このパンがすごい!

【夏休み特集】小麦のふるさと・美瑛の食材でつくる、みんな喜ぶ柔らかパン/フェルム ラ・テール

十勝産亜麻仁のノアレザン

十勝産亜麻仁のノアレザン

■フェルム ラ・テール(北海道)

 丘の町として知られる北海道・美瑛は小麦のふるさとでもある。「パッチワークの丘」と呼ばれる、傾斜地に色とりどりの農地がつづく絶景は、実は小麦畑からなる。収穫を前にしたいまは、青や黄金色の小麦が見られる最高の季節。ぜひ行ってみてほしい小麦のふるさとだ。今回、そして次回と、夏休み特集として、美瑛のすごいパン屋2軒を紹介する。

 咲き乱れる菜の花畑の向こうに、ロマンチックなドーム屋根がのぞいている。まるで絵本の世界に入り込んだような眺め。2017年6月、東京・三宿の名店ラ・テールが、素材の生産地のすぐそばでパンとお菓子作りを行うコンセプトの旗艦店「フェルム ラ・テール」を、パッチワークの丘を見渡す高台にオープンさせた。

 目の前の畑でとれた小麦を使ってパンを作る。使う食材は、美瑛とその周辺の地域、そして北海道産のもの。送り込まれたのは、ブーランジェリー ラ・テールのエース、森田政士シェフ。東京と同じパンではなく、地元の人の口に合うレシピを新たに書き起こした。絶対条件は、やわらかくて口溶けのいい、食べやすいパン。

 「グルテン(パンをふくらませるゴム状のたんぱく質)がぎりぎりつながったぐらいでミキシングを止め、発酵で育てていく。口溶けがよくて、2日後でも3日後でもやわらかく食べられます」

 ハード系とはもはや呼べないほど、少しもハードではないのが、十勝産亜麻仁のノアレザン。薄皮一枚ぱりっとして、ぐぎっと歯が入ると、まるでひきずりこまれるように前歯が埋まっていく。口溶けのよさゆえにすぐにじゅるじゅるしてくる。そこにレーズンのしずくが仰天するほどにたれまくり、ますますふにゃふにゃとなって甘酸っぱい風味が爆発、喉(のど)のあたりがきんきんしてくる。そして生地の香りは、全粒粉ともちがう、素朴な香ばしさ。亜麻仁である。くるみとレーズンとの三つ巴(みつどもえ)がなんとも狂わせてくれる。

フェルムの白パン(2ケ入)

フェルムの白パン(2ケ入)

 地元・美瑛にあるファームズ千代田の貴重なジャージー牛乳を使用したフェルムの白パン(2ケ入)。このパンも並外れてやわらかい。チューインガムでも噛(か)むみたいな、ねっとりもっちり感。舌に触れた瞬間から、はずむこともなく、とろけにとろけねっとりとして、歯にまとわりつくように粘る。やがてとろとろへ。口の中にミルクと小麦が融合した心地いい汁がたまっては、喉を甘く流れくだる。

ジャージー牛乳の牧場クリームパン

ジャージー牛乳の牧場クリームパン

 この生地で、同じ牛乳から作ったカスタードクリームを包んだ、ジャージー牛乳の牧場クリームパン。パンからとろけだすミルクの濃度がじんと舌に響いたかと思うと、中から濃厚なクリームがあふれだし、ミルク色の潤いと甘さで、とろけ合い、凌駕(りょうが)していく。素朴で力強い溶け味が唯一無二のクリームパンだ。

お塩の豆パン

お塩の豆パン

 豆パン好きの北海道民へ贈るのは、豆乳で仕込んだ生地で作られる、お塩の豆パン。こりこりと豆を噛む。赤えんどう青えんどうからじわーんと豆風味が響いてくる。そこに、ねちっとした生地から清らかなミルキーさがじゅんと溶け、瞬間ごとに甘く変化する。滋味深き豆をミルキーさが包み、ひとつの甘さへと昇華していく。豆と豆、和と和の噛み合いっぷりは、豆パン史上なかったほど。

 森田シェフは、美瑛の生産者を訪問。いい食材を見つけては、職人魂を燃え上がらせている。たとえば、美瑛産大豆と大雪山の天然水から作られる、東川町・平田とうふ店の豆乳。

 「すごく濃厚で、ゼリーインの飲み物みたいにどろどろ。ぜんぜんふくらまなくて、東京で開発したレシピは使えなくなりました。単純に水を増やせばいいんですけど、それはしたくない」

 前日に中種を作るひと手間をかけることで、豆の濃厚さがそのままパンになる。

 「材料のよさに気づくと、材料をベースにしたパン作りになる。農家さんを訪ねると、絶対いいパンになります。僕たちはここでローカルなものをどれだけ使うかの勝負をしている。地のものを使えば、お客さんもうれしいし、素材を作った人にもよろこんでもらえる」

 食材の王国のど真ん中で、職人冥利(みょうり)につきる仕事をしている。

店内風景

店内風景

絵本に登場するような店舗

絵本に登場するような店舗

■フェルム ラ・テール 美瑛
北海道上川郡美瑛町字大村村山
0166-74-4417
9:00~21:00 月曜休

>>店内やパンの写真をもっと見る ※写真をクリックすると、拡大表示されます

<よく読まれている記事>

<バックナンバー>
まとめて食べたい!「このパンがすごい!」記事一覧
地図で見る

PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)
http://panlabo.jugem.jp/

強火が生み出す、豪快な皮と甘く繊細な生地の二重奏/YAKICHI

一覧へ戻る

【夏休み特集】美瑛の丘にたたずむ、食べて泊まれるベーカリー/ビブレ

RECOMMENDおすすめの記事