パリの外国ごはん

ベルヴィルの中華街で食べる、黒いカニごはん。「Le Grand Bol」

  

イラスト・室田万央里


  

イラスト・室田万央里


  

イラスト・室田万央里

 前々回ご紹介した13区の中華街に対し、右岸にあるベルヴィルの中華街は、お店が密集していて人も多く、少しごちゃごちゃしている。そして、よりダイナミックな感じがする。そのベルヴィルで、ここ数年、私が食べるのはもっぱらタイ料理と肉まんで、他のお店はあまり知らない。ただ昨年くらいから、料理人の友人が「おいしい」と言って頻繁に行っているお店があって、そこには行ってみたい、と思っていた。

 そのことを万央里ちゃんに伝えると、すでに行ったことがあって「うん。あそこはおいしいよ。魚介のおいしそうなお料理がたくさんあるんだけど大皿で出されるから、何人かで行ってシェアするのが正解」と教えてくれた。

中国人のお客さんが注文するものに、いつも見ほれる

 お店は、中国人のご夫婦ふたりでやっていて、ご主人が寡黙に厨房(ちゅうぼう)で料理を作り続け、奥さんがひとりでサービスを担当。ただ、おそらくあまりフランス語が流暢(りゅうちょう)ではなく、お料理の説明がないからかフランス人はお決まりの料理ばかりを注文している、と万央里ちゃんは不満げだった。

 それを目にするたびに「もうー!もっとほかにおいしいものがいくつもあるのにー!」と歯がゆくてたまらないらしい。対して中国人のお客さんのテーブルは、あれはなんだ? と気になるものが次々に運ばれ、見ているだけで興味がつきないのだそうだ。

 約束をした日、私がお店に着くと、万央里ちゃんはすでに先に来ていていちばん奥のテーブルに座っていた。店内は満席だった。壁には、おすすめの料理名を漢字で太い短冊に縦書きしたものが並んでいる。そのどれもが、ほかのお店にはないもののようだった。そのいくつもの短冊のほかにも、「新菜」と書かれた黒板メニューが立てかけてある。

 さらに、席に着くとプラスチックのカバーがかかったメニューを渡された。開くとかなりの数が記載されていて、いくつかは料理写真も載っていた。どうもこのスタンダードのメニューにも、パリではほかで見たことがない(ように思う)料理が結構あった。エビの茶葉炒め、エビと干し野菜の炒め、牛スジ肉の海鮮炒め、カニの塩漬け卵炒めなどなど。漢字は簡体字が使われていて、それも不慣れで新鮮だった。

 「おすすめはね、このカニごはん」と私のちょうど後ろにあった短冊を指して万央里ちゃんが言った。「黒糯米炒蟹」と書かれたそれは、黒米の糯米(もちごめ)とカニの身の炒め物だそうだ。まずは一品決定。店内を見渡すと、ピラミット状にきれいに重ねられた豚バラ肉の蒸し物っぽいものがいくつかのテーブルに出ていた。

 その私の視線に気づいたらしい万央里ちゃんが「あれね、おいしいけど、ふつうです。見た目気になるから前に頼んだことあるんだけど」と言うので、今日は却下。見るからにこちらのお料理はどれもボリュームがあった。この日は私たち2人だけだったので、糯米を頼むし、あとは点心とお野菜が良いかな、と点心のページを開く。

 小籠包は食べたいね、と取ることにして、私が気になったのは、写真が出ていたミニサイコロ状食パンが衣になっているエビ団子。郷愁に誘われ食べたくなった。残り一皿は、葉野菜と海鮮の炒め物に。

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 待っている間に、隣の中国人カップルのテーブルに運ばれてきたマテ貝は、とてもおいしそうだったのだけど、ひと皿に18本くらい盛られていた。さすがの私も、これを2人で食べるのはちょっときついんじゃない?と横目で見つつひるんだ。そのカップルが頼んでいたもう一品は前述した豚バラ肉で、ごはんと一緒に食べていた。

