パリの外国ごはん

どかんと出されるゆで肉が強烈、フォー専門店「Le Kok」

  

イラスト・室田万央里


  

イラスト・室田万央里


  

イラスト・室田万央里

 パリの外国料理として代表格の一つと思われるベトナム麺、フォー。「pho」と看板に掲げているお店は多いし、どこに行ったらいいのか迷うところだが、1軒、13区の中華街に、強烈なインパクトを放つお店がある。

 ただ、そのインパクトを与える要素が、どかーんと盛られたお肉のひと皿なのだ。それで、ほぼベジタリアンの万央里ちゃんにはどうだろう? と思っていた。とりあえず、すでに食べ始めているひとのお皿を見てみて、もし無理そうだったら他に行けばいいか、とまずはお店の前に2人で行くことにする。

 「あれだよ」とテラス席のテーブルにあるひと皿を、少し遠巻きに示すと、「え! あれ?! すごーーーい」と彼女は驚いていた。ともかく初めて見て、驚かない人はいないひと皿なのだ。「なにあれ? あれがフォーについてくるの?」と言うので、「フォーに付いてくるっていうか、座ると勝手に出てくるんだよ。どの席にも、座ったら、まずあれが出てくるの」と伝えた。あまりにワイルドなお皿に、引いているかなぁ……と様子をうかがっていると「ここにしたい」と、意思を固めたような、きっぱりとした言葉が返ってきた。

 ちょうどいい具合に空いていたテラス席に腰を下ろそうとするや、荷物を置いている段階で、例のお肉とメニューを、店員さんがテーブルに置いた。ほらね~と思っていると「ほんとだ……」と万央里ちゃんがつぶやいた。座りながら「これって、お通し的な?」と言う彼女に「うん。何を頼むか伝えてないのに出てくるからねぇ」と答える私。考えてみたら、聞けばよいのだ。だけど、当たり前に、そしてとてもぶっきらぼうに、お客の顔なんてこれっぽっちも見ないで、いつだってこのお皿が出されるので、なんだか聞けずにいる。

 昔、もう15~16年前だろうか、初めて友人に連れられてこの店に来たときには、その時は彼が、当たり前のようにこのお皿をリクエストしたのだった。すかさず登場したお皿に驚いていると「ここの店、この肉が出てくるんだよ」と、他のどのテーブルにも置かれているこの肉のお皿を見やりながら、やはり注文するわけではないことを教えてくれた。

 いつものように、私がgrande、彼女がpetiteのサイズのフォーを、ここのはパリパリで出てくるから、とネム(ライスペーパーで包む揚げ春巻き)も注文した。飲み物はどうしようかと思っていると、万央里ちゃんが、梅干し入りのペリエなるものをオーダーした。「なにそれ?」と聞くと、「飲んだことない? ペリエに梅干しが入ってるの。フォーのお店だとあるとこ多いよ。私、結構好きなの。今日はこれにする」と。しょっぱい飲み物で、逆にのどが渇かないかな?と思ったけれど、試してみることにした。

  

 早速、お肉を食べる。これに合わせたタレが出てくるわけではないので、テーブルに置いてある調味料を好みでつける。唐辛子の種も浸かった少し甘みとうまみのある真っ赤なチリソースをお皿にとり、ちょんちょんとつけてお肉を食べた。ゆでた(だしをとった)このお肉には、きっとカラシじょうゆがぴったりだけれど、チリソースをつけると、がぜんアジアっぽい味になる。他のアジア料理店では見たことのない、完全にこのお肉仕様と思われるナイフが出されるので、それで切りながら、ちょびちょび食べていると、揚げたての春巻きが運ばれてきた。

  

 うれしいことに、このお店は、いつも、バリバリっと期待を裏切らない揚げ具合で出してくれる。レタスに、ミントの葉と一緒にくるんで、ほおばる。 中身も、歯ごたえの残るひき加減のお肉と細かく切り過ぎていない具で、ひと口食べるとより食欲が増す。問題は、おなかをすかせていってノンストップで食べ続けるから、フォーが登場するここまでの段階で、結構おなかが満たされてきたな、と感じることだ。なのに、着いたときにはおなかがすいているから、いつだって、大ボウルのフォーを私は頼んでしまう。もうちょっと大人にならないとなぁ。

  

 ネムを食べてベトベトになった手を、持参したウェットティッシュで拭いていると、フォーがどどんと登場した。ミントにタイバジル、もやし、名前をいつまでたっても覚えられない細長い葉っぱ、それと若干のフレッシュな刻み赤唐辛子を、麺の上にのせる。

 まずこの状態で食べてから、次にスライスした玉ねぎのピクルスのようなものものせ、レモンも絞る。はじめからフォーに盛られてくるパクチーとも混ぜ合わせて、生の牛肉スライスもいっしょに食べる。しばらく食べ進んでから、肉だんごに甘みそだれをつけて食べて一息つく。これが私がフォーを食べるときの順番。なぜかいつもこの3ステップをふむ。

 ここのスープはちゃんとおだしの味がする。もちろん何かしらうまみ調味料は加えているだろうけれど、ちゃんとおだしをとった味のするスープ。ひとつだけ残っていたネムも食べ終えて、大満足で帰路についた。

  

Le Kok
129bis, avenue de Choisy 75013 Paris
01 45 84 10 48
10時30分~23時
火曜日休み

PROFILE

  • 川村明子

    東京生まれ。大学卒業後、1998年よりフランス在住。ル・コルドン・ブルー・パリにて製菓・料理課程を修了後、フランスおよびパリの食にまつわる活動を開始。現在は執筆のほか、パリで活躍する日本人シェフのドキュメンタリー番組『お皿にのっていない時間』を手掛けている。著書に『パリのビストロ手帖』『パリのパン屋さん』(新潮社)、『パリ発 サラダでごはん』(ポプラ社)、昨年末に『日曜日はプーレ・ロティ』(CCCメディアハウス)を出版。
    日々の活動は、Instagram: @mlleakiko、朝ごはんブログ「mes petits-déjeuners」で随時更新中。

  • 室田万央里(イラスト)

    無類の食べ物好きの両親の元、東京に生まれる。
    17歳でNYに移り住んだ後、インドネシア、再び東京を経て14年前に渡仏。
    モード界で働いた後に“食べてもらう事の喜び”への興味が押さえきれずケータリング業に転身。
    イベントでのケータリングの他、料理教室、出張料理等をパリで行う。
    野菜中心の家庭料理に妄想気味のアジアンテイストが加わった料理を提供。理想の料理は母の握り飯。未だその味に到達できず。
    Instagram @maorimurota

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