このパンがすごい!

【夏休み特集】美瑛の丘にたたずむ、食べて泊まれるベーカリー/ビブレ

じゃがいもパン

じゃがいもパン

■ビブレ(北海道)

 丘の町として知られる北海道・美瑛。傾斜地に色とりどりの農地がつづく「パッチワークの丘」は、絶景の地。その多くは小麦畑で、いま実りの季節を迎えている。夏休み特集として、先週につづき美瑛のすごいパン屋を紹介する。

 小麦畑の丘を抜けると、緑色の外壁に覆われた印象的な木造建築が姿を現す。中に入ってみたいという思いに駆られ、足早に畑を抜け入り口をくぐる。そこに並ぶのはおいしそうなパン。

 ビブレはベーカリー、宿泊施設が併設されたレストラン。札幌のミシュラン3つ星フレンチ「モリエール」によって運営される。ここで一度食べて以来、私の心にずっと残っているパンがある。じゃがいもパン。使われているのは、美瑛産のじゃがいもに美瑛産小麦と、ここにくるまでの畑でとれた地元の素材。

 ハード系のパンに皮付きのじゃがいもが混ぜ込まれている。エアリーでみずみずしく、中身はつるり舌をすべる感じがありながら、がりりと音を立てるほど皮はクリスピー。土地の力が、滋味が乗り移っているかに思えるじゃがいもの力強い風味。そのベースには、春よ恋ならではのやさしい甘さがある。

ラタトゥイユとじゃがいもパン

ラタトゥイユとじゃがいもパン

 このパンがレストランで食事のときに供される(ベーカリーでも販売)。なにより、料理人たちがその日の朝、自ら畑で採ってきたという野菜との相性が感動的だった。取材で訪れた7月、ラタトゥイユに仕立てられていた夏野菜には、とれたての野菜ならではのじんじんとした波動があり、同じく、脈打つように感じられるじゃがいもの風味と響きあうのだ。

 あるいは、鰊(にしん)の脂(あぶら)のハイテンションをいさめるのにすばらしい役割を果たす。スモークされているので、ドイツ料理の連想が働くのか、じゃがいもとの組み合わせを心地よく感じる。

 美瑛の名産であるアスパラガスをゆであげたもの。とりあわされた卵黄のしたたりをすくいだすのに、パンはなくてはならない。そのとき気づく。ソースの中のシェリービネガーの酸味によって、じゃがいもと小麦の甘さがより引き立てられることを。

美瑛豚すね肉のアイスバイン

美瑛豚すね肉のアイスバイン

 豚すね肉のアイスバイン。小麦の香りと獣の風味の相性。肉の香りをパンの甘さが吸引する。肉料理のつけあわせとして定番のじゃがいもは、パンになってもやはり、肉を堂々と受け止めるのだ。

 食事の最後にはプチフールとして揚げパンが出される。きなこがまぶされたなつかしい味は、ごちそうのあとにほっと一息つかせる。

 じゃがいものパンにこんなに力が籠(こも)っているのには理由がある。薪窯の熱量。小川さんは薪窯でパンを焼きたくて関西からここに移住した人だ。

 「火抜けがすごくいいので、力強い味わいのパンが焼けます。ハード系なら、クラスト(皮)が薄くて、中は水分が残ってて、ぱさぱさ感がない。毎日心の中で呟(つぶや)いてます。『(薪窯のパンは)ほんまえーよな』って(笑)。でも、窯の扱いはむずかしいですね。薪の焚(た)き方ひとつで変わってきますし。いい生地があがっても窯の温度に納得がいかなかったり、窯がよくても生地が100点じゃなかったり。両方がイメージ通りに上がったときは最高にうれしいです」

 フランス製のかっこいい窯は性能も抜群で、火を消して帰っても翌日180度を保つほどの蓄熱量。大量の熱で芯まで火を通せるから、おいしいパンになる。

 クロワッサンはぼーんとふくらんで食感もエアリー、まるで空に浮かぶかのようだ。バターの風味は甘くさわやか、北海道の牧場の緑が目に浮かぶ。皮は薄くはらはらと舞うほど乾いているのに、内部はしっとりとしてとろけんばかり。このコントラストは薪窯ならではだろう。

ロデヴ フリュイ

ロデヴ フリュイ

 ロデヴ フリュイのかっこいい外観。ぎゅっとねじった形がうつくしいストライプを作りだしている。生地のやわらかさ、みずみずしさが伝わってくる。中身はあっというまに溶け、ボリュームがあるのにそれを感じさせない。薄い皮はかりかり香ばしく、クルミの香ばしさと合唱する。特によく焼けたはじっこはごちそう。「お焦げ」がおいしいのは、窯がすばらしい証拠である。小麦畑の中のパン屋で小麦のおいしさを120%堪能した。

外観

外観

入口からパン売り場を見る。暖炉に出迎えられる

入口からパン売り場を見る。暖炉に出迎えられる

■ビブレ
北海道上川郡美瑛町北瑛第2
0166-92-8100

パン工房 10:00~ 火曜休み
2017年7月20日(木)~8月31日(木)は無休 
11月~3月は11:00~ 月曜~木曜休み

レストラン(ハイシーズンは予約が必須)
11:00~15:00(L.O)、17:30~19:30(L.O)火曜休み
2017年7月20日(木)~8月31日(木)は無休
11月~3月は11:30~14:00(L.O)、17:30~19:00(L.O) 月曜~木曜休み

>>店内やパンの写真をもっと見る ※写真をクリックすると、拡大表示されます

<よく読まれている記事>

<バックナンバー>
まとめて食べたい!「このパンがすごい!」記事一覧
地図で見る

PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)
http://panlabo.jugem.jp/

【夏休み特集】小麦のふるさと・美瑛の食材でつくる、みんな喜ぶ柔らかパン/フェルム ラ・テール

一覧へ戻る

京丹後でいま起きている、静かなるパン革命/弥栄窯

RECOMMENDおすすめの記事