東京ではたらく

俳優:安竜(ありゅう)うららさん(30歳)

はたらく6-2


幼い頃から映画が大好き。モデルの仕事をするうち、演技の世界に興味を持ち、モデルと並行してCMや動画の仕事にも挑戦するように。「モデルも俳優も、誰かに選んでもらわないと始まりません。とくに俳優は外見だけじゃなく、いかに内面を磨くかが大切なんだと痛感しています」

職業:俳優
勤務地:地球上どこでも
この仕事に就いて:8年
勤務時間:現場によってさまざま
休日:なし
この仕事の面白いところ:どこにも正解がないところ
この仕事の大変なところ:常にフラットな自分を作っておかなければいけないところ
    ◇
 「俳優」と肩書でご紹介いただくには、まだまだ未熟者なのですが……。映画や舞台を中心に役者をさせていただいています。

 出身は福島県のいわき市です。父は新聞記者で、地元で小さな新聞社を立ち上げて、震災前と後、ずっといわき市のことを伝えています。

 映画や舞台、写真などが好きな人で、物心ついたときから芸術や表現への興味を持つようになったのは父の影響がすごく大きいと思います。

 高校卒業後は上京して、芸術系の短大へ。油絵を専攻しました。子供の頃から絵を描くのが好きで、高校時代は漫画家になりたいと思っていましたね。

 東京に出てくると、街中で「モデルやりませんか?」と声をかけられるようになりました。田舎で育ったので、そういうものがあることすら知らなくて、最初のうちは「東京コワイ!」って思ってました(笑)。

 大学にはテキスタイル科など服飾関係の学科もあったので、友達に頼まれてファッションショーに出たり、美容雑誌のモデルをやらせてもらったり、徐々にモデルの仕事をやるようになりました。

 モデルの仕事そのものというより、スタッフみんなで何かを作り上げるという作業が楽しくて、「ああ、こういう表現の仕方もあるんだ」と、そこで初めて絵画以外の表現方法を知ったような気がします。

はたらく6-1

 プロのモデルという選択肢も少しは頭にあったのですが、まだまだ自信が持てなくて、卒業後2年ほどは会社員をしていました。でも、毎日会社と家を往復して、週末はボーイフレンドと会う単調な生活……。

 「私、21歳なのに、このままずっと人生進んでいくの?」って思ったら、なんだか怖いというか「そんなの嫌だ!」と思ってしまって。

 一念発起、モデル事務所のオーディションを受けて、プロのモデルとして頑張っていこうと決めたんです。若さゆえの勢いというか好奇心の勝利というか……。後先のことなんて考えていなかったですね、そのときは(笑)。

 晴れてモデルデビューを果たしたものの、「プロの世界は半端ないぞ」ということはすぐにわかりました。スタイルのいい子、きれいな子、それらを兼ね備えた上に人間的魅力がある子。

 自分より優れたものを持っているモデルさんはごまんといました。これは、自分の努力次第ではどうにもならないんじゃないか……。だんだんそんなふうに思うようになっていきました。

 ネガティブ思考はストレスになって、その反動で食事を普通にとれなくなり、太って肌荒れして……。今思えば本当にプロ失格なんですけど、心と体のバランスをとれなくなってしまって。

 そんな甘さは周囲にもちゃんと見抜かれていて、解雇同然の形で事務所を辞めることになりました。

 その後は自暴自棄になって、引きこもり生活(笑)。家でずっとラジオを聴く毎日だったのですが、そんなとき、あるラジオ番組に救われたんです。

答えがないからこそ面白い、“演じる”という仕事

リポーターとして出演しているTOKYO FM「シンクロのシティ」の収録現場。「インタビューをしたり、自分の言葉で考えを伝えたりする経験は、演技する上でも大きな勉強になります」


リポーターとして出演しているTOKYO FM「シンクロのシティ」の収録現場。「インタビューをしたり、自分の言葉で考えを伝えたりする経験は、演技する上でも大きな勉強になります」

 頑張って働いている人、落ち込んでいる人、とにかく街角にいる人々にインタビューして回る番組だったんですけど、それを聴いていると、ああ、大変なのは自分だけじゃないんだって思えて。

 当時、その番組は渋谷のスペイン坂スタジオから公開生放送をしていたんですが、ある日思い立って観覧に行ってみたんです。

 どうやら私、ものすごく熱い視線を送っていたみたいで(笑)、収録後にパーソナリティーの方が話しかけてくれたんです。「君、何やってるの、学生?」って。

 「いろいろあって、現在無職です」と、少しお話ししたら、「一緒に番組やってみる?」と言ってくださって。じつはそれが今、リポーターとして出演させていただいているラジオ番組なんです。

