パリの外国ごはん

何が出るかはお楽しみ。一番おいしいインド料理

  

イラスト・室田万央里


  

イラスト・室田万央里


  

イラスト・室田万央里

 辛いものが食べたかった。だけど、タイ料理のような甘さがあるものではなくて、スパイシーな何か。野菜も欲していた。それで、ベジタリアンインド料理のお店に行きたい、と万央里ちゃんにリクエストした。「全部を食べ歩いたわけではないけれど、あそこがいちばんおいしいと思う」と彼女が太鼓判を押す、Saravanaa Bhavanに行くことになった。
 地下鉄北駅の1番出口rue du Fbg. Saint-Denis方面から地上へ出ると、通りを渡ったところにお店はある。
 土曜日のお昼に出向いたら、店内は大にぎわいで、どうにか一つだけ空いていた窓際のテーブル席に座ることができた。旅行者らしいバックパックを背負った人たち、家族連れ、カップル。インドの人たちが半分くらいだろうか、あとは東アジア、ヨーロッパさまざまだ。 

中華料理メニュー「万里の長城」も気になる……

 渡されたメニューは5ページあり、ぎっしりと料理名が並んでいた。最後の飲み物に振られた番号は384。よくよく見ると、項目ごとに切りの良い数字から始まっているから、384品あるわけではないようだ。それでも300品くらいは載っていそうなくらい、びっちりと書かれている。

 フランス語のメニューをもらったものの、料理名は英語と現地の料理名がミックスで表記されていて、説明がフランス語になっていた。そしてなぜか、3分の2ほど中華料理になっているページがあり、前菜に続く、米・麺ものの項目には“万里の長城”と銘打ってあった。もっと読み解きたい衝動を抑え、何を食べるか、決めることにする。

 万央里ちゃんが「いろんなのが付いてくる、北の地方のスペシャリテがおいしいから、これは頼もう!」というので、まず一品決定。“Curry”の項目のところにパニール(インドのカッテージチーズ)とあるのを見つけ、硬いお豆腐のような食感のチーズの味を口の中に思い出した。
 それで、3品あるパニール入りの中から、スパイス風味のクリームソースとあるパンジャブ風をチョイス。それにナンと、前菜もひとつ試してみたくて、レンズ豆の揚げ物(vada)も頼むことにした。

 ドリンクは、ラッシーにしようかそれとも他に何かあるかなぁと見てみると、7ユーロという結構なお値段のついた、自家製フレッシュジュースなるものが目に付いた。りんご、パイナップル、オレンジ、それぞれ7ユーロ。ラッシーもビールも5ユーロ、前菜に選んだSambar Vadaも5ユーロ、ナンは3.50ユーロ。とある中で、7ユーロのジュースはとても気になる。子どもの時以来飲んでないんじゃなかろうか? と思われるパイナップルジュースを試してみようと、オーダーした。

  

 果たして注文が…… なんだかインドっぽかった。私はまだインドに行ったことがないのだが、インドに行ったことのある人から聞く話でイメージしているインドっぽかった。こちらの注文が、そのまま捉えられているかがわからない。フランス語も半分くらいしか通じない印象で、いまいち確信の持てないまま、何が出てくるかねぇ、と楽しみに待つ。

 ほどなくして、マサラティーと、前菜に頼んだSambar Vadaが出てきた。メニューにはRasa Vadaというのが真下にあって、それは南インドのスープ“ラサム”にレンズ豆のコロッケが入ったもの、とあった。ラサムとサンバルの違いがはっきりわからなかったから、これはサンバルの方?と聞いてみると、その店員さんは言葉がままならずもどかしそうな感じで、でも、これはサンバルだと断定した。そうなのか、次回ラサムの方を頼んで比べてみよう、と思いながら食べてみる。

