花のない花屋

夫のために肝臓をくれた妹に

  

〈依頼人プロフィール〉
宗像真左子さん 55歳 女性
福岡県在住
派遣社員

    ◇

1年3カ月ほど前、25年間一緒にいた主人が肝硬変で亡くなりました。まだ45歳の若さでした。

2年前は何ともなかった肝臓でしたが、あるとき「左胸が痛い」と言い出し、病院に行ってみると、先生がびっくりするほど大きく腫れていました。有無を言わさず即入院でした。

1週間後、主人の兄が名古屋から来て、肝臓移植ができるかどうか検査しましたがダメ。私は血液型が合わず、私の肝臓を移植するなら1カ月かけて血を入れ替える必要がありました。でも、それだと時間がかかりすぎて死んでしまうかもしれません。絶望的になり、妹に「ダメらしい、もう助からない」と電話をすると、「今から行くから」と妹がすぐに飛んできました。

私を慰めに来てくれたのかと思っていると、駆けつけた妹は「私の肝臓をあげる」と迷いなく言い、検査を受けました。

主人と妹は前世が兄妹だったんじゃないかと思うほど仲良くて、いつも3人で遊んでいました。とはいえ、家族でもない人に肝臓をあげるなんて普通できることではありません。妹は、私がいない間に主人に「肝臓をあげるから」と伝えたところ、主人は泣きながら「いらない」と言ったそうです。でも、最終的にはそんな彼を説得し、10日後に手術を行いました。二人同時に手術室へ入り、妹は5時間、主人は12時間におよぶ肝臓移植手術でした。

手術は無事成功しましたが、2週間後に2度の吐血をし、主人は亡くなりました。妹が退院するとき、主人はまだICUに入っていましたが、会話はできる状態まで回復していました。手術から亡くなる2週間の時間は、私にとっては“宝物”です。

最期、主人の髪を洗ってあげているときに看護師さんが私に言いました。

「手術が成功して呼吸器をはずしたときの第一声が、『妻に愛していると伝えてください』だったんですよ。今やっとお伝えできました」

私にとって最高の主人からの遺言でした。

葬儀の日は、主人の親友が妹に「2週間生かしてくれてありがとう」と言ってくれました。本当に強くてやさしい妹です。

52歳になった今も、40歳くらいにしか見えない美しい妹に、頼りない姉から感謝の花束を贈りたいです。妹らしく、上品で、凛(りん)とした中にかわいさのあるアレンジをしていただけないでしょうか。やわらかくてカラフルなパステル調が似合いそうです。私は今も彼女の力に助けられています。

  

花束を作った東信さんのコメント

すごい妹さんですね。他人に自分の肝臓をあげるなんて、なかなかできることではありません。今回は、妹さんのやさしさをそのまま花束にしようと思い、ピンクのグラデーションで全体をまとめました。

使った花材はシャクヤク2種類と、スイートピー2種類。やさしい香りの花束です。大きなシャクヤの間にぎっしりとスイートピーを挿しており、スイートピーのライトグリーンのつぼみが、全体のアクセントにもなっています。

人を失った悲しみは簡単に消えるものではないと思いますが、少しでも前を向いて生きていけますように。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

夫のために肝臓をくれた妹に

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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