花のない花屋

10億円を超える借金返済。がむしゃらに頑張った私へ

  

〈依頼人プロフィール〉
高橋美智子さん(仮名) 54歳 女性
静岡県在住
会社経営

私は会社経営をしていた父のもとに次女として生まれました。もともとは祖父が100年以上前に創業した食品関係の会社です。しかし、父は私が23歳のときに亡くなり、長女はアメリカ人と結婚して渡米したため、私が結婚して家に入ることに。当時は母が社長でしたが、5年ほどして私の夫が社長を引き継ぎました。

それまではそこそこ安定していた会社だったのですが、夫は男として自分の足跡を残したいという思いがあったのでしょう、新たな分野に打って出て、失敗。会社も家も傾き、倒産寸前になりました。母はうつから認知症を発症。当時、主婦として10歳、8歳、6歳、2歳の子どもを抱えていた私は途方に暮れてしまいました。

結局、創業家の本家筋である私が社長に指名され、「会社をつぶすにも社長が必要だから……」と責任を取るために引き受けたところ、夫は私にも裏切られたと思い込み、夫婦関係もギクシャク。私の親戚ともうまくいかなくなり、夫は家を出ていきました。私には、4人の子どもと認知症の母、10億円を超える借金が残されました。

幸いだったのは、銀行が私たちを支える姿勢を貫いてくれたことです。でも、社長が代わっただけで利益体質になるほど経営はやさしいものではありません。この10年、利益が出そうになると為替の外部要因に翻弄(ほんろう)され、上向きなったと思ったらかつてないほどの自然災害に見舞われるなど、いくらやってもこれ以上無理なのでは、と何度もあきらめかけました。

でも、4人の子どものことを考えるとそこで負けるわけにもいかず、0.5円のコピー用紙にも目を光らせ、2年前にやっと収支がトントンに。そして昨年度、ようやく十数年ぶりに利益が出ました。

2年前、要介護5だった母が82歳で亡くなりましたが、幸いにも会社の復調の兆しが見えた頃でした。「大丈夫だよ」と言って送り出せたことがせめてもの救いです。

子どもたちには、ひとり親家庭だからと悲しい思いをさせないよう、仕事から帰ったら、翌日のために夜中に料理をして手作り料理を食べさせ、できる限りのことはしてきました。おかげで長男、長女は大学を卒業し、無事に就職。あとは次男、三男のみです。

今年に入ってからは、銀行の人から「10年以上苦労した甲斐(かい)があったね」と言葉をかけてもらいました。従業員を路頭に迷わせることもなく、頑張って本当によかったと今は思います。

苦しかったこの10年、実はいつもお花が私を助けてくれました。大学時代は生け花を習い、免状を取るほど花が好きでしたが、社長になってからはまったく余裕がなくなり、お花との縁も切れてしまっていました。

トイレやレストランなどですてきなアレンジを見かけると、涙が止まりませんでした。「私はこういう星の下に生まれたんだから、ここで頑張らなきゃいけないんだ」。花を見てそう自分に言い聞かせ、奮い立たせていました。もの言わぬお花は、多くの言葉よりも私の心をいやしてくれる存在でした。

ようやく会社が軌道に乗り始め、子育ても終わりに向かっているいま、自分のこの十数年の頑張りをほめてあげたいと思えるようになりました。自分へ贈るお花、というのもありでしょうか。

トルコキキョウやバラなど、カーブで形づけられている花や、コデマリ、かすみ草、ランなどが好きです。赤やショッキングピンクなど生命力にあふれ、お花を見て「また頑張ろう」と思わせてくれるような花束を作ってもらえるとうれしいです。

  

花束を作った東さんのコメント

大変な10年間でしたね。心からおつかれさまでした。自分へのご褒美のお花、とてもいいと思います。

赤やピンクがお好きとのことだったので、今回はその2色を中心にまとめました。主な花材は、ダリア、バラ、カーネーション、スカビオサです。ダリアとバラは2種類ずつ違うものを使っています。色や形が違うのがわかりますでしょうか。

まわりはアンティークなローズ色のトルコキキョウで囲みました。赤とピンクだけだとどうしても乙女のような雰囲気になってしまいますが、もう少し大人っぽい雰囲気を出そうと思い、この色を選びました。赤とピンクのグラデーションで華やかですが、それと同時に落ち着きも兼ね備えた花束になりました。

お花がお好きだとのこと。これから少しずつ好きなことをやる時間も増えるといいですね。がんばってください。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

10億円を超える借金返済。がむしゃらに頑張った私へ

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。

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