 やっぱりここは大勢できた方が良いな、と思っているところに、シンプルにエビ団子が4つだけ乗ったお皿がきた。ソースは2種類。スイートチリソースとチリソース。さっそく食べてみると、ん?予想外の味がした。衣は、食パンだろうと思っていたけどホットケーキミックスみたいな味がするなぁ……気のせいかなぁ……子供のころ結構好きだった、アメリカンドッグの外側(ってわかりますかね?)の味を思い出した。

 それとも、中のエビのすり身の味付けが、食パンと合わさってそう思わせたのかしら? 見た目も盛り付けもシンプルなエビ団子だったのに、意外にも頭の中でごちょごちょ考えつつ、さくさくの衣とエビのぷりっと感に、懐かしい味わいを楽しんだ。

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 次にやってきた小籠包は手作り感の伝わってくるもので、ひと口ほおばると、期待を裏切ることなくじゅわっとスープが出てきて大満足。黒酢をつけて食べながら、そういえば日本だったら千切りショウガが出てくるよね、と思い出す。ここの小籠包は、ショウガが合いそうだ。

 続けて出てきた野菜炒めは、白菜かと思っていた葉野菜がレタスだった。これはうれしいサプライズ。メニューを見たときから感じていたことだけれど、パリのほかの中華料理店とはやっぱりラインナップが相当違うっぽい。これはまた来ないとな。

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 最後に登場したカニ黒糯米ごはんは、「これ、もち米なんだよね?」と確認したくなるボリュームだった。もちもちごはんと殻ごと加えられたカニはおいしかった。ただ、殻から身を出している間に、ごはんがどんどんおなかにたまっていく。わりとこってりした味付けで、お茶を頼みたかったけれど、これでお茶を飲んだらごはんが食べきれない、と思ってやめておいた。それでも甘じょっぱい味に食べ進み、結局完食した。

 満席だった店内はすでに、半分以上のテーブルが空いていた。始めにいたグループが帰り、そのあとに隣の隣のテーブルについた3人家族のところへ、お鍋と、具の盛られたお皿が運ばれてきた。あーお鍋があるんだねー、おなかいっぱいでのんきに言っていた私たちの目の前で、その家族のお母さんは、お皿にのっていた具を一気に全部お鍋のなかに、ざーーーっと入れたのだ。びっくりした。カニごはんのボリュームにも驚いたけど、この最後の光景が、この日いちばんのインパクトだった。

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Le Grand Bol海碗居
7, rue de la Présentation 75011 Paris
tel 01 77 16 89 91
12時~15時、18時30分~23時(日:12時~23時)
休:火昼

PROFILE

  • 川村明子

    東京生まれ。大学卒業後、1998年よりフランス在住。ル・コルドン・ブルー・パリにて製菓・料理課程を修了後、フランスおよびパリの食にまつわる活動を開始。現在は執筆のほか、パリで活躍する日本人シェフのドキュメンタリー番組『お皿にのっていない時間』を手掛けている。著書に『パリのビストロ手帖』『パリのパン屋さん』(新潮社)、『パリ発 サラダでごはん』(ポプラ社)、昨年末に『日曜日はプーレ・ロティ』(CCCメディアハウス)を出版。
    日々の活動は、Instagram: @mlleakiko、朝ごはんブログ「mes petits-déjeuners」で随時更新中。

  • 室田万央里(イラスト)

    無類の食べ物好きの両親の元、東京に生まれる。
    17歳でNYに移り住んだ後、インドネシア、再び東京を経て14年前に渡仏。
    モード界で働いた後に“食べてもらう事の喜び”への興味が押さえきれずケータリング業に転身。
    イベントでのケータリングの他、料理教室、出張料理等をパリで行う。
    野菜中心の家庭料理に妄想気味のアジアンテイストが加わった料理を提供。理想の料理は母の握り飯。未だその味に到達できず。
    Instagram @maorimurota

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