花のない花屋

病気をきっかけに気がついたお互いの思い、元彼へ

病気をきっかけに気がついたお互いの思い、元彼へ

〈依頼人プロフィール〉
小山美穂子さん(仮名) 40歳 女性
東京都在住
歯科医師

今年、離婚をした1カ月後にがんの再発がわかりました。さすがに別れたばかりの元夫に連絡するのはためらわれ、自然と20代の頃につきあっていた彼に連絡をしてしまいました。というのも、風のうわさで彼もがんを患い、克服したと聞いていたからです。“再発”という重い話は、自分よりも年上の両親や、友達にはなかなか伝えづらいもの。同じ病気になり、死に直面したことのある人ならわかってくれるかもしれない……という気持ちがありました。

彼はまるで自分のことのように恐怖し、苦しみ、涙し、奔走してくれました。電話で話したり、会ったりしているうちに、あるとき彼は、私と別れた理由は私の個性に押しつぶされそうになったからだと言いました。たしかに、帰国子女だった私はちょっと変わっていたかもしれません。大学を卒業した後、就職して結婚……となるのでしょうが、ふと歯科医になろうと思い立ち、歯学部に入学し直して、歯科医になりました。そんな私と一緒にいるのが、彼はしんどかったのかもしれません。でも、聡明(そうめい)で才能にあふれた彼はその後人一倍努力し、それまで以上の活躍をして、とても大きな人間に成長していました。

ボタンを掛け違えるように、私たちの人生はすれ違ってしまいましたが、病気になったことで、私も彼を思い、彼も変わらず私を思ってくれていることを強く感じることができました。これは愛情ではないのかもしれません。それでも、お互いの気持ちが初めて通じ合ったことが、今回の試練で唯一の幸せであったと思います。そのきっかけが病気でなかったら、どんなによかったことか……。しかし、それが私たちの運命であり、だからこそ命をかけてお互いの大切さに気づかせてもらったのだと思います。

お医者さんは「10年生きている人もいる」と言いますが、近い将来、私は彼を残して去っていくことになるかもしれません。彼がどんな困難に見舞われても、支えになることも、そばにいることもかないません。家族でも恋人でもない私を思ってくれる彼に、私は何をしてあげられるのでしょうか。何か残してあげられるものはあるでしょうか。

せめていま、彼に寄り添い、支えになるような優しい花を贈りたいと思い、筆をとりました。個性が強かった私を唯一かわいいと言って抱きしめてくれた彼を、これからもずっと包み込んでくれるような、クリムトの絵画「人生の三段階」のような花束を作ってもらえないでしょうか。これからの二人に勇気を与えてくれるような、華やかでたおやかな花を束ねて……。

ちなみに私は東さんと同じ1976年生まれです。同世代を生きる東さんに、私たちの人生を形にしてもらえたらうれしいです。

病気をきっかけに気がついたお互いの思い、元彼へ

花束を作った東さんのコメント

クリムトの絵画、「人生の三段階」をイメージしてアレンジしました。キーカラーは、この絵の特徴であるブルーとオレンジです。

オレンジ系の花は、ダリア、ポンポンダリア、ケイトウ、カーネーション、エピデンドラム、シュウメイギク、ヒメユリ、リューココリーネ、そして周りに挿したオーストラリア原産の珍しい形の植物、バンクシア。

ブルー系の花は、アガパンサス、リンドウ、テッセン。そして、オレンジとブルーをつなぐ役割として、白い小花のアスターをところどころに加えました。

ブルーとオレンジの組み合わせはとても新鮮で、なんともいえない不思議な美しさのある組み合わせですね。この花束にのせて、小山さんの思いが彼に届きますように。

病気をきっかけに気がついたお互いの思い、元彼へ

病気をきっかけに気がついたお互いの思い、元彼へ

病気をきっかけに気がついたお互いの思い、元彼へ

病気をきっかけに気がついたお互いの思い、元彼へ

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。
花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

病気をきっかけに気がついたお互いの思い、元彼へ

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。

大正、昭和、平成を生き抜いた100歳の祖母に

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