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「うさこちゃん」が教えてくれたこと―ブルーナさん、ありがとう

撮影/猪俣博史

撮影/猪俣博史

『うさこちゃんとあかちゃん』ディック・ブルーナ 文・絵 松岡享子 訳 福音館書店 756円(税込み)

『うさこちゃんとあかちゃん』ディック・ブルーナ 文・絵 松岡享子 訳 福音館書店 756円(税込み)

『うさこちゃんのだいすきなおばあちゃん』ディック・ブルーナ 文・絵 松岡享子 訳 福音館書店 756円(税込み)

『うさこちゃんのだいすきなおばあちゃん』ディック・ブルーナ 文・絵 松岡享子 訳 福音館書店 756円(税込み)

『うさこちゃんとにーなちゃん』ディック・ブルーナ 文・絵 松岡享子 訳 福音館書店 756円(税込み)

『うさこちゃんとにーなちゃん』ディック・ブルーナ 文・絵 松岡享子 訳 福音館書店 756円(税込み)

『うさこちゃんとたれみみくん』ディック・ブルーナ 文・絵 松岡享子 訳 福音館書店 756円(税込み)

『うさこちゃんとたれみみくん』ディック・ブルーナ 文・絵 松岡享子 訳 福音館書店 756円(税込み)

『ディック・ブルーナのデザイン』芸術新潮編集部 編 新潮社 1512円(税込み)

『ディック・ブルーナのデザイン』芸術新潮編集部 編 新潮社 1512円(税込み)

『ミッフィーからの贈り物 ブルーナさんがはじめて語る人生と作品のひみつ』ディック・ブルーナ 著 講談社文庫 745円(税込み)

『ミッフィーからの贈り物 ブルーナさんがはじめて語る人生と作品のひみつ』ディック・ブルーナ 著 講談社文庫 745円(税込み)

2017年2月16日、ひとりの絵本作家が故郷オランダ、ユトレヒトにある自宅で息を引き取った。ディック・ブルーナ。日本でも大人気のミッフィー(うさこちゃん、以下愛を込めて「うさこ」と呼ぶ)の生みの親である。コップの表面だとか、母の日のお花屋さんだとか、銀行の通帳だとか、テレビの中だとか、うさこは昔から生活のあらゆるところにいて、私はいつもうさこと一緒だった(今でも)。

うさこは、ただの「かわいいうさちゃん」ではない。ブルーナさんは何十にもわたるシリーズのなかに、人生で大切なことを、たくさんたくさんちりばめているのだ。

例えば、あまり知られていないかもしれないけれど、うさこの家には小さな赤ちゃんがいる。お父さんとお母さんから赤ちゃんの秘密を聞いて全身で喜びを表現するうさこ。赤ちゃんが生まれたとき、そのあまりの小ささに驚きを隠せない様子は、自分が姉になったときと気持ちが重なる。

読者とまっすぐ向かい合う、うさこのまなざし

別のシリーズでは、大好きなおばあちゃんが死んでしまう。初めて見るおじいちゃんの涙、棺の中で眠るおばあちゃん、その棺が閉じられる瞬間、お墓に花を手向けるうさこ。ブルーナさんは、死を確かに描写する。

はたまた別のシリーズでは、肌(毛?)の色の違う遠い外国の友人にーなちゃんが登場。にーなちゃんの肌の色を見て、うさこは言う。「あなたのいろ とてもきれいね すばらしい ちゃいろね」。学校には、片方の耳が垂れているダーンが転校してきた。彼の「たれみみ」は障害だ。ダーンはそれゆえに、クラスメートから「たれみみくん」とからかわれるのだけど、ここでうさこは考える。「あした、 くらすの みんなに いおう たれみみって よぶのは よくないって」。うっとりしてしまう。なんて優しくて勇敢で、すてきな女の子なんだろう。

うさこたちは、本の中でいつも正面を向き、こちらを見ている。それは「うれしいときにも悲しいときにも目をそらすことなく、読者の子どもたちと正直に対峙(たいじ)していたい」というブルーナさんの熱い思い。命の誕生と終わり、肌の色や身体の作りが違うこと。絵本を読む子どもたちを子ども扱いしないのだ、ブルーナさんは。なんだかもう、一生ついていこうと思った。自分の子どもにも、絶対にうさこちゃんシリーズを読んであげよう。

ブルーナさんの描くものは、よく見ると、線が震えている。ぶるぶるぶる。「わたしの線は、いつもすこし震えています。まるで心臓の鼓動のように。震える線はわたしの個性なのです。」ブルーナさんは言った。ブルーナさんの命が脈打つ音は残念ながらもう今は聞くことができない。でも、その律動の軌跡は、ブルーナさんが残してくれたたくさんの物語の中にしっかりと刻み込まれている。いつまでも、これからも、ずっとずっと。ブルーナさん、本当に、本当に、ありがとう。

PROFILE

蔦屋書店 コンシェルジュ

12人のブックコンシェルジュの皆さんに、
そのとき、一番おすすめの本を週替わりで熱くご紹介いただいています。
●代官山 蔦屋書店
間室道子(文学)
●二子玉川 蔦屋家電
岩佐さかえ(健康 美容)/大川 愛(食)/北田博允(文学)
嵯峨山 瑛(建築 インテリア)/中田達大(ワークスタイル)/松本泰尭(人文)
●湘南 蔦屋書店
川村啓子(児童書 自然科学)/重野 功(旅行)/羽根志美(アウトドア)
八木寧子(人文)/若杉真里奈(雑誌 ファッション)

長谷川彩(はせがわ・さい)

湘南 蔦屋書店 児童書コンシェルジュ。新卒で入った会社をたった1年で退職した後、北海道富良野でラベンダーに囲まれ半年を過ごす。滞在中「私には本しかない」と悟り、帰郷。現在は、選書集団BACHにも所属し、武者修行中。いつか直接お礼を言いたい命の恩人(=それはもう影響を受けた人)に松浦弥太郎、又吉直樹、西加奈子がいる。

純文学小説って何だろう。『ゆらぐ玉の緒』

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台所が人をみがいてくれる。幸田文『台所帖』

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