花のない花屋

変わってしまった私を変わらず想ってくれる夫へ

  

〈依頼人プロフィール〉
澤田祐子さん(仮名) 33歳 女性
愛知県在住
公務員

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夫とは10年ほど前、出会い系サイトで知り合いました。初めて会ったとき、「本当に美人だね」と照れながら言ってくれたのが忘れられません。というのも、私は幼少期からずっと肥満体型で、自分の体型に対するコンプレックスがとても強かったのです。

3年ほどおつきあいをして結婚、2年後に男の子を授かり、無事出産しました。普通なら幸せいっぱいの時期だと思いますが、その頃から私の心のバランスが崩れ始め、自分の生き方に迷いや悩みを抱えるようになりました。自分の大事にしていたこと、好きなものがわからなくなってしまったのです。

世間でいう“マタニティーブルー”だったのだと思いますが、当時はそういう自覚もなく、とにかく自分を変えたい、変えられるモノはすべて取り替えてしまいたいという衝動にかられ、ダイエットにより25キロ近く体重を落としました。

でも、長年のコンプレックスから解放されたはずなのに、産後2年たっても気持ちは戻らず、その間ずっとうつのような状態で過ごしていました。

仕事に復帰すると、夫婦とも忙しさに疲れがたまり、ことあるごとに喧嘩。私は育児のために短時間勤務に切り替えていたのですが、夫には「短時間勤務=負担の軽い仕事」と誤解されてしまったようで、私の仕事が軽んじられているように感じることもしばしば。一体どこに向かって私たちは走っているんだろう……と重ねてきた時間のことを忘れてしまったような関係でした。

もうひとつ、私がずっと気になっていたのが家です。夫は持ち家に対する憧れが強く、結婚してすぐ中古住宅を買いました。でも私の中で「何かが違う」という違和感が強く、何年経っても「自分の家」と思えないままでした。

もうここには住めない、家を出たい……。何度も懇願する私の意思を汲み、とうとう夫は大事にしていた家を手放すことに同意してくれました。家族が笑顔で暮らせるなら、という決断だったと思います。

今は賃貸マンションの3階で、明るい日差しを浴びながら暖かい部屋で暮らしています。戸建よりも狭く古いですが、縛られていた何かから解放された気持ちになりました。

ようやく夫と私の気持ちはふたたび重なり始めた気がします。もちろんすべてが解決したわけではありません。息子はイヤイヤ期まっただ中で育児は大変ですし、私は4月に異動、夫は昇進し、ますます忙しくなりました。でも、何があっても笑い合って暮らしたい、と前向きに思えるようになりました。

結婚当初から何もかもが変わってしまった私に対して、まったく変わらない気持ちを持ち続けてくれた夫に、そして大事な家を手放す決断をしてくれた夫に、ありがとうの花を贈りたいです。

夫はナチュラルな山野草が好きです。また、結婚式で使ったピンポンマムやスプレーマムを入れていただけるとうれしいです。

  

花束を作った東信さんのコメント

ナチュラルな山野草でとのご希望があったので、小花をたくさん使い、「いま摘んできたばかり」というような花束に仕上げました。

主な花材は、つぼみのヒメユリ、アザミ、キャロットフラワー、ホワイトレース、オルレア、シモツケ、小さなシクラメンの原種などです。緑色の稲のような植物は、コバンソウ。庭や公園にあるような植物を意識的に選びました。オレンジ色のヒメユリが咲いてきたら、全体的な雰囲気が少し変わるはずです。

アレンジの周りは、リーフワークの代わりに、ご希望のあったピンポンマムを挿しました。グリーンなのでお花という感じがしないかもしれませんが、これもピンポンマムです。

ご主人が昇進なさったとのことで、できるだけカラフルな花でまとめ、お祝いの気持ちも表してみました。反応はいかがでしたか?

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>これまでの「花のない花屋」まとめ読み

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

変わってしまった私を変わらず想ってくれる夫へ

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


「あの日」を笑顔で迎えるために、私たち家族へ

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