東京ではたらく

千代田区のホテルコンシェルジュ:山岡有葉(あるは)さん(37歳)

はたらく2ー1
職業:ホテルコンシェルジュ
勤務地:千代田区のホテル(ザ・キャピトルホテル 東急) 勤続:2年2カ月
勤務時間:6時30分~15時30分または13時~22時(シフト制) 休日:週休2日
この仕事の面白いところ:毎日さまざまなお客様と出会えること
この仕事の大変なところ:常に緊張感との戦い
    ◇
 仕事内容は主にお客様のリクエストにお応えして、充実したご滞在となるようお手伝いをするというものです。私が働くホテルでは2カ所にコンシェルジュデスクがございます。ひとつは3階フロント横。もうひとつは27階にあるクラブフロアのラウンジです。

 私が常駐しているクラブフロアのラウンジというのはスイートルームやクラブルームにお泊まりのお客様が専用にご利用いただけるスペースで、ご宿泊に関する手続きやご旅行のあらゆるご相談や会議室、ご飲食のサービスを提供しています。

 お客様の多くが外国人で、「新幹線の切符をとってほしい」等の旅のリクエストを多くいただきます。また、「日本にきたらおいしいものが食べたい」という方も大変多くレストランのアレンジをお受けしています。来日前から「ミシュランの星付きレストランを予約してほしい」というリクエストをいただくことは日常茶飯事です。

 でもミシュラン店の席を確保するのは至難の業。なかには抽選制というお店もあり、ご希望に添えないことも多々あります。そんなときは「ミシュランの星付きのお店ではないですが、こんないいお店がございますよ」と代替案を提案しています。ポイントはお店のホームページや写真を見せてご案内すること。実際、東京には星付きでなくても素晴らしいお店はたくさんありますから、お店の雰囲気を見てもらうと「いいね、じゃあここにしよう」と喜んでいただけることがほとんどです。

 おすすめのお店や商業施設はコンシェルジュデスクでリストアップしてますが、それでも常にアップデートしていかないと東京の変化のスピードにはついていけません。実は私、食にあまり興味がなかったのですが、この仕事に就いてからは、焼き肉やおすし、話題のお店など、意識的に外食するようになりました。

 あとはとてもよく歩きます。とくにホテルのある赤坂近辺はひたすら歩き回って「ミッドタウンへはこの道を行けば早いんだ」など、自分の中に地図を作るような感覚で勉強しています。やはり自分がその場に行ったり、体験してみないことには上手なご案内はできませんし、できたとしても上辺のご案内だと意味がないので。

 印象に残るリクエストは、ビジネスでお越しの外国人の方が、「僕、明日オフなんだけど、何したらいいかな。 僕の1日を計画してよ」と相談されたこと。このようなときはそのお客様はどんな方なのか、何に興味を持たれているのかをとにかくお聞きすることから。東京の名所観光をしたいのか、ショッピングがしたいのか、体を動かしたいのか。美術鑑賞であれば、例えば日本の工芸品かモダンアートか。そこを引き出してからがご案内の本番というわけです。

 毎日いろいろなお客様に会えるので、刺激的な仕事ではありますが、よりお客様と近しくお話しする機会も多いため、3年目になった今も常に緊張感を持って仕事をしています。毎日帰宅するとぐったりしちゃうくらい(笑)。ストレス発散法は旅行です。休みがあるとぴゅーっとひとりで出かけてリフレッシュ。旅は学生時代から大好きで、海外もたくさん周りました。だからこの仕事を楽しく続けていられるのかもしれません。

「何者にもなれない自分」を変えてくれた仕事

クラブフロアにあるコンシェルジュデスクであらゆる相談に対応する


クラブフロアにあるコンシェルジュデスクであらゆる相談に対応する

 生まれも育ちも東京都港区です。大学では写真や映像を専門的に学びました。父は建築、母は絵画やデザインを生業にしているということもあってか、大学を卒業する頃には「もっと芸術について学びたい」という意欲が出てきて一念発起、美術大学を受験。さらに4年間美大に通うというぜいたくな学生時代を過ごさせてもらいました。

 卒業後はニューヨークの写真専門学校へ留学。アメリカで写真家になるという目標を掲げて活動していたのですが、そんなに甘いものではありませんね。いくつかチャンスは巡ってきたのですが、「ずっとアメリカで暮らすの? 家族は? 恋人は?」。いろいろ悩んだあげく、28歳で帰国しました。もしあのときアメリカに残る決心をしていたら? そんなふうに思うことは今でも正直あります。

