東京ではたらく

目黒区の花屋店主:高橋健治郎さん(48歳)

  

職業:花屋店主
勤務地:目黒区の花屋〈花すけ〉
勤続:1年4カ月(生花販売業は30年)
勤務時間:10時~19時(仕入れ日は朝から市場へ)
休日:毎週火曜日
この仕事の面白いところ:人生の節目に必要とされるのはとてもうれしい
この仕事の大変なところ:季節や天候に左右される
    ◇
 独立して今の店をオープンしたのは、昨年のバレンタインデーです。実家が目黒で花屋を営んでいて、小さな頃から忙しく働く両親を見て育ちました。

 実家の店は商店街にある、いわゆる昔ながらの「お花屋さん」。当時は今に比べて季節のならわしや行事に合わせて花を買うという習慣が色濃くあって、お彼岸やお月見、桃の節句、端午の節句と、とにかく忙しかったですね。

 「花が生活に寄り添っている」というのでしょうか、各家庭で花を買うということが日常だったんだと思います。たとえば神棚に飾るお榊(さかき)は、毎月1日と15日の朝に飾るものでしたから、僕も手伝って近所の家に配達に行ったりしていました。

 高校を卒業してすぐ、池袋にある花屋へ修行に入りました。子どもながらに「なんでうちの両親はこんなに忙しそうにしてるんだろう」とは思っていましたけど、結局やっぱり花が好きだったんでしょうね。物心ついた頃からずっと花に囲まれて育ったので。

 修行先は池袋西口にあるデパート内のフラワーショップでした。実家は地元密着型の店で、いわゆるフラワーアレンジメントみたいなことはほとんどやっていなかったので、ギフト中心の店で経験を積もうと。

 でも当時の花屋はまだまだ古い縦社会気質が残っていて、新人で入っても手取り足取り教えてくれるなんてことはありません。最初の半年は掃除と段ボール潰しと、あとはひたすら配達。たまに花に触らせてもらっても、「とにかく見て覚えろ」と。叱られるなんてのは日常で、ハサミが飛んできたことも一度や二度じゃありません(笑)。

 それでもフラワーギフトという世界に触れられたのはとても新鮮でした。先輩たちが作っているのを見て、「こういうのが花束なんだ、アレンジメントなんだ!」って興奮したり。怒られるのはすごくいやでしたけど、それ以上に、日々わくわくしていたように思います。

 そうそう、面白い経験もいっぱいしました。当時はバブル真っただ中で、水商売とか夜のお仕事関係の人たちがお得意様だったんです。どうもお店で人気のある女の子に花を贈るという習慣があるとかで。

 それで夜になると軽トラいっぱいに花束を積んでいって、そういう店の前で花を売るんです。それはもうじゃんじゃん売れて、ひと晩で20万円とか売れちゃう。お店の階段を花で埋めてアーチを作ったりなんかもしました。花を売りながら「世の中ってこういうしくみになってるんだな」とか思ったりして。池袋の人間模様を見るのはひそかに楽しかったなあ(笑)。

すべてにおいて、「ちょうどいい」花屋になりたい

アレンジメントは贈る相手の性別や年齢、イメージをざっくり聞いて、あとはおまかせが多いです。買ってもらったこちらが「ありがとうございます」と言う側なのに、お客さんから「ありがとう」と言ってもらえると、いい商売だなあと思います


アレンジメントは贈る相手の性別や年齢、イメージをざっくり聞いて、あとはおまかせが多いです。買ってもらったこちらが「ありがとうございます」と言う側なのに、お客さんから「ありがとう」と言ってもらえると、いい商売だなあと思います

 独立して店を構えたのは去年、47歳のときです。池袋で5年半修行した後、実家の店に戻ったんですけど、いろいろあって店を畳んでしまって。それを機に今の店「花すけ」を開業しました。

 通りを一本入れば住宅街なので、平日は地元の方々が日常使いの花を買いに来ることが多いです。一転、週末はおしゃれな感じの若い人が中心。売れる花の種類も全然違うので、平日はベーシックな花や仏様用、週末にはちょっとめずらしい種類を仕入れるようにしています。

