や風習、良さは伝わってきますから」

 言葉の壁を超えて世界各国の文化に触れられるのは絵本ならではの良さ。この小さくて青い店は、そんな絵本の魅力を大切にし、誰もが自由に触れ、気軽に購入できる空間を守り続けている。

■おすすめの3冊

ブックカフェ2

『和の行事えほん 英語版』ペーパーバック版(著/高野紀子、訳/マーガレット・ブリアー、股野儷子)
日本人なら知っておきたい「和」の伝統行事と、季節の楽しみをわかりやすい英語で紹介。「日本の行事や風習を外国の人と一緒に楽しめる一冊です。もともとは日本語の絵本だったのですが、ぜひ翻訳して広めたいと思い、独自に出版したんです」

『MR. WUFFLES!』(著/デヴィッド・ウィーズナー)
アメリカの優れた子ども向け絵本に送られるコールデコット賞を2014年に受賞した作品。「これは絵本というよりはコミック漫画のような造りで、男の子も楽しめる内容です。だから、男の子に絵本をあげたい時におすすめです」

『The South African Alphabet』(著/アレックス・ラティマー)
南アフリカの絵本。アルファベットのそれぞれの文字を、南アフリカにゆかりのある言葉で紹介している。「南アに、以前うちの会社で働いていた方が住んでいて、時々珍しい絵本を送ってくれるんです。これもその一冊です。Aは南ア原産で種類が豊富なアロエ、Bは南アのバーベキューであるブラーイなど、生活に密着した言葉がたくさん載っています」

(写真 山本倫子)

    ◇

Ehon House(絵本の家直営店)
東京都豊島区目白1-7-14 みさとビル1F
http://ehon-house.com/

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PROFILE

吉川明子

兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体に週刊朝日、アサヒカメラ(「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、婦人公論、BRUTUS、mi-molletなど。
https://www.instagram.com/a_yoshikawa0227/
https://note.mu/akikoyoshikawa

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