花のない花屋

寝たきりの私を世話してくれる母へ 「ありがとう」

  

〈依頼人プロフィール〉
長島美穂さん 37歳 女性
埼玉県在住

私は乳がん闘病5年目のシングルマザーで、息子はまだ小学2年生です。今年に入って骨に転移したがんが脊髄(せきずい)に転移し、歩行困難になりました。まさか37歳で寝たきりになるとは思いもしませんでした。

子どもはまだ手がかかる年頃ですが、1日のほとんどをベッドで過ごしている私は面倒をみることができず、70歳になる母に子育てを手伝ってもらっています。

母はフルタイムで働いている産婦人科の看護師で、仕事が終わった後に私の家にきて、洗濯や家事、息子の世話と私の介護をしてくれます。私はオムツなのですが、夜間は介護ヘルパーさんがいないので、悪いと思いつつ、どうしても深夜に母を呼ばないといけないときもあります。休みなく働き続けてくれる母には、感謝してもしきれません。でも……どうしても素直に「ありがとう」と口に出しては言えないのです。

母は、子どもの頃から決して私をほめることはありませんでした。不登校などの問題があった弟はちょっとしたことでほめられていましたが、私は何をやっても“当然”。興味さえないようでした。

母は秋田の貧しい家に育ち、豚や鶏を売ったりして生活していました。真面目で曲がったことが嫌いな反面、世間体を気にしすぎてネガティブ。思い通りにならないことがあるとすぐに怒り、まるで子どものように見えました。「もう面倒を見きれない!」と距離を置こうとした矢先、私が母に頼らなくてはいけない生活が始まりました。

義理の母も自分の両親も、夫も早くに亡くした母は、「老後は自分の人生を生きるんだ!」と張り切っていました。その母がまさか、娘の介護をすることになったのです。母は当初、現実を受け入れられず、自分の仕事と孫の世話、私の介護を抱え、ノイローゼになっていました。

ある日、オムツがなくなってきたときのこと。母に買い物を頼みましたが、なかなか買ってきてくれません。いよいよ足りなくなったので、再びお願いすると、「娘のオムツを買いに行く親の気持ち、わかる?」「なんで私が娘の介護をするはめに?」と文句を言われました。そう言われても……私も好きでそうしているわけではありません。

でも、文句を言いながらも結局はやってくれるし、介護を受けている私は何も言えません。今では思ったことをそのまますぐ口走ってしまう母を受け入れています。

母の言葉に傷つくこともありますが、自分の時間を犠牲にし、優しく世話をしてくれる母に、今は愛を感じています。ゆっくりとではありますが、母は愛情を表現をするのが苦手なのであって、決して私が愛されていなかったわけではない、ということがわかるようになりました。

寝たきりの生活はつらいですが、こうして母と過ごす時間を持てたことはよかったのかもしれません。母はお花が好きで、いつもスーパーなどで安いお花を買ってきては、部屋に生けています。「お花があると違うよね」と言いながら、毎日花瓶の水を換えています。

言葉ではなかなか言えないけれど、東さんの花で感謝の気持ちを伝えたいです。見ているだけで明日の活力になるような、カラフルな花束だとうれしいです。できれば、ヒマワリを入れてください。よろしくお願いいたします。

  

花束を作った東さんのコメント

“明日の活力になるような花”というキーワードをたよりに、カラフルかつパワフルな花束を作りました。個性が強い植物を集めて一つに集結させ、生命力の塊のような花束を作るイメージです。

使ったのは、ダリア、エピデンドラム、トリトマ、ガーベラ、リンドウ、ベニバラ、プロテア、食虫植物のサラセニア、マリーゴールド、カーネーション、ピンポンマム、ピンクッション、チャスマンテ、ナデシコ、多肉植物など……とにかくたくさんの植物を使いました。

リーフワークは縁がピンク色のドラセナを使い、ピンクが外にでるように織って差し込んでいます。カラフルなアレンジですが、赤系統をアクセントにして、全体をまとめました。

大変なことは変わらないかもしれませんが、このお花がお二人のもとにエネルギーを運んでくれますように。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。
花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

寝たきりの私を世話してくれる母へ 「ありがとう」

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。

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