東京の台所

<150>我が家の生命線。番外編「切らしたら困るもの」

  

台所を訪ね、撮影し、話を聞いて、文章にまとめる。ただただ同じことを繰り返して5年目を迎えようとしている。作業は同じだが、ひとつとして同じ台所はないわけで、飽きることがない。
毎回、取材協力に応募する方をはじめ、いろんな方から感想やご意見をもらう。

「感化されて台所を掃除しました」「どうしたらあんなにものを持たずに暮らせるんでしょう」「台所の話と思って読み始めたら、最後に泣いてた」……etc。
そんななか、「これはどの店で買えるのか」「試してみたらすごくおいしかったです」「わたしの故郷のしょうゆが出てきてうれしくなりました」という反響が多く、隠れたご支持を頂いているのが、フォトギャラリー欄の「切らしたら困るもの」だ。

この項目は、女性誌の編集に携わっていた頃の経験から生まれた。雑貨や食料品など、画角に入っていたメインでない小物に「これはなに?」「どこで買えますか?」という問い合わせが時折きていたからだ。

封を切った使いかけでもどんな状態でもいいから、これがなかったら死んでしまうというくらい好きなもの、そこまでおおげさでなくても、ストックを切らさないようにしている食品、調味料、嗜好(しこう)品と製造元をきくようにした。

じつはこのコーナーに一番影響を受けているのは私かもしれない。本当においしいとほれ込んでいる取材相手の言葉を聞くと、なんだか私まで欲しくなる。辛抱たまらず帰りにスーパーやデパートで買ったこともある。
あるいは、見たこともない地方限定の菓子や酒、保存食品や調味料に魅了され、インターネットで取り寄せたことも数知れず。
究極の口コミであるが、これほど信頼できるものはないと実感した。買って後悔したものがひとつもないのだ。

数ある商品の中から、ストックを切らさず買い続けるものはたいてい1~2品。多い人で数品だ。そこまでのこだわりがひとつもない人もいる。

そういうとっておきの裏側には、必ず物語が隠れている。18歳で上京以来、毎年母が送ってくれる梅干し。初めて彼と暮らし始めたときに買い求めたトリュフ塩。九州の甘いしょうゆ。新潟限定のせんべい。お好み焼きソース(広島県民それぞれ、好みのメーカーがあると知った)、これで淹れるミルクティーでなければ嫌というごく普通のリプトンのティーバッグ……。

その人にしかわからないこだわりや、出会ったときの思い出を聞くだけでも30分などすぐ過ぎる。せんべいを糸口に、思いがけず愛や別れの話が始まることもある。

他人から見たらなんでもない、他愛もないもの。そんな台所を構成するたくさんの脇役から、市井の人々の物語をできるだけ丁寧に紡いでいきたい。

番外編の今回は、取材で知り、私自身が買って試してとりわけおいしかった4年間の選りすぐりをご紹介したい。合わせて、私もまねて買った「手放せない便利グッズ」も添えた。

>>台所のフォトギャラリーへ  ※写真をクリックすると、くわしくご覧いただけます。

PROFILE

大平一枝

文筆家。長野県生まれ。失われつつあるが失ってはいけないもの・こと・価値観をテーマに各誌紙に執筆。著書に『東京の台所』『男と女の台所』『もう、ビニール傘は買わない。』(平凡社)、『届かなかった手紙』(角川書店)、『あの人の宝物』『紙さまの話』(誠文堂新光社)、 『日々の散歩で見つかる山もりのしあわせ』(交通新聞社)、『昭和式もめない会話帖』(中央公論新社)、『新米母は各駅停車でだんだん本物の母になっていく』(大和書房)など多数。HP「暮らしの柄」。
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