パリの外国ごはん

蒸し鶏を目当てに、13区へ。「Imperial Choisy 美麗都酒家」

  

イラスト・室田万央里


  

イラスト・室田万央里


  

イラスト・室田万央里

 パリには中華街が二つある。ひとつは右岸のベルヴィル地区。もうひとつは左岸13区で、メトロのPlace d’Italie駅から南下するショワジー通りとイヴリー通りを中心にしたエリアだ。パリに住む日本人の間では通称「ベルヴィル」と「13区」。学生の頃は、家から近い方の13区の中華街によく行っていた。料理学校の実習でカモやホロホロ鳥の丸ごとローストを作っても、次の日には解体して焼きそばの具にし、骨でスープをとって中華そばを作っていた私は、アジア食材が安く手に入る中華街への買い出しが必須だったのだ。その後、韓国食材店も増えて、中心地でもアジア食材が買いやすくなった。いつしか、中華街へも行かなくなっていた。

ベジタリアンでも、無性に食べたくなる味

 「13区、行かなくなったねぇ」と話したときに「でも、あの蒸し鶏は、無性に食べたくなることがある」と万央里ちゃんが言い出した。基本、ベジタリアンの彼女。が、鶏を食べに行くという。「蒸し鶏が有名なお店なんてあるんだ! 知らないなぁ。どこそれ?」と聞くと、場所を教えてくれた。見ると、何度も行ったことのあるお店だった。語学学校でも、料理学校でも、クラスメートだった台湾人の友人たちと中華街でごはんとなると、このお店に連れて行かれた。でも、蒸し鶏を食べた記憶はない。そう伝えると、「じゃあ、行こうよ!」と、春の陽気になってきたある土曜日のお昼に行くことになった。

 その日お店に着いたのは、12時10分すぎ。すでに店内から外まで行列ができていた。土曜だったし、ちょうど学校が春休みに入る週末だったからか、家族連れが多かった。アジア人率が圧倒的に高かったけれど、面白いことに、このお店の中ではフランス人がアジア人の中に溶け込んでいる印象で、もしかしたら結構フランス人もいたのかもしれない。青白ギンガムチェックのシャツを着た、フロアの責任者らしい男性のきびきびとした采配で、意外に順番はすぐにやってきそうだった。地下の席でも良ければ早くに空きが出たのだけれど、入ってすぐのカウンターやら店内の動きが見たい私たちは、1階の席が空くのを待ち続けた。25分ほど経ったところでようやくテーブルへ。

 メニューを開くと、最初のページにずらっと並ぶ“スペシャリテ”のいちばん上に、「葱油●肥鶏」と書かれたものが載っていた。フランス語では「地鶏のショウガとネギ風味」とある。万央里ちゃんが調べたところによると、●の日本語にはない漢字(偏が”火”で、つくりが“局”)は“蒸し焼き”の意味なのだそうだ。こんな、スペシャリテの最初にあるのに食べたことがないのはどうしてだ? と不思議だった。でも、いつもこってりした味のものをみんなで頼んでいたよなぁと思い出した。若かったのですね。

 このネギ油蒸し鶏とエビワンタン麺は、万央里ちゃんが食いしん坊友だちに連れられ初めて訪れ、お勧めと教えてもらった日からずっと、お決まりの2皿ということで注文することにして、さて他は何にしようか。私は、めったにチャーハンを頼むことはないのに、待っている間に運ばれていくのをいくつも目にしたからか、このお店のチャーハンを食べてみたくなった。それで珍しく注文。あとは空芯菜とカイランの炒め物を、それぞれにんにく抜きでお願いした。

 ほどなくして蒸し鶏を除く4皿が一気に運ばれてきた。確かに、エビワンタンは見るからにぷりっぷり。こういうおいしそうなものを目にすると、なんでいままでこれを知らなかったのだろう? という気持ちになって、一瞬、恋に落ちたような気分になる。私の目があまりにワンタンに注がれていたのか、万央里ちゃんが小さな器をもらって、分けてくれた。

