花のない花屋

母と私を支えてくれた、太陽のような叔母へ

  

〈依頼人プロフィール〉
西尾理恵さん(仮名) 26歳 女性
東京都在住
会社員

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中学2年生の頃、母がうつ病になりました。自分をコントロールできなくなった母を当時の私は受け入れることができず、病気のせいだとわかっていても、母を恨まずにはいられませんでした。

そんなとき、私たちを助けてくれたのが、母の妹である叔母です。叔母は、昔から私たち姪(めい)や、甥(おい)にとても優しく、幼い頃は「おばちゃんがお母さんだったらよかったのに」なんて思ったほどです。

病気を発症してからというもの、母はことあるごとに優しい叔母のもとへ行くようになり、叔母はそんな母だけでなく、私の精神的ケアまでしてくれました。

大学受験前日に母と口論になり、私自身、母への恐怖から自分自身を保つことができなくなったときには、叔母は仕事中にもかかわらず、私を迎えに来くれました。その間に、自暴自棄になった母は自殺未遂をしてしまったようですが、叔母も父も弟も、私を守るために大学を卒業するまでその事実を一切話さず、隠し通してくれました。

さらに大変感謝しているのは、叔母は私の前で母の悪いことは一切言わず、ずっと母を立ててくれたことです。私が叔母を褒めるたび、「そんなことないよ。あんたのお母さんの方が昔から料理は上手だよ」「お母さん、ほんと面白いよね! 冗舌なのはお母さん譲りだから感謝するんだよ!」「お母さんね、あんたが受験に合格したって聞いて、実は泣いてたんだよ」などと言ってくれました。今、私が母を愛することができるのは、ひとえに叔母のおかげだと思っています。

「周囲の人がこれだけ私を守ってくれるなら、今度は私がお母さんを支える番だ」。そう思い始めた頃から、私の中で家族愛が大きく形を変えました。

叔母は、今は認知症が進む祖父と二人暮らしです。祖父はたんすの中に電話の子機をしまったりなど、突拍子もないことをしてしまうらしく、会社から帰宅すると、「今日は何をしたかな?」とチェックしているようです。そんな話をするときですら、叔母は「本当に飽きないのよ! 毎日笑わせてもらっている」と、苦労を笑い話にして祖父の近況を報告してくれます。

痴呆が進む祖父との暮らしは決して笑って過ごせることばかりではないと思いますが、いつも明るく振る舞う叔母に、感謝の気持ちを込めて癒やしとなる花束を作っていただけないでしょうか。

叔母は私にとって太陽です。いつもニコニコ笑って周囲を明るく照らしてくれる叔母らしく、ヒマワリなどの黄色やオレンジ、ビタミンカラーの“季節の花”でアレンジしてもらえるとうれしいです。私の好きなトルコキキョウも添えて……。世界に一人しかいない叔母へ、世界に一つの花束をよろしくお願いいたします。

  

花束を作った東さんのコメント

今回はまさに“太陽の花束”です。数々の苦労を明るく乗り越えてきた叔母さまへの花束なので、明るく華やかにまとめました。

中心にあるのは、3種類のヒマワリ。“ゴッホのヒマワリ”“レモンスカッシュ”“ヒメヒマワリ”という、大きさや咲き方が異なるヒマワリをランダムに挿しています。ところどころに見えるグリーンは、それぞれのヒマワリの葉を意図的に残したものです。

ヒマワリの周りには、西尾さんからリクエストのあったトルコキキョウをたっぷりと。中心の濃い黄色から、周辺の淡い黄色へ……主役のヒマワリがより輝くアレンジを目指しました。

今回は、贈られる人を表現したブーケ。おじいさまの介護で大変な時があるかもしれません。そんな時、ときどき花を見て少しでも気持ちが明るくなりますように。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>これまでの「花のない花屋」をまとめ読み

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

母と私を支えてくれた、太陽のような叔母へ

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


本当は伝えたいありがとう 金婚式を迎える父と母に

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