花のない花屋

クレマチスを見ると思い出す、優しかった義母に

  

〈依頼人プロフィール〉
矢川幸枝さん 68歳 女性
新潟県在住
英語塾講師

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小さな庭の片隅に、今年も薄紫色のクレマチスの花が咲きました。義母が天国に旅立ったのは、ちょうどクレマチスの時期。あれからはや1年が経ちました。

義母はお花が大好きで、特に薄紫色が好きだったこともあり、私は何年か前の母の日にクレマチスを義母へ贈りました。その後、庭に植え替えるとたくさんの花をつけるようになり、元気な頃の義母は「見て見て! 今年もこんなにきれいに咲いたわ」と喜んでいたものです。

しかし、87歳のときに脳梗塞(のうこうそく)で倒れてからは言葉が話せなくなり、さらに認知症も進んで、お花の話題が出ることはなくなってしまいました。そして1年半の闘病の末、一度も家に帰ることなく昨年5月末に永眠しました。

義母はいつも明るく前向きで、口癖のように「今が一番しあわせ」と言っていました。農業をしながら、倒れる直前まで毎日車を運転したり、お花見に行ったり、同級生の買い物に付き合ったり……。若々しくておしゃれで、人のために何かをするのが大好きな人でした。

10年以上一人暮らしだったので、私たちと同居したときは本当に喜んでくれたのを思い出します。私は海外のボランティア活動のため、子どもを残して1カ月ほど家を空けることが多かったのですが、嫌な顔ひとつせず、すすんで背中を押してくれたのは本当にありがたかったものです。愚痴ひとつ言わず、むしろお小遣いをくれて私を励まし、子どもたちの世話や家事を担ってくれたことは、どんなに心強かったでしょうか。あんなにお世話になったのに、元気なうちに面と向かって感謝の言葉をしっかりと伝えられなかったのが今でも心残りです。

お葬式の当日は、花の時期が過ぎたのにクレマチスの花が一輪咲いていたのが不思議でした。まるで義母が、「私はここにいるよ」と言っているかのようでした。今でも夢に現れて、ニコニコ笑顔を見せてくれる義母へ、心からの感謝を込めて花を贈りたいです。

クレマチスではなくても、薄紫色を基調にした、優しい義母の人柄を表すような花束を作っていただけますとうれしいです。

  

花束を作った東信さんのコメント

今回は“薄紫色のクレマチス”というキーワードがあったので、クレマチスを2種類使ってアレンジしました。クレマチスの園芸種である、ベルテッセンの“アディソニーキング”と“パブロ”という種類です。両方ともかわいらしいベルの形をしています。

ナチュラルな”クレマチスの庭”のようなイメージで仕上げたかったので、庭でよく育てられるベロニカやスカビオサを全体的にちりばめています。

リーフワークはあえて作らず、それぞれの花の葉をできるかぎり生かしながら、さらに蔓(つる)のリキュウソウを加えました。グリーンが多く、自然でみずみずしい雰囲気のアレンジになりました。また、ほかの花を極力混ぜずに、グリーンを多くしたことで、小さなクレマチスの花がより際立つ花束に仕上がったかと思います。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>これまでの「花のない花屋」まとめ読み

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

クレマチスを見ると思い出す、優しかった義母に

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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