このパンがすごい!

強火が生み出す、豪快な皮と甘く繊細な生地の二重奏/YAKICHI

大納言入りざぶとん

大納言入りざぶとん

■YAKICHI(福岡県)

 朝早くから、店内に入りきらない人が行列をなしている。やっと入った店で対面するのは、黒々とした焼き色のパン。これだ、私が食べたかったパンはこれなのだ。大量の熱が皮を厚く、香ばしくし、パンの奥深くまでしっかりと火を通して、口溶けのいい中身を作り上げていることはまちがいない。

 予感は的中した。大納言入りざぶとんの、噛(か)み締(し)めがいのある皮。硬い皮を何度噛んでもまったく飽きない。じゅわじゅわと甘さ、旨味(うまみ)が、ほろ苦さとともに次から次へわきあがる。気泡がぼこぼこ空いて、それを覆う膜は実にのびやか。みずみずしすぎて歯にくっつきながら、じゅわんと甘い液体に変わる。大納言のやさしい甘さと豆の風味があでやかに広がって、北海道産小麦のミルキーさをますます心地よくする。

くるみコンプレ

くるみコンプレ

 強い火で焼くことはたっぷりの水分を大量の蒸気に変え、のびのびと生地をふくらませているようだ。くるみコンプレもまさにそう。中身はぷるぷるふるえてじゅわーと溶ける。厚めの皮のぼりぼり感とくるみのぼりぼり感、甘さと甘さ、香ばしさと香ばしさが交錯、むしゃむしゃ食べる手が止まらない。

 福岡ではめずらしかった、黒くなるまで焼き込んだ硬いパン。いまでは行列のできる人気店だが、はじめからこうだったわけではないと藤川優さんは言う。

 「最初の2~3カ月はまったく売れませんでした。1時間に1人くればラッキー。入ってきてもパンを見てすぐ出ていったり。僕のパンは通用しないな。路線変更したいと思って妻に言いました」

 すると妻の南美さんはこう答えたという。「みんなまだ私たちのパンを食べたことないだけ。食べたお客さんが2回目来てくれなかったらそうしよう」

ハード系の黒々とした焼き色

ハード系の黒々とした焼き色

 潮目が変わったのは、有名シェフがTVでYAKICHIのことを推薦してから。毎日行列ができて生産が追いつかないほどに。「こんなパンを待ってた」とお客さんに言われるようになった。「シェフと師匠には足を向けて寝られません」。その一言がなければ、いまのYAKICHIのパンは食べられなくなっていたかもしれない。

 パンはすべて自家培養の種を使って18時間に及ぶゆっくりとした発酵で育んでいく。驚くべきはすべて手ごねだということ。低音部も高音部も響かせるすぐれた楽器のように、豪快な皮と小麦のフレーバーの繊細さが同居しているのはそのせいなのだ。

あんぱん

あんぱん

 定休日、厨房(ちゅうぼう)にお邪魔すると、銅鍋いっぱいのあずきを炊いていた。具材はすべて自家製。休みを潰して、朝から仕込みを行う。

 かけた手間は裏切らない。あんぱんを食べて、そう思った。ざっざっと噛む豆の皮から芳醇(ほうじゅん)な風味が放たれ、その内側はとろーんとたまらない甘さをとろけさせる。あんこの濃厚さを、ぷるんとしてなよんとして、しかし香ばしい生地が吸い取りつつ、いっしょにとろーんと溶けていく。

鶏ハムと長ネギのサンド 大葉と柚子胡椒ソース

鶏ハムと長ネギのサンド 大葉と柚子胡椒ソース

 ハムやベーコンも自家製。それが粉の風味がきちんと出たパンと合わさるのだから、サンドイッチは絶品となる。鶏ハムと長ネギのサンド 大葉と柚子胡椒(こしょう)ソース。ぷるぷるふるえる鶏肉の、とろける脂に瞬殺される。ばりばりとバゲットの皮を噛み、砕け散るたびたちあがる麦の香ばしさと脂の旨味がぶつかりあう最高の快楽。柚子胡椒の塩タレがマリアージュを加速、ネギのロースト、大葉と香りや辛みが重なるたび、マリアージュの階段を一段一段と上っていく。日本人が大好きな焼き鳥とバゲットを合体させて、こんなにおいしいものができあがったことに感動した。 

 「時間もすごくかかるし、既製品より原価もかかるぐらい。でも、自分たちにとっておいしいものだから、自信をもって食べてもらえます」

外観

外観

■Yakichi
福岡市南区大橋4-5-6 天本ビル 1F
9:00~18:00(月・火 休み)

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PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)
http://panlabo.jugem.jp/

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