花のない花屋

ほったらかしだった娘へ、ごめんなさいとありがとう

  

〈依頼人プロフィール〉
野中裕子さん 59歳 女性
滋賀県在住
パート

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今年、私は還暦を迎えます。娘は誕生日がくると32歳になります。とはえいえ、娘と一緒に暮らしたのは小学校卒業まで。2回の離婚を経て、生きるのに精いっぱいだった私は、中学校からは娘を祖母に預けました。京都の私学に通わせるという大義名分の裏には、自分のことを優先する気持ちがあったことは否めません。

娘はおとなしい子どもで家ではあまり会話を交わした記憶はなく、別々に暮らすようになると、さらに疎遠になりました。中学以降、ほとんど会うこともなく、私も自分のことでいっぱいいっぱい。子どもがいることさえも忘れていたような感じで、祖母に「もっと気をつかいなさい」と言われたこともありました。

そんな娘も大学を卒業して就職。仕事で出会った彼と数年前に結婚しました。その頃から、結婚式の準備で密にやりとりするようになり、娘との距離が急速に近くなりました。最近は私のことまでもいろいろと気遣ってくれるようになり、本当に心のやさしい子に育ってくれたと、祖母を含めまわりに感謝しています。

今は、これまでの時間を埋めるかのように、音楽や美術といった共通の趣味の話で盛り上がっています。たまに会っては、一緒に展覧会やライブに出かけたり、食事をしたりすることが大きな楽しみです。娘と過ごす時間は、私の心の財産です。

ほったらかしにした母親から娘へ、ごめんなさいとありがとうを伝える花束を贈りたいです。

娘は百貨店の婦人靴売り場で働いています。おとなしくほわっとしたやさしい感じですが、ちょっぴり個性的で、黄色い車に乗っています。花の絵を描くのが趣味です。私も娘も伊藤若冲が好きなので、「樹花鳥獣図屛風」のような花束を作っていただけないでしょうか。娘のよろこぶ顔が目に浮かびます。どうぞよろしくお願いいたします。

  

花束を作った東信さんのコメント

伊藤若冲の「樹花鳥獣図屏風」のような花束をとのことだったので、動物的、野性的な花をたくさん使いました。

ストレチア、ゼンマイ、ピンクッション、フリチラリア、ヤトロファなどの個性的な形の花に加え、キクやチューリップ、パフィオペディラムなどもちりばめています。どれも肉感的な花です。

リーフワークも花の雰囲気に合わせてワイルドに。エピデンドラムの葉とアセビの葉をランダムに挿しました。この花束がお母さまと娘さんの架け橋になりますように。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>これまでの「花のない花屋」まとめ読み

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「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。
花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

ほったらかしだった娘へ、ごめんなさいとありがとう

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


難しい時期もあったけれど、アメリカから愛をこめて母へ

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