ワインとごはんの方程式

<14>酢豚と黄色いワインの、運命的な出合い

  

みかづき酢豚×サヴァニャン。レシピは記事の最後に

酢豚……と聞けば、やはり合わせるのは紹興酒? でも、実はぴったりのワインがあるのです。中華料理の代表選手と、フランスで最近注目の「ジュラ地方」で造られている、サヴァニャンというブドウ品種100%の黄色いワイン。日本で出合ったこの組み合わせ、一度味わってみると、いままで一緒じゃなかったのが不思議なくらい、情熱的にはまります!

    ◇

明日香 最近、ワイン界でアツい視線を注がれているのがフランス東部のジュラ(Jura)地方っていうところなんだけど、聞いたことある?

リカ うーん、なんか恐竜っぽいものが頭に浮かびますけど……。

明日香 ジュラ紀ね(笑)。実際、スイスと国境を接した場所にあるジュラ山脈の地層の研究から「ジュラ紀」と命名されているんだけれど、ジュラ地方は山間部で標高が高く、とても冷涼なところです。赤・白ワインに加えて、黄ワイン(ヴァン・ジョーヌ)と藁(わら)ワイン(ヴァン・ド・パイユ)の5種類のワインが造られていることが最大の特徴です。

リカ あ、そういえば以前、発酵学者の小泉武夫先生と一緒に黄色いワインを飲んでいましたよね!(ワインのおはなし<特別発酵対談>参照)

明日香 そうそう、あのとき飲んだのがヴァン・ジョーヌです。で、今日持ってきたのが、ヴァン・ジョーヌと同じブドウ品種、サヴァニャン(Savagnin)100%で造った白ワイン、「L’Etoile Savagnin 2011 / Domaine Philippe Vandelle(レトワール サヴァニャン /ドメーヌ フィリップ・ヴァンデル)」です。ちょっと香りをかいでみて。(グラスにワインを入れる)

  

サヴァニャンの“シェリー香”がふわっと寄り添う 

シェリーみたいな、独特の香り

リカ うわ、なんとも言えない独特の香り……! シェリーみたい?

明日香 そう、サヴァニャンの特徴はなんといっても、この“シェリー香”。酸味があって、熟成が進んだときに出る香りがします。紹興酒にも似た香りよね。

リカ 紹興酒と言われると、紹興酒の香りしかしない(笑)。色もかなり黄色いですね。

明日香 これは一応白ワインの部類に入るんだけど、熟成の影響もあります。ちなみに、遺伝子学的にはソーヴィニョン・ブランの親なんですよ。相方はまだわかっていないのだけど。

リカ へえ……。でも、なんでいまジュラ地方がアツいと言われているんですか?

明日香 ジュラは地層がとても複雑に重なっていて、とにかく土壌が豊かなんです。だからいろいろなタイプのワインが造れるんじゃないかって、ブルゴーニュやドイツ、日本からもたくさんの造り手さんが移住してワインを造り始めているんですね。

リカ ワインの一大実験場になってきているのですね。

明日香 ええ。それにヴァン・ジョーヌになると、6年とか7年とか熟成しなきゃいけないので、どうしてもお値段が上がりますが、これは白ワインなので、ヴァン・ジョーヌの半分くらいの値段で買えます。フランスではいまジュラが見直されていて、提供するレストランも増えていますし、日本のワインショップでもサヴァニャンは以前よりも手に入りやすくなってきています。

リカ 知らなかった! 

明日香 ちなみに、ジュラ地方の造り手は“ビオ”とうたっていなくても、減農薬や無農薬でブドウを育てる人が多く、このワインも減農薬で造っています。最近ではパリのビオワイン専門店に行くと、必ずといっていいほどジュラのワインがありますよ。

リカ ジュラワイン=サヴァニャンと思っていいんですか?

明日香 実は一番栽培面積が大きいのはシャルドネです。でもサヴァニャンも25%くらいを占めていますね。

一緒になるべくして生まれてきたカップルのような……

リカ なるほど~。こういうワインにはどんなお料理が合うんでしょう?

明日香 今日は、私が一番合うと思うお料理を用意しました! 西麻布「みかづき」の井浦さんが作ってくれた、新玉ねぎと豚肉のシンプルな酢豚です。紹興酒を合わせるノリでサヴァニャンを合わせてみようかと。

(料理が出てくる)

  

黒酢と米酢、しょうががきいたシンプルで力強い味わい

リカ うわあ、なんだかもう香りだけでばっちり合っているような……。

明日香 でしょう? 井浦さんの酢豚は黒酢と米酢を使い、さらにしょうがを効かせているんですが、このサヴァニャン独特の熟成香にぴったり寄り添っていますよね。もう文句なしの組み合わせだと思います。

リカ では、さっそくいただきま~す!(パクッ)うわ、これは……。一緒になるべくして生まれてきたカップルのような……。

明日香 でしょう? 酢豚とサヴァニャンを合わせている人はほとんどいないと思うけれど(笑)、日本という異国の地で運命的な出合いですよね。

リカ 本当に。何がどう合うと言えないほど、すべての要素がぴったり合っているという感じですね。タレには黒酢と米酢と何を使っているのでしょうか?