日々感じたことを書きつづるノート。「役者はどれだけ引き出しを持てるかが勝負。最悪!と思う出来事があったとしても、人はこういうとき、こんな気持ちになるんだ……と、いつも客観的な目線を持つように心がけています」


日々感じたことを書きつづるノート。「役者はどれだけ引き出しを持てるかが勝負。最悪!と思う出来事があったとしても、人はこういうとき、こんな気持ちになるんだ……と、いつも客観的な目線を持つように心がけています」

 人間って不思議なもので、街に出て、人とお話しするうちに、元気をもらえるんですよね。それで、モデル時代から目標にしていた演技の世界に挑戦しようと思えるようになったんです。

 とはいえ、芸能事務所に属していないうえ、演技経験もありません。そこはもうド根性といいますか(笑)。気になる監督の撮影現場にエキストラとして参加して、スキを見て突撃売り込み。そのかいあってか、少しずつ役をもらえるようになったんです。

 今年は舞台作品の大役もつとめさせてもらって、舞台の世界の奥深さを知りました。舞台は何カ月も前から稽古して、約2週間、ほぼ毎日舞台に立たなくてはいけません。

 

モデルを辞めた“どん底時代”、ラジオ番組のリポーターにと声をかけてくれたラジオパーソナリティーの堀内貴之さんは「一生の恩人」。「スタッフ全員、家族のような温かみがあって、この現場が私の元気の源です」


モデルを辞めた“どん底時代”、ラジオ番組のリポーターにと声をかけてくれたラジオパーソナリティーの堀内貴之さんは「一生の恩人」。「スタッフ全員、家族のような温かみがあって、この現場が私の元気の源です」

 体力的にも技術的にも至らない点ばかりで落ち込むことも多かったのですが、それ以上に「やっぱり自分はこういう現場にいたいんだ!」と心底思えたことが一番の収穫です。

 役者には正解というものがないですから、ゴールもありません。一生、試行錯誤が続く仕事です。そう考えるといつも途方に暮れてしまうのですが……。その分、可能性は無限にあるし、何よりそこが面白い。

 目下の目標は、もっと振り幅の大きい役者になること。そして、何かにつまずいている人や、生き方に迷っている人たちに寄り添えるような作品を作っていくこと。

 ……しょせん娯楽でしょ、と思われるかもしれませんが、私自身、これまで何度も映画や舞台、ラジオに救われてきました。芸術には人を元気にするパワーがある。そう信じて、ひとつひとつの役に向かっていきたいと思っています。

◎仕事の必需品<br>ラジオ番組のリポーターを始めて6年。今ではプライベートで出かけるときもレコーダーを忍ばせて、気になるお店や人がいれば取材している


◎仕事の必需品
ラジオ番組のリポーターを始めて6年。今ではプライベートで出かけるときもレコーダーを忍ばせて、気になるお店や人がいれば取材している

 地元に帰りたいと思ったことですか? もちろんあります。浮き沈みの激しい芸能の世界ですし、東京で暮らしていくのはつらいなと思ったことも。でも、モデルに挫折したとき、また頑張ろうと思わせてくれたのも東京の街や人でした。

 これはラジオの仕事を通して学んだことですが、価値観が合う人もそうでない人も、楽しいこともムッとすることも、全部ひっくるめて面白がっていける人になりたいなと今は思っていて。

 東京は人の宝庫。私にとっては役者としての引き出しを増やすための勉強の場であり、常に新しい出会いや刺激を与えてくれる環境でもあります。

 この先へこたれることがあったとしても、そのときはきっとまた、東京の街と人が支えになってくれると思っているんです。
    ◇
>>安竜さんが出演中の番組 TOKYO FM「シンクロのシティ
月~木曜15時~16時50分放送中

PROFILE

  • 小林百合子

    編集者
    1980年兵庫県生まれ。出版社勤務を経て独立。山岳や自然、動物、旅などにまつわる雑誌、書籍の編集を多く手がける。女性クリエイター8人から成る山登りと本づくりユニット〈ホシガラス山岳会〉発起人。著書に『最高の山ごはん』(パイ・インターナショナル)、『いきもの人生相談室』(山と溪谷社)、野川かさねとの共著に『山と山小屋』(平凡社)など。

  • 野川かさね(写真)

    写真家
    1977年神奈川県生まれ。山や自然の写真を中心に作品を発表する。クリエイティブユニット〈kvina〉、自然・アウトドアをテーマにした出版・イベントユニット〈noyama〉の一員としても活動する。作品集に『Above Below』(Gottlund Verlag)『with THE MOUNTAIN』(wood/water records)、著書に『山と写真』(実業之日本社)など。

世田谷区の幼稚園教諭:帯刀(たてわき)彩子さん(42歳)

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