狭いスペースですが、ベーシックなもの、面白いもの、さまざまな種類の花をそろえるよう心がけています。常に四季を感じられるのは、花屋のいいところです


狭いスペースですが、ベーシックなもの、面白いもの、さまざまな種類の花をそろえるよう心がけています。常に四季を感じられるのは、花屋のいいところです

 仕入れがある日は朝5時半に起きて7時には市場へ。10時の開店前に店に戻って、仕入れた花の水あげ(花に水を吸わせる作業)や、花瓶の水換えをします。冬の寒い時期にはお湯で水あげしてあげたほうがよかったりと、とにかく花は店に出す前が大変。面倒な部分もあるんですけど、ここをしっかりやると、花の持ち方が全然違ってくるんです。

 週末は多少多く仕入れますが、やっぱりロスはすごく出ます。かといっていつも同じ花しかないとつまらないから、なるべく旬のものやおもしろいものも入れるようにしています。ただ今日みたいに急に暖かくなったりするとすごくいやですね。「明日出そうと思ってたシャクヤクがもう咲いちゃうよ、どうしよう!」って、気が気じゃないです(笑)。

エプロンはたくさん持ってます。右は〈SAGYO〉という野良着をベースにしたブランドのもの。表面はウール、裏面はフリース地になっていて、冬場はすごく温かい! 左はデニムをリメイクしたもの


エプロンはたくさん持ってます。右は〈SAGYO〉という野良着をベースにしたブランドのもの。表面はウール、裏面はフリース地になっていて、冬場はすごく温かい! 左はデニムをリメイクしたもの

 花はとにかく天候に左右されるので、それが一番むずかしいところです。たまに休暇を取るときは、逆算して休暇前日には店が空っぽになるようにするのですが、それでも1週間以上の休みは取ったことないですね。なんだか悪いことしてるみたいな気分になっちゃって。だから僕、この年でまだ海外に行ったことがないんですよ。海外の花屋さんもいろいろ見てみたいんですけどね。

 最近うれしいのは、若い男の子が花を買いに来てくれることです。「試しに買って、家に飾ってみたら楽しくなった」という方もいて、そんな風に自分のために花を買う人が増えてくれたらいいですね。

どこか昭和の香りがする古いものが好き。昔の植物図鑑を見てアレンジメントの参考にすることもあります


どこか昭和の香りがする古いものが好き。昔の植物図鑑を見てアレンジメントの参考にすることもあります

 その点で意識しているのは、お店をやたらとおしゃれな空間にしないこと。年配の方や男性が入りづらい…となってしまわないよう、気軽に立ち寄れる雰囲気作りを大切にしています。

 と言いつつ、市場ではおしゃれな花屋さんがどんな花を仕入れているかを横目で見て、勉強させてもらってます(笑)。最近のアレンジメントは昔と違ってすごく斬新ですから、「こんな色の合わせ方ってアリなんだ!」と、若手フローリストの感性を参考にさせてもらうことも、じつは多いんです。

仏様用の花は日常に欠かせないもの。キッチンハーブや多肉植物など、小さな鉢植えも揃えています


仏様用の花は日常に欠かせないもの。キッチンハーブや多肉植物など、小さな鉢植えも揃えています

 理想は地元密着型で親しみがありつつ、いつのぞいても新しい発見や楽しみがある花屋。時代の流れやブームも横目で見ながら、いつも、どんな人にとっても、いい意味で「ちょうどいい」と感じてもらえるような店を作っていけたらいいなと思っています。

■花すけ
東京都目黒区中町1-25-20 鮨八ビル101
https://www.facebook.com/hanasukemeguro/
https://www.instagram.com/jirokenjiroken/?hl=ja

PROFILE

  • 小林百合子

    編集者
    1980年兵庫県生まれ。出版社勤務を経て独立。山岳や自然、動物、旅などにまつわる雑誌、書籍の編集を多く手がける。女性クリエイター8人から成る山登りと本づくりユニット〈ホシガラス山岳会〉発起人。著書に『最高の山ごはん』(パイ・インターナショナル)、『いきもの人生相談室』(山と溪谷社)、野川かさねとの共著に『山と山小屋』(平凡社)など。

  • 野川かさね(写真)

    写真家
    1977年神奈川県生まれ。山や自然の写真を中心に作品を発表する。クリエイティブユニット〈kvina〉、自然・アウトドアをテーマにした出版・イベントユニット〈noyama〉の一員としても活動する。作品集に『Above Below』(Gottlund Verlag)『with THE MOUNTAIN』(wood/water records)、著書に『山と写真』(実業之日本社)など。
    http://kasanenogawa.net/

千代田区のホテルコンシェルジュ:山岡有葉(あるは)さん(37歳)

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ファッションモデルのマネジャー:本間博菜さん(32歳)

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