 遅れてやってきた蒸し鶏のお皿を真ん中にどーんと置いて、いざ、いただきます! 何から食べよっかなぁ、やっぱり蒸し鶏かな、と目の前のお皿を見て、思った。仮に、蒸し鶏と油淋鶏(揚げ鶏の甘酢ネギソースがけ)が選択肢としてあったなら、私は9割以上の確率で、油淋鶏を選ぶ。鶏のから揚げが大好きなのだ。だから、万央里ちゃんがこうやって勧めてくれなければ、きっと一生このお店の蒸し鶏も食べないまま終わっただろう。

パリ2-5

 ありがたい思いで蒸し鶏をひと口食べると、こう言ったら失礼だけど、中華街とは思えないしっかりした肉質の鶏で、思わずまじまじと食べかけのお肉を見てしまった。おろし生姜のたっぷり入ったごま油のたれを少しつけて、またひと口。これはチャーハンじゃなかったなぁ…と思った。実にシンプルなおいしさで、白いごはんに青菜炒め、そこにこの蒸し鶏を乗せたらきっと完璧だった。心の中で、万央里ちゃんすまん!と思いつつ、チャーハンをよそう。食べる前からちょっとネガティブ評価になってしまったチャーハンは、パラっとしっとりが同居した、具とお米のバランスの良い、こちらもちゃんとおいしいものだった。

パリ2-4

 そしてエビワンタン。食べてみると、ぷりっぷりじゃなくて、もうそれはぶりっぶりと言いたくなるくらいで。見事に食べ応えのあるエビワンタン。麺も蝦子入りの細麺で、これは次回もまた頼むだろうなぁ。いつも通り、万央里ちゃんが先におなかがいっぱいになり、少しずつお皿に残っていたものを私が全部平らげた。

 帰ってきて写真に撮ったメニューを見ていたら、スペシャリテが書かれたページのいちばん下に、揚げエビワンタン、とあるのを見つけた。あのぶりっぶりエビワンタンを揚げてるのだろうか? エビワンタン麺と揚げエビワンタン。選ぶのは難しいから、4人くらいで行って両方食べたいなぁ。
 
パリ2-6

■Impérial Choisy 美麗都酒家
32, avenue de Choisy 75013 Paris
01 45 86 42 40
12:00~23:00
無休

PROFILE

  • 川村明子

    東京生まれ。大学卒業後、1998年よりフランス在住。ル・コルドン・ブルー・パリにて製菓・料理課程を修了後、フランスおよびパリの食にまつわる活動を開始。現在は執筆のほか、パリで活躍する日本人シェフのドキュメンタリー番組『お皿にのっていない時間』を手掛けている。著書に『パリのビストロ手帖』『パリのパン屋さん』(新潮社)、『パリ発 サラダでごはん』(ポプラ社)、昨年末に『日曜日はプーレ・ロティ』(CCCメディアハウス)を出版。
    日々の活動は、Instagram: @mlleakiko、朝ごはんブログ「mes petits-déjeuners」で随時更新中。

    https://www.instagram.com/mlleakiko/
    http://mespetitsdejeuners.blogspot.com/

  • 室田万央里(イラスト)

    無類の食べ物好きの両親の元、東京に生まれる。
    17歳でNYに移り住んだ後、インドネシア、再び東京を経て14年前に渡仏。
    モード界で働いた後に“食べてもらう事の喜び”への興味が押さえきれずケータリング業に転身。
    イベントでのケータリングの他、料理教室、出張料理等をパリで行う。
    野菜中心の家庭料理に妄想気味のアジアンテイストが加わった料理を提供。理想の料理は母の握り飯。未だその味に到達できず。
    Instagram @maorimurota

辛くても優しいモーリシャス食堂 「La Caravelle」

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インド街で食すインド・スリランカ料理「Muniyandi Vilas」

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