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<69>町屋でほっこり、「チョコミントの聖地」 京都編(2)

<69>町屋でほっこり、「チョコミントの聖地」 京都編(2)

 古くからの家並みが続く京都・西陣の一角、一方通行の狭い通りに“チョコミントの聖地”と言われる場所がある。「CAFE1001」というブックカフェだ。

 鉄道の駅からは少し離れており、最寄りのバス停からも歩いて5分はかかる。それでも、営業開始1時間半前の10時頃には店の前で客が列を作り始める。店は明治後期に建てられた町屋で、もともとは西陣織の工房だったという。

 大半の客のお目当ては、店主の久世泰範さん(39)夫妻が作るチョコミントメニューの数々。通年で供されるチョコミントパフェやチョコミントココア、季節限定のチョコミントタルトなどのオーダーが次々と入り、注文した品がテーブルに運ばれると歓声とともに“撮影会”が始まる。

 久世さんが店をオープンしたのは2010年4月のこと。このあたりは住宅街で、特に観光客が訪れるような場所ではないが、久世さんはあえてこの場所を選んだ。店内の入り口側は椅子席だが、奥は板敷きの座敷になっている。町屋の空間を生かした壁際に本棚を作り、本好きな久世さんが自宅に置き切れなくなった本を並べてブックカフェにした。

 「カフェとしての立地はあまりよくないかもしれないけど、父が西陣織の絵師で、この地域に親しみがあったんです」

 チョコミントばかりが注目されているが、実はメニューの種類は幅広い。サンドイッチやとろとろのオムレツを乗せたカレーなどの食事メニューに、季節のスイーツ類。京都の人気店「FACTORY KAFE工船」が自家焙煎(ばいせん)した豆をハンドドリップで淹(い)れる香り高いコーヒーや、兵庫・芦屋の紅茶専門店「Uf-fu(ウーフ)」がセレクトした紅茶など、その充実ぶりとこだわりには目を見張るものがある。では、いつからこのカフェは“チョコミントの聖地”になったのだろうか?

 「小さい頃からチョコレートが好きで、チョコレートのいろんな味わい方に興味があって。高校時代に駅の自販機で売っているセブンティーンアイスのチョコミント味を食べて、その清涼感やチョコとミントのバランス、ペパーミントグリーンの色のかわいらしさに惹(ひ)かれるようになりました」

 いつかは自分でもチョコミントメニューに挑戦したいと思っていた久世さん。そこで、3年前にオレンジのシブーストをチョコミントにアレンジした「チョコミントタルト」を作ってみたところ、夏らしい色合いと清涼感が好評を博した。

 その後、ツイッターで「プリンパフェとチョコミントパフェ、どっちが食べたい?」とアンケートを取ってみると、チョコミントパフェを支持したのはたったの3割。

 「逆に好きな人だけ食べてくれればいい、と思ってチョコミントパフェも始めることにしたんです」

 大きくて丸いチョコミントアイスふたつが鎮座したその下に、ゆず風味のガトーショコラ、ミントティラミス、グラノーラ、ホイップ、ミントジュレが重なっている。この写真をSNSにアップし、「チョコミントはじめました」と告知すると、予想外の反響を呼んだ。久世さんはインターネットの拡散力に圧倒された。

 「チョコミントをいつ、誰が発明したかを調べたことがあるのですが、その歴史は謎。でも、何十年も定番フレーバーとして親しまれてきました。チョコミントって一回ハマると抜け出せないんですよね。パクチーもそういうところがありますが」

 夫婦2人で店を切り盛りし、厨房(ちゅうぼう)も小さいため、チョコミントパフェは1日30個限定(夏季は1組に1個)。他のメニューに数に限りがあることを心苦しく思っている。「以前働いていたカフェがかなり忙しかったので、ここではゆっくりやろうと思っていたんですけどね……」と、予想を超える人気に戸惑いものぞく。

 確かに久世さんが作るチョコミントメニューの数々はフォトジェニックなだけでなく、わざわざ並びたくなるほどのおいしさではある。しかし、本棚に目を向けると、雑誌や漫画、サブカル系、猫関連、京都関連の本などが並んでおり、注文したメニューが出てくる待ち時間にパラパラとめくるくらいでは惜しいほどの充実ぶりだ。

 この空間を満喫するなら、あえてチョコミントメニューを見送って、混雑が一段落した夕方に来店するのがいいかもしれない。ひんやりとした板の間に腰を下ろし、気になる本を手にゆったりと過ごすという選択肢も、実はとても魅力的だということを伝えておきたい。

■おすすめの3冊

ブックカフェ727-2

『藤子・F・不二雄SF短編PERFECT版(1)』(著/藤子・F・不二雄)
藤子・F・不二雄のSF短編112話を全8巻に完全収録した“PERFECT版”の第1巻。「藤子・F・不二雄は大好きな漫画家。短編集を読むと、風刺が効いていてブラックなテイスト。“ウラ藤子・F・不二雄”とも言えます」

『夜は短し、歩けよ乙女』(著/森見登美彦)
「黒髪の乙女」にひそかに思いを寄せる「先輩」。京都のいたるところで彼女の姿を追い求め、二人を待ち受ける珍事件の数々とは? 「京都を舞台にした恋愛ファンタジーの名作。純文学的でもあります。うちの店にも森見ファンの方々が訪れることもありますよ」

『私はネコが嫌いだ。』(著/よこた だいすけ)
娘の拾ってきた、ちいさな黒ネコが、突然わが家の一員に――。過去の名作絵本が、昨年復刊。「この絵本に出てくるお父さんは猫が大嫌い。とにかくこの絵本は泣ける! 僕も猫を飼っているから、余計にぐっとくるんです」

(写真 太田未来子)

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CAFE1001
京都市上京区泰童町288(一条通浄福寺西入)
https://www.cafe1001kyoto.com/

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PROFILE

吉川明子

兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体に週刊朝日、アサヒカメラ(「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、婦人公論、BRUTUS、mi-molletなど。
https://www.instagram.com/a_yoshikawa0227/
https://note.mu/akikoyoshikawa

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