 このレンズ豆の揚げ物は、ココナッツでも入っていそうな舌触りで、なんだか不思議。つかみどころがないかんじ。スープは酸味があってスパイスの風味がして、でもこの揚げ物だけをまず食べてみたかった。たとえば、初めておみそ汁の中に入っている油揚げを食べた外国人は、もしかしたらこんなふうに感じているかもしれないなぁと思った。

  

 次にいろんなものが乗ったプレートが運ばれてきた。あれ? これって頼んだやつかなぁ? チャパティ(下の平たい生地)だけだった気がするけれど、プーリ(チャパティの生地を揚げたパン)もついてるし、お米も、白ごはんじゃなかったような……まあいいや、と思っているところへ最後のひと皿、パニール入りのカレーもやってきた。なんと盛りだくさんな食卓。

  

 まずは楽しみにしていたカレーとナンから。ピーマン、たまねぎ、赤パプリカはシャキッとしていてトマトもみずみずしい。ソース自体はクリーミーだし、パニールが入ってボリューム感はあるけれど、フェンネルシード、コリアンダーシード、マスタードシード、きっと他にもいろいろスパイスが入っているのもあって、フレッシュな印象だ。

 次に盛り合わせプレートの方へ。野菜の形が見えるものからひと口。ズッキーニと、結構お豆の味がしっかり。右隣にある赤みの少し強いものを試すと、これは赤ピーマンのような味がした。そして辛い。
 その向こうは、ココナッツミルクベースでポテトにズッキーニ、お豆をつぶしたもの、それにコリアンダーが効いている。その隣にあるものはサラサラで酸味があり汁だけ。手前にあったカリフラワー入りのものを食べると、シナモンの味がほわっと口中に広がった。

 うーーーん、楽しい。いろいろと出没してくる味や香りに驚きながら、でもその驚きを期待しながらゆっくり味わって、楽しかった。

  

 気づくと、私の頼んだパイナップルジュースが来ていなかった。店員さんにまだ来ていないことを告げると、「あ、やっぱり欲しい?」とでも言わんばかりの表情で、「あれ、確信犯じゃない? パイナップルジュース、手間がかかるのかなぁ?」「うん、お客じゃなくてあちらが主導権握ってるね」と二人で笑った。そうしてやっと出てきたパイナップルジュースは、必ずやまた食べに来たいと思う興奮のおいしさだったお料理を上回る、もったいぶって出し惜しみしていたとしても納得してしまうほど、おいしかった。

 後日わかったこと。レシートを見返してみたら、私たちに運ばれてきたものは、北インド料理ではなく、このお店のスペシャリテ、南インド料理を盛り合わせたミールスだった。

  

Saravanaa Bhavan
170, rue du Faubourg Saint-Denis 75010 Paris
01 40 05 01 01
10時30分~23時
無休

PROFILE

  • 川村明子

    東京生まれ。大学卒業後、1998年よりフランス在住。ル・コルドン・ブルー・パリにて製菓・料理課程を修了後、フランスおよびパリの食にまつわる活動を開始。現在は執筆のほか、パリで活躍する日本人シェフのドキュメンタリー番組『お皿にのっていない時間』を手掛けている。著書に『パリのビストロ手帖』『パリのパン屋さん』(新潮社)、『パリ発 サラダでごはん』(ポプラ社)、昨年末に『日曜日はプーレ・ロティ』(CCCメディアハウス)を出版。
    日々の活動は、Instagram: @mlleakiko、朝ごはんブログ「mes petits-déjeuners」で随時更新中。

  • 室田万央里(イラスト)

    無類の食べ物好きの両親の元、東京に生まれる。
    17歳でNYに移り住んだ後、インドネシア、再び東京を経て14年前に渡仏。
    モード界で働いた後に“食べてもらう事の喜び”への興味が押さえきれずケータリング業に転身。
    イベントでのケータリングの他、料理教室、出張料理等をパリで行う。
    野菜中心の家庭料理に妄想気味のアジアンテイストが加わった料理を提供。理想の料理は母の握り飯。未だその味に到達できず。
    Instagram @maorimurota

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