上間常正 @モード

銘仙の時代や洋の東西を超える可能性とは

  ガチャマンラボ(足利市)の作品

ガチャマンラボ(足利市)の作品

  鶴貝捺染工業(足利市)の作品

鶴貝捺染工業(足利市)の作品

  逸見織物(秩父市)の作品

逸見織物(秩父市)の作品

  寺内織物(秩父市)、碓井捺染(同)の作品

寺内織物(秩父市)、  碓井捺染(同)の作品

銘仙(寺内織物)の織り作業

銘仙(寺内織物)の織り作業

日本の染め織りの伝統素材の中で、銘仙はユニークな存在といってよいだろう。絹織物なのにくず糸を利用した絣(かすり)で、高価ではなかったため江戸の庶民の流行服になったり、大正から昭和初期にかけても大復活したりした。今ではいくつかの産地で細々と織り続けられている。その銘仙に、日本的な美意識を一貫としたテーマにしているブランド「まとふ」のデザイナー(堀畑裕之、関口真希子)がデザイン協力した産地ブランド「スタイル*メイセン」の服がなかなか魅力的だ。

銘仙の歴史はそれほど古くはない。江戸後期に織子がくず糸で自分用に織ったのが始まりという。軽くさらりとした質感があって着心地もよく、普段着としても着られた。その絣が銘仙として広く知られるようになったのは大正のリバイバルの頃からで、いま見てもびっくりするような大胆な模様柄やカラフルな色使いのきものが大流行した。主な産地は埼玉県秩父市、栃木県足利市、群馬県伊勢崎市などで、昭和40年ごろはまだ年間、1500万反ちかくが生産されていた。しかし生産量は急低下の一途をたどり、作り手の高齢化・廃業も進んでいる。

今回の新ブランドの試みは、銘仙を洋服地にすることを前提に秩父と足利の5業者の連携プロジェクトとして経産省の支援で始まった。銘仙の高度な技術を生かして本格的な洋服にするためには優れたデザインが必要、ということで「まとふ」に白羽の矢が立った。「まとふ」の側でも、失われつつある日本の工芸・手仕事を積極的に取り入れるプロジェクトを考えていて、その第一弾の試みになった。

柄がくすんだように優しいのに、色の構成は鮮やかに浮き立って力強く見える。新たにでき上がった服地は、銘仙の絣独特な表情を帯びつつ、とても現代的な明るさとどこか憂いを秘めた深さが感じられる。その色柄が、シンプルだが計算が行き届いたデザインに引き立てられて、服がちょっとドキッとするほど新鮮に見える。着心地もよさそうだ。

足利のガチャマンラボが作ったドレスは、深い紺と青、渋みのある金と銀色が幾何学的な図柄で構成されている。この図柄は昭和初期に流行した銘仙のアール・デコ調と一見似ているが、もっと深い奥行きと抑制が効いている。そのことによって、より現代的な感覚も、またより伝統的な日本の美意識をも感じさせる。鶴貝捺染(なっせん)工業の服も同じような図柄表現だが、色合いはもっと軽くてポップな感じで、よりカジュアルな印象を受ける。

また秩父の逸見織物、そして寺内織物と碓井捺染の服は、植物柄のアール・ヌーボー調だがよりデザイン性が高く、現代的な魅力があるように思える。

ガチャマンラボの高橋仁里さん(41)は「本格的な洋服地は初めての試みだったので、新しい工夫が必要だった。糸にプリントしてから織り上げる〝ほぐし織り〟の伝統技術とジャカードの組み合わせなどに苦労した。トップデザイナーの『まとふ』さんの服作りへの深い見識が大きな刺激になった」と語る。また布の機能性や新たな表情を出すためには、絹の経(たて)糸に対して緯(よこ)糸はポリエステルなどを使ってみる工夫も必要だったという。

「まとふ」の堀畑、関口は「銘仙はもともと伝統性よりも、流行を伴った同時代性やファッション性が強かった」との見方だ。だとすれば、過去のきもの地と同じ柄や色の組み合わせは使わないこと。そして新たな図柄や色使いを生かすためには「できるだけ布を切り刻まずに、布地の表現を生かすデザインを心掛けた」と語る。

今回の服は、日本橋三越や梅田阪急、銀座松屋などで特設展示され、評価も高く売れ行きもよかったという。しかし産地の連携ブランドなため、デザインや生産、販売ルートなどの体制を今後どのように作り上げていくかが大きな課題だ。ファッションブランドとしては前例がないため、新たな仕組みを開発していくことが必要だろう。

ガチャマンラボの高橋さんは、以前にも洋服地への転用の可能性を探るために銘仙の布地を持って絹織物の産地として名高いフランスのリヨンを訪ねたことがある。その時に「それと同じ布はリヨンにもある」と言われたという。その布を見て、昭和期の銘仙の意匠は実はリヨンの布から伝わったのではないかと推測している。

しかしヨーロッパの織物の歴史からすれば、リヨンのその布地は東洋からの、というより江戸の銘仙が伝えた技術によるものだったのかもしれない。銘仙にはそんな国際性や時代を超えて何度も生まれ変わる可能性が秘められてとも考えられる。その意味でも、今回の銘仙と「まとふ」の試みの芽が育ってくれればいいと思う。

PROFILE

上間常正

ジャーナリスト、ファッション研究者。1972年、東京大学文学部社会学科卒、朝日新聞社入社。記者生活の後半は学芸部(現・文化くらし報道部)で主にファッションを担当。パリやミラノなどの海外コレクションや東京コレクションのほか、ファッション全般を取材。2007年に朝日新聞社退社、文化学園大学・大学院特任教授(2019年3月まで)としてファッション研究に携わる。現在はフリーの立場で活動を続けている。

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