このパンがすごい!

国産小麦の甘さ広がる奇跡の白パン/グウ

ブーランジュリーアンドカフェ グウ(大阪)

写真特集はこちら
おかずパンもスイーツも

 大阪の中心部、谷町四丁目。漆黒の空間にうつくしいパンが並んでいる。うまみと甘みを予感させるハード系の濃厚な焼き色、ケーキのようなデニッシュ、ぱりぱりと派手に崩れるにちがいない繊細に広がったクロワッサンの皮……。自家農園を営むなど素材への思いは人一倍の東野篤シェフは、それらのほとんどを国産小麦で焼きあげる。

 春恋ロールの奇跡。「皮」という言葉が辞書にない世界からやってきたようなパン。角(かど)もなければ硬さもない。雪のようなまったき白は大福を思わせる。食感もまるでそんな感じだ。もちーっと沈んでいく。まるで赤ちゃんのほっぺたのような、やさしい食感。北海道産小麦「春よ恋」の白き甘さがやんわりと広がっていく。

 この、白パンを超えた白パンに甘いスプレッドをはさんだのが「春恋コッペ 練乳&ジャムサンド」。ラズベリーソースのスパークする甘酸っぱさと、小麦の甘さの癒やし効果とのせめぎ合い。むにゅむにゅした食感の中でラズベリーの種がばりばり爆裂する。ふわふわに立てられた練乳クリームも酸味を甘くなだめ、後味ではまったり感が勝利する。

 あるいは、同じ生地にだし巻き卵をはさんだ「だし巻き卵の春恋ドッグ」。ふにゅふにゅのパンにふにゅふにゅの卵。ぶどうでも噛(か)むように卵焼きの中からダシ&卵ジュースがちょちょぎれる。口の中でマヨと卵、そして小麦が合わさり極上卵サラダが完成する。

 春恋ロールの驚きをシェフに伝えると、手柄を自分のものにせず、品種の個性のたまものだと言う。

 「春よ恋は水が入りやすく、味わいも食感もあって万能な粉。手作りできちんと作ればこんなふうになるんです。手軽に小麦の味がするパンを味わってもらいたくてコッペの形にしました。家庭でいろんなものをはさんで食べてもらえたらいいな」

 食感、風味。小麦の個性が表現されたパンでなければ、外国産に比べて割高な国産小麦を使う意味はない、と東野さんは考える。品種の個性ごとに製法を変え、単一品種で食パンを作ることで、この日本に麦が育つ意味を伝えようとしている。

 キタノカオリは、「キタノカオリ100天然酵母食パン」に結実する。薄い耳がばりばりで、香ばしく、うまみがオイリーに滲(にじ)んで甘さに至る。中身はしっとりふわふわして、ぱふぱふ。そして歯の間でぷりっと跳ねたかと思うと、口溶けよさゆえにどんどん液体に変わる。そのとき口の中に充満しているキタノカオリの甘さ、春のぽかぽか陽気のようにほがらか。日本の畑でできるもっとも快いもののひとつだと思う。

 「キタノカオリは味や香りが出やすい。できるだけシンプルに作れば、小麦本来のおいしさを知っていただける」

 「ゆめちから100食パン」は、噛むことの快楽のパン。やわらかさ、しっとりさ、そして表面張力。しなやか、ほんの少しの「ぷり」が生む快楽。ミルキーさがじわじわどんどん噛むたびにふくらんでくる。

 「ゆめちからは(ふくらむ力が)強い小麦だから、リッチな配合にできるし、ふわっと軽くふくらみます」

 すべてを原料から作るのは、フィリングも同じこと。丹念に手づくりした具材はあか抜けて、素材同士のバランスにもセンスを感じさせる。

 焼きカレーパンは、もちもちと跳ねるパン生地に、米粉生地で上がけをしてぱりぱりを作りだす。中には詰めるのもむずかしいだろうと思うぐらいカレーがたっぷり。トマトやその他野菜の甘さ、酸味が襲ったかと思えば、負けずにビーフのコク、風味がすばらしいバランスでやってくる。そして、ひりひりが高まる、スパイス感のクレッシェンド。後味のうまみの広がりとすーすーするさわやかさの共存はカレーパンの醍醐味(だいごみ)そのものだ。

 カフェスペースで供されるコーヒーも、シングルオリジン(生産地がわかる単一品種)のもの。エチオピアナチュラルにクロワッサンを合わせてみると、麦の香ばしさ、バターのミルキーさが、豆のフルーティーさと香ばしさに見事寄り添った。素材を大事にする作り手には、パンの女神も微笑むのだ。

写真特集はこちら
店舗マップはこちら

クブーランジュリーアンドカフェ グウ
大阪市中央区内本町1-1-10リンサンビル1F
06-6585-0833
7:30~20:30(木曜休み) ※地下鉄谷町線、谷町四丁目駅が最寄り

<よく読まれている記事>

 

<バックナンバー>
このパンがすごい!

PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

http://panlabo.jugem.jp/

夫婦のセンスと技が生む幸福の食感/ティコパン

トップへ戻る

濃厚×濃厚 国産小麦とミルククリームのハーモニー/ペシュ

RECOMMENDおすすめの記事