このパンがすごい!

厳選素材で目指す「日本一のパン」/俺のBakery&Cafe

俺のBakery&Cafe(東京)

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 恵比寿ガーデンプレイスの入口に行列ができている。「俺のフレンチ」「俺のイタリアン」で知られる「俺の株式会社」がパン屋を出した。生食パン、1本1000円(2斤分)。その実力はどうか。

 見た目にも「やわらかオーラ」が漂っている。重力に抗(あらが)えず、形が垂れ気味に乱れているのだ。皮目から漂うミルキーな香りと、発酵が生む豊かな熟成香を嗅いだとき、胸が震えた。食感は、もちもちよりもっとやわらかいほわんほわん。跳ねながら沼のように歯がめり込んでいく、小麦の液状化現象。ミルキーかつフルーティーな、マンゴーミルクのようなフレーバーが大量に鼻孔へ立ち上る。耳もさくっとして、中身以上に濃厚なミルキーさ、甘さが口中を駆け巡る。

 「日本一の食パンを作りたい」。「俺のBakery&Cafe」の出発点はそこにあったと、支配人の飯田卓也さんは言う。味が最高の「ミルクを使った甘めの食パン」を作って、売り上げ1000本を目指したいと。プロデューサーとして白羽の矢を立てたのは、元ドミニク・サブロンのシェフ、気鋭の榎本哲さん。

 最高の素材を使うのが「俺の」の流儀。「ミルクは自然放牧の『なかほら牧場』の脱脂乳にたどりつきました。値段は一般の牛乳の10倍」。直接飲むのならいざ知らず、パンは発酵→焼成という過程を経るのに、牛乳の質はそれほど大事なのか。「作ってみたら(他の乳とは)まったくちがっていたんです」と榎本さん。それが冒頭書いた風味。素材は正直なのだ。

 小麦粉もいろいろ試した末、乳製品と抜群の相性があるキタノカオリに決まった。湯種(お湯でこねてでんぷんをα化させる製法)を使うこと、90%以上の水分も、甘さ、やわらかさのもとになっている。

 自然そのままの素材はぶれやすい。試作は困難を極めた。

 「低温殺菌だしノンホモ(脂肪球を処理していない自然の牛乳)。ナチュラルすぎて季節ごとにすごくぶれます。他の乳と比べても比較にならないぐらい窯(かま)伸びがしづらい。ミキシングや発酵の制御……押さえるポイントがいっぱいあります」

 素材選び、試作、スタッフのトレーニングと完成まで1年以上を費やしたという。日々の仕込みも大変だ。

 「キタノカオリを使っているせいで、ますますむずかしくなりました。ミキシングの適正の幅も少ないですから。ぶれるときはぜんぜん生地があがりません」。ミキシングのとき、榎本さんの考える「いまできあがった」という状態からわずか数秒以内でなければ、適正のこねあがりにはならない(それ以上つづけるとこねすぎになる)。その見極めができるのも、スタッフが食パンのエキスパートになる「専門店」だから。

 カフェでは、この食パンを元に「俺の」グループ各シェフが手がけたサンドイッチが食べられる。厚焼きたまごのサンドイッチは、ふわりとしたパンに卵焼きぷるん。卵液及びダシが滴(したた)りまくり、パンがそぼぬれていく。卵の甘さがパンの甘さと出会う興奮。それが覚めやらぬところに辛子がきーんときいて締めくくる。

 小倉と有塩バターサンドイッチは、砂糖を入れない山型食パンで作られる。垂れ落ちるほどたっぷりの小倉あんから怒涛(どとう)のごとくあふれだす豆の風味。それに対し、厚切りバターと食パンの味わいが対抗。強烈さと強烈さが競いあう。

 おかず系は、山型食パンで作られる。「俺の」らしく手加減なしで高級食材を使う。イベリコ豚カツサンドイッチは、ぷるぷるの肉に、ふにゃっとやわらかい山食パンがシンクロする。魔性のイベリコ風味とパンの耳の香ばしさも仲睦(むつ)まじい。とろける脂、ソース、粒マスタードのすっぱ辛味が混然一体となる。

 チーズとたまごのトースト トリュフ風味。トリュフのセクシーな香りがつんと鼻孔に直撃。そこへ半熟卵の黄身とチーズがとろり甘く溶け、刺激と癒やしの股裂き状態が快楽を引き起こす。

 「日本一」は果たして実現したのか。テイクアウトで売り上げ1000本、カフェの分も入れると1200本を超える日も出てきたそうだ。頂はもう見えてきている。

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俺のBakery&Cafe
東京都渋谷区恵比寿4-20-6 恵比寿ガーデンプレイス 時計広場
03-6277-0457
カフェ 8:00~21:00(ラストオーダー20:00)/食パン販売 10:00~21:00(不定休)

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PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

http://panlabo.jugem.jp/

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