 帰国後は都内の美術館でご案内の仕事に就きました。最新のデジタルアートを扱う美術館でしたが、展示はもちろん、それを見たときのお客様の反応が面白くて。アルバイトのつもりが6年間勤めてました。退職後は憧れていたアルゼンチンに半年間滞在し、スペイン語を習得。英語とスペイン語ができるならと、知人からの勧めを受け、今のホテルへ入社しました。

27階のクラブフロアは国会議事堂やスカイツリー、お台場まで見渡せる気持ちいい風景が自慢。夜はいちだんときれいです


27階のクラブフロアは国会議事堂やスカイツリー、お台場まで見渡せる気持ちいい風景が自慢。夜はいちだんときれいです

 ホテルの仕事に対しては、小さい頃に淡い憧れを抱いていたことはありましたが、これまで打ち込んできた写真や芸術の分野とはかけ離れた仕事です。フロントに立ちながら、「いったい自分は何になりたいんだろう?」「何をやっても中途半端な自分をなんとかしなきゃ」と悩み、苦しい時期もありました。

 そんなとき、ホテルの先輩からこんな言葉をかけられました。「山岡さん、まずいいペンを買いなさい」って。ラグジュアリーホテルのフロントスタッフなのだから100円のボールペンを使うのはやめましょう、と。何げない一言ですが、これをきっかけに、明らかに意識が変わりました。

「自分はラグジュアリーホテルで働き始めたんだ」という自覚が芽生えて、地に足のつかない人生にけじめがついたというか、自分の中に軸ができたような感じです。同時に、モヤモヤと悩んでいた写真についても、「表現を続けたいなら、趣味でやればいいじゃない」と前向きに割り切れるようになっていきました。

 もうひとつ転機となったのは、フロントからコンシェルジュへの異動です。コンシェルジュはあらゆるリクエストに柔軟に応え、お客様の旅の思い出をプロデュースする仕事。「じつはとてもクリエーティブな仕事なんだ」とわかってきて、これまで自分がやってきたことや経験は決して無駄ではなかったんだと思えるようになったんです。

◎仕事の必需品<br>ホテルで働くということの決心を持たせてくれたペン。今使っているものにはローマ字で名前を入れています。内ポケットに必ずしのばせているメモは自作の虎の巻。


◎仕事の必需品
ホテルで働くということの決心を持たせてくれたペン。今使っているものにはローマ字で名前を入れています。内ポケットに必ずしのばせているメモは自作の虎の巻。ホテル内施設の営業時間や電車の料金、宅配便の料金など、どんなリクエストにも対応できるよう、びっしりと書き込みがしてある

 最近わかってきたのは、お客様に居心地よく過ごしていただくためには、「ラグジュアリーホテルだからこう」という枠にとらわれず、その方に合わせた対応が大切であるということ。お年を召した方には孫になったような気持ちでお話を伺ったり、ラグジュアリーホテルの雰囲気を楽しんでいる方にはスマートで、より上品な接客を心がけたり。マニュアルではなくお客様の気持ちに寄り添い接するということの面白さを実感しているところです。

 目下の目標はやっぱり東京オリンピックです。これから東京はもっともっと変化していくと思います。変わりゆく東京の町を見ていくことも仕事だと思いますし、生まれ育った町ですから愛着もひとしおです。東京の魅力を私自身が吸収しながら、それをお客様へのご案内に生かしていきたいと思っています。

PROFILE

  • 小林百合子

    編集者
    1980年兵庫県生まれ。出版社勤務を経て独立。山岳や自然、動物、旅などにまつわる雑誌、書籍の編集を多く手がける。女性クリエイター8人から成る山登りと本づくりユニット〈ホシガラス山岳会〉発起人。著書に『最高の山ごはん』(パイ・インターナショナル)、『いきもの人生相談室』(山と溪谷社)、野川かさねとの共著に『山と山小屋』(平凡社)など。

  • 野川かさね(写真)

    写真家
    1977年神奈川県生まれ。山や自然の写真を中心に作品を発表する。クリエイティブユニット〈kvina〉、自然・アウトドアをテーマにした出版・イベントユニット〈noyama〉の一員としても活動する。作品集に『Above Below』(Gottlund Verlag)『with THE MOUNTAIN』(wood/water records)、著書に『山と写真』(実業之日本社)など。

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