花のない花屋

大正、昭和、平成を生き抜いた100歳の祖母に

  

〈依頼人プロフィール〉
楢原昌美さん 44歳 女性
神奈川県在住
公務員

大正6年生まれの祖母は、今年の2月で100歳を迎えました。夫を戦争で亡くしたあとは夫の弟と再婚し、長野県の自ら開拓した土地で農業をし、休む暇なく働いてきました。

当時はたばこや加工用トマト、パセリなどの出荷をしながら乳牛も飼っていたので、早朝から夕方まで本当によく働いていました。現在のように便利な農業機械があったわけではなく、人の力が頼りだった時代、生計を立てていくのは大変だったと思います

孫の私のことはとてもかわいがってくれ、週末などに遊びに行くと、農作業の合間を見ては近くの河原に連れて行ってくれました。私は河原に行くのも大好きでしたが、祖母と一緒に農作業をし、褒めてもらうのも大好きでした。

ずっと気丈な祖母でしたが、近頃は友達もみんな亡くなってしまい、気落ちすることが多くなったようです。

大正から平成までの日本の一番大変な時期を生き抜き、私に命をつないでくれた大切な祖母に、平成の次に来る新しい元号を見届けてもらいたいと思っています。

祖母とは離れて暮らしているので何もできず、物理的な距離がもどかしいです。でも、心の距離は感じてほしくないので、お花という形で私の気持ちを伝えられたらうれしいです。

祖母はずっと農家だったので、自然の恩恵をたくさん受けたと同時に、泣かされたことも多かったと思います。それでも自然が大好きで、自然に感謝し、自然とともに生きてきました。

100歳なので、100年間で見たことがないような珍しい花を集めた花束を作ってもらえないでしょうか。田舎なので花はたくさん咲いていますが、そんな祖母でも見たことのない花を見せてあげられたら……。ご近所の方が花を見に集まって来てくれたら、少しでも明るい気持ちになれるはずです。目が悪いので、コントラストのはっきりしたお花をお願いいたします。

  

花束を作った東さんのコメント

今回は珍しい花をたっぷり使い、カラフルに仕上げました。カラフルとはいえ、キーカラーを赤やピンクにしてまとめたので、きつい印象ではなく、どこかかわいらしい雰囲気が残っているかと思います。

中心に挿したのは、これまでの連載でも何度か出てきているプロテア。その近くにある赤い縁の葉はプロテアの葉です。その周りには、黄色や黒のカラー、ダリア、トリトマ、アンスリウム、ベロニカ、ピンクッション、エピデンドラム、クルクマソウ、ケイトウ、アガパンサス、テッセン、ファレノプシス、ガーベラ、ジニア、ヒメユリ、カーネーション、グズマニア、アイソポゴン、フォルモサ、変わった色合いのオンシジュウムの仲間“ワイルドキャット”など、とにかくいろいろな花を挿しました。リーフワークはグリーンのオケラです。

おそらく、ふだんあまり見ない花々ばかりでしょう。おばあさまはどのような反応でしたでしょうか。この花をきっかけに、少しでも元気になれますように。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

大正、昭和、平成を生き抜いた100歳の祖母に

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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http://azumamakoto.com/

PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。

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