パリの外国ごはん

おしゃれなアフリカ食堂で至福の煮込み「Waly Fay」

  

イラスト・室田万央里


  

イラスト・室田万央里


  

イラスト・室田万央里

 気温が上がらずそれほど夏らしいお天気にならなくても、人々がバカンスに発ち、交通量が減ってメトロも空き、街全体がのどかな空気になることで8月を感じるのがパリだ。
 そんなバカンスモード満載の雰囲気に、11区にある真っ青なひさしが目印のレユニオン島料理のお店を思い出した。行ってみよう!ということになり、待ち合わせをすると……パリ市内にいくつか支店をもつ、小じゃれたタイ料理店に変わっていた。少しこの辺りに来なかったうちに、と残念に思いながら、代わりとなるランチの場所に頭を巡らす。

 その場所から歩いて3~4分のところに、いずれは万央里ちゃんと一緒に行きたい、と思っていたアフリカ料理屋さんがあった。ただ私が何度か行ったのは17年ほど前のこと。変わらずおいしいのかはわからない。とりあえず見に行ってみよう、と向かった。

Aloco, Pepe soupe……知らない言葉がいくつも

 着くと、私が以前訪れた店舗は、店名は掲げられているものの閉まっていて、建物自体の入り口のドアを挟んだ隣に新しい店があり、ランチ営業していた。間口にはめ込まれたガラス戸は開け放たれ、とても気持ち良さそうだ。縦長の店内に沿って、奥まで延びるオープンキッチンはこれまた使い勝手が良さそうだった。「なんかおしゃれだねー」と言いながら、ここでランチをすることにした。

 キッチンにくっついたテーブルに着くと、黒板メニューを置いてくれた。そこには知らない言葉がいくつもあった。Aloco, Pepe soupe, Eli Nazik などなど。その一つひとつを教えてもらい、どんな形状で出てくるか予測のつかない前菜とメインをそれぞれ注文した。

 2人で厨房(ちゅうぼう)をのぞきこんではあーだこーだと言いながら、前菜を待つ。

パリアフリカ3

 運ばれてきた魚のスープと、私が頼んだオクラのフライは結構なボリュームだった。日本のスーパーで売られているネット入りのオクラだったら2袋分くらいありそうだ。

 でも、衣は付いていなくて素揚げしてあり、手でつまんでいたらたちまちなくなりそうな気もした。紫玉ねぎと一緒に揚げてるこの色合いがいいね、とか、この魚のスープは本当に煮込んでミキサーにかけましたって味だよ、なんて2人とも少し興奮していてテンション高めで、パクパク食べた。

 オクラはそのままでも、ピューレ状になっていない自家製ケチャップのようなソースをつけて食べても、いずれにしろ素朴な素材そのままの味でおいしい。が、あれ? 辛い。ソースが辛いのかな? と味見してみると、辛くない。甘い。このオクラ自体が辛いの? とオクラだけを食べてみる。オクラが辛かった。

 でもお皿のどこを見回しても、粉唐辛子のような赤い点は見当たらない。オクラに辛い品種があるのか? とも思ったけれど、もしかしたら、唐辛子の風味をつけた自家製オイルかなんかを作っていて、それで揚げているのかもしれない。揚げ具合もわりとしっかり目で、このピリ辛味は、夏にぴったりだしビール好きに喜ばれそうだなぁ。

 万央里ちゃんのスープは、しょうががばっちり効いていて、本当に“魚入りのスープを作ってそれをハンドミキサーにかけた”味だった。ライムを絞ったら、少しだけあった臭みが完全に消え、よりおいしくなった。

パリアフリカ3

 食べ始める前よりもさらに期待が高まって、メインを待つ。頼んだのはYassa de pouletという鶏肉の煮込みと、maffe de legumesというピーナッツ味のベジタリアンプレート。2つともアフリカの典型的な料理ということだった。

 大皿に2人分を盛ってどーんと登場した付け合わせは、なんとお米だった。へぇーお米なんだぁ、とうれしくも少し肩透かしをくらった気分で、メインの皿によそう。ライムの風味がふんだんな鶏の煮込みは、どこかで食べたことのあるような味だった。ちょっとタジン風。おつゆを絡めてごはんを食べると、玉ねぎの甘みがいっぱいで、もうそれは大好きな味だった。

パリアフリカ2

 私は、肉じゃがでも、じゃがいもはいらないし、お肉もほとんどなくていい。玉ねぎとおつゆが好きなのだ。そしてそれをごはんにかけて食べるのが。その喜びを、このアフリカ料理である鶏の煮込みで、享受できた。
 ひと口味見をした万央里ちゃんに「あっこちゃん前もこういうの食べてたよね。 鶏の煮込み。レモン風味の」と言われ、「あー!モーリシャス食堂で食べたね」と思い出し、自分の好みを認識する。

パリアフリカ4

 お互い夢中になって自分だけの世界に浸りながら食べていて、ベジタリアンのお皿を味見し忘れていた。ギリギリで気づいて、ごはんに茶色いソースのようなペーストのようなものを絡めて食べる。これまたしょうがの効いた、まさにピーナツの味だった。

 聞いたら、生のピーナツ、トマト、玉ねぎ、にんにく、他にもたくさんの野菜と一緒に3時間煮込んで作っているという。とってもごはんと良く合った。ごはんにはバターをあえているそうで、だからかよく絡んだ。そしてやはりピーナツというのは食べ応えがある。お野菜だけでも十分におなかがいっぱいになるだろうな、とひと口食べただけで思った。

 以前からある店舗の方は、夜だけ開けているらしい。私の記憶では、観葉植物が大胆に配置された大人っぽくておしゃれなインテリアだった。オーナーはそのときからずっと同じ人だそうだ。今度は夜に訪れよう。

パリアフリカ5

Waly Fay
6, rue Godefroy Cavaignac 75011 Paris
01 40 24 17 79
12時~15時、19時~23時(~24時 金、土)
無休

PROFILE

  • 川村明子

    東京生まれ。大学卒業後、1998年よりフランス在住。ル・コルドン・ブルー・パリにて製菓・料理課程を修了後、フランスおよびパリの食にまつわる活動を開始。現在は執筆のほか、パリで活躍する日本人シェフのドキュメンタリー番組『お皿にのっていない時間』を手掛けている。著書に『パリのビストロ手帖』『パリのパン屋さん』(新潮社)、『パリ発 サラダでごはん』(ポプラ社)、昨年末に『日曜日はプーレ・ロティ』(CCCメディアハウス)を出版。
    日々の活動は、Instagram: @mlleakiko、朝ごはんブログ「mes petits-déjeuners」で随時更新中。

  • 室田万央里(イラスト)

    無類の食べ物好きの両親の元、東京に生まれる。
    17歳でNYに移り住んだ後、インドネシア、再び東京を経て14年前に渡仏。
    モード界で働いた後に“食べてもらう事の喜び”への興味が押さえきれずケータリング業に転身。
    イベントでのケータリングの他、料理教室、出張料理等をパリで行う。
    野菜中心の家庭料理に妄想気味のアジアンテイストが加わった料理を提供。理想の料理は母の握り飯。未だその味に到達できず。
    Instagram @maorimurota

何が出るかはお楽しみ。一番おいしいインド料理

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