明日香 おしょうゆ、お酒、紹興酒も入れているそうです。だから香りもサヴァニャンに合うんですよね。新玉ねぎがないときは、パプリカで作ってもおいしいんですよ。でも具はシンプルな方が私は好きです。このワインも熟成の複雑さはあるけれど、サヴァニャン100%の単一品種のワインです。そういう意味で、シンプルな者同士が合うのかな、と。

和食なら、塩味の焼き鳥にも

リカ こりゃあ、中華料理店にはサヴァニャン必須ですね! それにしても、この独特の香りがなんともいえないです。樽(たる)で熟成させている割には、あんまり“たるたる”していないような。

明日香 そうなの。ジュラ地方の人たちって新樽をほとんど使わないんです。むしろ、樽の香りはあまりつかなくていいと思っているくらい。樽って新しいほど香りが強くつくんですが、2年目、3年目になるとだんだん弱くなり、ほとんど樽の香ばしさはつかなくなります。じゃあ、なんのための樽熟かというと、空気と接触させるためなんです。つまり、酸化させるために樽熟しているんです。ジュラの人たちは樽の香ばしさより、酸化熟成の熟成香を大切にしています

リカ 現地ではどういう風にお料理と合わせているんですか?

明日香 やはりチーズをよく食べます。コンテチーズでチーズフォンデュを食べたり、あとは鶏をヴァン・ジョーヌで煮たり。これまたコクがあっておいしいんです。お料理にも酸化熟成の香りが出てくるので、そういったものとヴァン・ジョーヌやサヴァニャンを日常的に合わせていますね。

  

シンプルどうし、いつまでも飽きずに仲良しです

リカ 日本で合わせるなら、他になんでしょう?

明日香 白身のお肉に合うので、焼き鳥にも合うと思います。前回飲んだマスカット・ベーリーAはたれの焼き鳥、サヴァニャンは塩味の焼き鳥かな。

リカ ん~、サヴァニャンと焼き鳥……ニャンともいえない組み合わせ! 今日は新しい世界をのぞかせてもらいました!

明日香 そう言ってもらえてよかった!

■本日の方程式:“酸味とうまみ”の方程式
酢豚(米酢と黒酢、紹興酒の酸味+豚のうまみ)+新玉ねぎ=サヴァニャン(酸化熟成香+熟成のうまみ)

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■本日のメニュー:みかづき酢豚
[材料](2人分)
豚ロース肉・・・150g
醤油・・・20ml
紹興酒・・・20ml
新玉ねぎ・・・適量
[A]
黒酢・・・20ml
米酢・・・20ml
醤油・・・20ml
砂糖・・・30g
ハチミツ・・・大さじ1
水・・・適量
しょうが・・・適量

作り方
1)豚肉は醤油と紹興酒に漬けて、6~8時間ほどおき下味をつける。
2)Aのすべてを合わせ、水溶き片栗粉でとろみをつける。
3)肉に片栗粉をはたき、からりと揚げる。新玉ねぎもさっと揚げる。Aと合わせて完成。

<お料理協力 西麻布 みかづき

  

豚肉と新玉ねぎを、からりと揚げる

■本日のワイン
L’Etoile Savagnin 2011 / Domaine Philippe Vandelle
(レトワール サヴァニャン /ドメーヌ フィリップ・ヴァンデル)

  

L’Etoile Savagnin 2011 / Domaine Philippe Vandelle(レトワール サヴァニャン /ドメーヌ フィリップ・ヴァンデル)

(構成・宇佐美里圭/写真・興村憲彦)

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PROFILE

  • 宇佐美里圭

    1979年、東京都生まれ。東京外国語大学スペイン語学科卒。在学中、ペルー・クスコにて旅行会社勤務、バルセロナ・ポンペウファブラ大学写真専攻修了。ワールドミュージック誌、スペイン語通訳、女性誌、『週刊朝日』編集部を経て、『アサヒカメラ』編集部。料理研究家・行正り香さんの書籍を多数手がける。ラテン音楽、山、ワインが好き。

  • 杉山明日香

    東京生まれ 唐津育ち。理論物理学博士・ソムリエ
    有名進学予備校の数学講師として、主に東大進学クラスや医学部進学クラスを担当するかたわら、ワインスクール「ASUKA L’ecole du Vin」ではソムリエ資格試験対策講座を主宰する。またインポーターとしてシャンパーニュ・ワインの輸入業や、西麻布のワインバー&レストラン「ゴブリン」、パリの和食店「ENYAA」のプロデュースなど、ワイン関連の仕事も精力的に行っている。
    著書に『ワインの授業 フランス編』(イースト・プレス)、『受験のプロに教わる ソムリエ試験対策講座』(リトルモア)、『おいしいワインの選び方』(イースト・プレス)
    ■撮影協力:ゴブリン

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