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優れた青春小説に欠かせないもの。『日曜日の人々』

優れた青春小説に欠かせないもの。『日曜日の人々』

撮影/馬場磨貴

高橋弘希の新作『日曜日の人々(サンデーピープル)』は非常に現代的かつ正統的な青春小説である。

あらすじをざっと説明するとこうだ。 主人公の「僕」は恋心を抱いていた従姉である奈々が自ら命を絶った原因を探るうちに、彼女が参加していた「レム」と呼ばれるグループに行き着く。そこは様々な理由で傷ついた人たちが集まり、おのおのが自分の過去を告白し互いに慰め合う自助グループだった。

そして、グループの代表いわく、彼女の死の原因は「日曜日の人々」と呼ばれる告白ノートに書かれているのだという。僕はその「日曜日の人々」を読むためにレムの活動に参加するのだが、グループの参加者たちと交流していくうちに自分の目的が彼女の死の原因を探ることだけだったのかわからなくなっていき、ついには死の世界にひかれていく。

新興宗教団体を想起させるが、絶対的な教祖はいない

物語の主要な舞台となる「レム」の発足時期は1996年とされており、時代背景からしてどこか新興宗教団体を想起させる。しかしあくまでレムは自助グループなので絶対的な権力を持つ教祖なる人物はおらず、あくまで開かれたサークルとして活動している。それはポスト・オウム的とも捉えられるし、誰でも自由に入退室できるネットのコミュニティーのようにも取れる(そもそもレムは最初にウェブ上で開設された)。

主人公の僕はレムに所属しながらも距離を置いており、かなり懐疑的な態度を示している。つまり主人公ははなから信用などしておらず、傍観者として存在している。しかし前述したとおり、僕は徐々にレムの活動に同化していくことになる。それは一見開かれたコミュニティーのようでいて、閉鎖的で人の内面を侵食するコミュニティーでもあるのだ。

つまり、教祖がいて盲目的に信奉するという上から下への図式から、コミュニティー内でのつながりから追いつめられていく横から横への図式に変わっている。その図式の変化こそがこの小説が非常に現代的と言えるゆえんである。

青春小説とはただ単に主人公がうら若き悩める青年であったり、恋愛や学生生活が主題であったりすれば自然と成り立つものではない。

個人的には青春小説とは主人公がいかに青春時代を喪失するか、もしくは決別するかによってその作品の質が変わってくるものだと思っている。そして例に漏れず優れた青春小説には必ず何かしらの喪失感が漂っている。『三四郎』や『されどわれらが日々――』『ノルウェイの森』しかり。

その点で言うとこの小説は常にどこか喪失感をたたえており、それが読む者の心の奥底を揺さぶりつかんで離さない、まさに優れた青春小説の系譜に位置する作品であると言える。

作者の高橋弘希はこれが4作目(単行本化されていないものは除く)で、毎回異なるテーマと時代背景を用意する。語り手となる主人公のタイプも毎回変わるが、毎回主人公の「声」(つまりその主人公の思考であり主観)が作り物らしくなくしっくりくるのは作者の力量に他ならない。抑揚の効いた文体ながらリズム良く、ところどころに挿入される情景描写は正確かつ美しい。

この先、作者がどう進んでいくのかは誰にもわからないが、個人的にはこの作者を向こう10年は応援したい気持ちでいる。そしてもっと長大で深淵(しんえん)な作品を生み出してくれることを期待してやまない。

(文・松本泰尭)

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松本泰尭(まつもと・やすたか)

人文コンシェルジュ。大学卒業後、広告代理店などメディア業界で働いたのち、本の仕事に憧れて転職。得意分野は海外文学。また大のメジャーリーグ好き。好きな選手はバスター・ポージー。

デザイナーが趣味で作るから面白い。ZINE「Hey Taxi」ほか

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