花のない花屋

父に続いて母までも、病気を抱えた両親へ

  

〈依頼人プロフィール〉
角田治美さん 52歳 女性
山梨県在住
図書館司書

1年半ほど前、とてもしっかりしていた父がパーキンソン病を発症しました。父は6人兄弟の次男で、夜間の高校に通った後、16歳から60歳の定年まで電力会社に真面目に勤務し、その後も75歳まで臨時職員として働いていました。昔から体の弱かった母に代わり、炊事、掃除、洗濯なども長年担ってくれたやさしい人です。

病気がわかってからは、薬を飲みながら通院していましたが、次第に症状が悪化。強い薬に変えると、薬の副作用か幻覚が見えるようになってしまい、「家の中に男がいる」「110番してくれ」と訴えるようになりました。

そのうち口もまわらず歩くのが困難になってしまい、入院することになりました。連れて行った病院でも、私の後ろに男がいると言って、手足をバタバタさせて私を守ろうとします。ようやく手続きが終わり、家に電話をしましたが、そこにいるはずの母が出ません。どうしたんだろう? と思いながら実家へ帰ると、なんと居間で母が倒れていました。脳梗塞(のうこうそく)でした。

すぐに父が入院したばかりの病院に運び、治療を開始しましたが、お医者様には「この2週間が山だ」と言われました。無意識に起き上がり、管を抜こうとする母は、体を拘束され、生死をさまよいました。

同じ日、同じ病院に入院した両親。母は7カ月の入院を経て施設に移ったあと、今ではデイサービスに通えるまでになりました。父は、危ない時期が何度もありましたが、最近は安定しています。まだ病院で寝たきりで、栄養は胃ろうで取っていますが、なんとか話もできるようになりました。

自分たちが置かれた状況に涙することの多い両親。それでも生きていてほしいと思う娘から、和やかな気持ちになれるような花束を作っていただけないでしょうか。

父が好きな色は黄色、母が好きな色はピンクです。母はかすみ草も好きなので、どこかに入れていただけるとうれしいです。

  

花束を作った東さんのコメント

今回はお父様が好きなイエロー、お母様が好きなピンクとかすみ草を使ってアレンジしました。

イエローはマリーゴールド、バラ、ガーベラです。ガーベラは花弁が内側に丸まっている珍しい種類です。ピンクはダリアとガーベラ。そこに、イエローとピンクの複色のカーネーションを加えました。

グリーンの葉でまわりをまとめると生き生きとした印象になりますが、今回はやさしい色合いで、穏やかな気持ちになれるような花束を作りたかったので、あえてリーフワークは入れませんでした。その代わり、お母様が好きなかすみ草でぐるりと囲んでいます。まろやかな色味にまとまり、やさしい雰囲気になったかと思います。

大変な状況かとは思いますが、少しでも花を見てほっとしていただけたら。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。
花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

父に続いて母までも、病気を抱えた両親へ

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

facebook

instagram

http://azumamakoto.com/

PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。

〈花のない花屋〉<231>大親友は100歳、祇園の”おかあさん”へ

トップへ戻る

苦労の末の転職、幸せをつかんだ友達に

RECOMMENDおすすめの記事