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窓の向こうの景色と生活 『団地のはなし』ほか

窓の向こうの景色と生活 『団地のはなし』ほか

撮影/馬場磨貴

小学生のころ、団地に住んでいました。ブロックのような建物の2階の部屋の北側の窓からは同じような建物のベランダに干された布団や洗濯物、日が落ちてくると一つ一つ明かりがともっていった様子を覚えています。そんな、今でも鮮明に記憶に残っている団地について、今回は3冊の本をご紹介します。

工業団地の新婚夫婦の物語

まず紹介したいのが、 高野文子の『棒がいっぽん』に収録されている『美しき町』という(まさに美しい)短編漫画です。昭和の経済成長期手前の時代、地方都市の工業団地に住むサナエさんとノブオさんの物語。新婚夫婦のつつましく穏やかな生活に小さな出来事が起きます。訳あって明け方まで部屋で作業をしていた2人がベランダ近くでホットミルクを飲みながら、未来から見た今の自分を思い出すラストショットが美しく表現されています。

団地が舞台の漫画集

『サザンウィンドウ・サザンドア』は、とある団地が舞台の12のオムニバス短編漫画集です。団地というビルディングタイプができ、建てられはじめた頃、そこに住むのは『美しき町』の工業団地に住んでいたような同じタイプの人々でした。けれど、建物が古くなり、居住者の新陳代謝が進むことで、新旧入りまじった景色が広がり、多種多様な人々がそれぞれの暮らしをしているというのが現在の団地です。

地縁がなくなってしまった現代において、団地という場所を通じて、異世代の他者との小さな触れ合いによって主人公が変わっていくというお話です。それができる距離感をいとしく、うらやましく思います。団地に住む作者の優しい視線が感じ取れる作品です。

東京R不動産が贈る短編集

『サザンウィンドウ・サザンドア』の作者・石井さやかさんのインタビューも収録されている『団地のはなし』は、団地の棟が連なったような凝った装丁が魅力的な一冊です。

山内マリコさんによる、団地に住むことになった留学生から見た日本での生活を表現した小説や、大学で建築を学んでいた菊池亜希子さんへの理想の住まいのインタビュー、カシワイさんの漫画、昼下がりの穏やかな団地の様子を切り取った黑田菜月さんの写真など、多岐にわたる表現が、多様な人々が暮らしている団地を表しているかのようです。

3冊の本は、幼かった頃に窓から見た景色を思い出させます。それぞれの窓の向こうに、ひとりひとりの生活が息づいていたのでしょう。団地を舞台にした小説や映画に触れることで、過去の記憶に思いをはせてみてはいかがでしょうか。

(文・嵯峨山瑛)

>> おすすめの本、まだまだあります

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蔦屋書店 コンシェルジュ

そのとき一番おすすめの本を、週替わりで熱くご紹介します。

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嵯峨山瑛(さがやま・あきら)

二子玉川 蔦屋家電、建築・インテリアコンシェルジュ。
大学建築学科卒業後、大学院修了。専門は都市計画・まちづくり。
大学院在学中にベルギー・ドイツに留学し建築設計を学ぶ。
卒業後は、出版社やリノベーション事務所にて、編集・不動産・建築などの多岐の業務に関わる。

僕は少しずつ選び、世界は少しずつ変化していく。『10:04』

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